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ある音楽家との出会い

星夜と美緑、2人のユニット名は、

【ALMACH】(アルマク)。

これは割と直ぐに決まった。

名前の由来は誕生星。

星夜と美緑は誕生日も一緒。ここを使わない選択肢はないだろうという事で、すんなり決まった。

そしてアルマクは、出来上がった曲をYouTubeやSNS等にどんどん配信していった。オリジナル曲だけでは流石に全く認知されない為、有名アーティストの曲をカバーしたりもして、コンスタントに配信本数を増やしていった。因みに2人は顔出しは一切していない。これはお互いの共通理解の元、この先も変わらなかった。

オリジナル曲がまだ少ない為、どうしてもカバー曲ばかりになってしまうが、100本ぐらいの配信をしたところで、1ヶ月程音楽活動を休止する事にした。別に嫌になってそうした訳では無く、互いになんとなくそう思ったからだ。

また1ヶ月後に集合し、お互いにオリジナル曲のデモを用意してくるというルールだけを設けて、2人は元々の日常に戻っていった。


美緑は本来、真面目な男だ。

昔は結構マイペースで、独自の世界観の中で生きている印象だったが、ユキちゃんとの出会いにより、角が取れてすっかり誠実な人間になっている。仕事帰りにスタバに寄って曲作りのイメージに没頭したり、家にいて浮かんだアイディア等を定期的に星夜に対して報告をくれる。マメな男だ。

一方の星夜は、やる時とやらない時がはっきりしている。基本的にサボりグセがついている事もあり、今は星夜の方がマイペースで周りを振り回している。すっかり自由人で、気分が乗らない時は一切何もしない。勝手な男だ。

これまでにもたまに2人で会う時には行きつけの居酒屋がある。

『前のめり』という住宅街の中にひっそり佇む、味のある歴史を感じるお店だ。

この店の大将は、閉店後には2人と一緒にお酒を飲むのが定番だ。年齢が70歳という事もあり、続けられてもあと5年ぐらいかなぁ…。と時折寂しい現実を語る様になって来た。もう直ぐ夫婦で結婚生活50年程になるという。破天荒な旦那を支える『内助の功』という言葉がぴったりな奥さんだ。

夫婦で50年も共に生きていくと、やっぱり色々あったそうだ。それでも今、こうやって夫婦で仲良く生きている。奥さんから言われて印象的だった言葉がある。

「プラス思考とマイナス思考の人がいるって良く言うでしょう。それは発する言葉でわかるものではなくて、自分に起こった事に対してどう捉えるかで決まると思うのよ。」

そんな事を言っていた。この時星夜は、

『なるほど…。』と妙に納得したのだ。

前向きな言葉をかけてくれる人は身の回りにもいる。しかしそう言う人も、自分にとって良くない事が起こった場合に、それを受け入れられずずっと立ち止まってしまったままだったりもする。起こってしまった事は、良い事も悪い事もそれで仕方ない。じゃあそこからどうするんだ?その時に起こす行動が、本当のポジティブかネガティブかを決めるという事だと解釈した。人生のどん底も経験して来た人達は強い。そしてその言葉は、何故か凄く心に響くのだ。


そんな温かい店に、美緑とユキちゃんが2人で行った時の事。いつもの席に座って、美緑の好きなアジの刺身や舞茸の天ぷら等を中心に注文を終えて、美緑が自らの音楽活動について語り始めた。真剣な眼差しで作成中の曲の事や、現状の課題等、とにかく饒舌に話す。それをふむふむと聞いているユキちゃんには、美緑が今、とても楽しそうにしているのがわかる。

好きな事に没頭している時というのは、老若男女問わずキラキラしているものだ。美緑の話が弾んでいるところに、2人が座る直ぐ後ろのカウンター席で、1人で呑んでいる男性がふらっと声をかけて来た。この様な光景は、このお店では良くある事だ。皆んな上機嫌で飲んでいる人ばかりなのだ。

「兄ちゃん、さっきから音楽の事を熱く語ってるな。」

年齢は60台後半ぐらいだろうか。白髪でやや長髪。ヒゲも綺麗に整えられていて、何だかオシャレだ。身長も年齢の割に高い方でとてもスマート。

「ああどうも。最近また音楽に力を注いでいるんですよ。」

その男性はユキちゃんの隣に腰掛け、しばらく美緑と音楽談義に花を咲かせていた。

名前は、(きよし)さんと言うらしい。

清さんは、若い頃から音楽の道に進み、プロを目指していたそうだ。

【矢沢永吉】や【沢田研二】等、当時人気だったミュージシャンの事を話たり、ずっと金のない人生だったと笑いながら話していた。

「若い時は結構モテて遊んだんじゃないですか?」

そう美緑が聞くと、清さんは、

「ああモテたな。兄ちゃんより少しだけカッコ良かったからな。」

そう言って場を和ませた。

「ずっと音楽で生きて来たなんてかっこいい事が言いたかったが…。なかなか厳しい世界だ。俺は結局自分の事しか考えてこなかった。どれだけの人に迷惑をかけて来たか。でも若い時はこう言う事も人に言えなかったなぁ…。」

時折、ぼんやり斜め上を眺めながら物思いにふけったような言い回しをする。

「清さんは、お独りなんですか?」

ずっと黙って聞いていたユキちゃんが急に質問した。清さんは少し間をおいて、

「一緒になろうと思った人がいたんだが…またその後に出会った人と1度結婚したよ。けど長く続かなかったな。もう30年以上は独りだよ。」

そう答えてくれた。


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