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人間の本質

星夜が今迄見てきた支店長は、勿論皆が良いところばかりでは無い。これは星夜自身もそうである様に、人間なので足らずまいはある。

しかし、都築支店長は、そのどの上司達とも違う。1つ決定的に違うところは、営業社員達からとても『監視されている事』。だと思う。

聞いてもいないのに、星夜の元に支店長の様々な情報が入ってくるのだ。

『仕事もせず、また家に帰っている。』

『仕事中にパチンコに行っている。』

『仕事中にジムに通っている』

『全然同行してくれない』

『建物着工前の地鎮祭に絶対に来ない』

『文句を言ったら違う支店に飛ばされる』

『とにかく自分を守るウソばかり』

『課長の前で他の課長の悪口を平気で言う』etc…。

よっぽど鬱憤が溜まっているのだろう。後に星夜は、これらの情報が全て事実だと知るのだ。『政治家みたいな人だな。』

最初はその程度に思っていたのだが、星夜自らもその様な体験を数多くする事となる。


ある社員が退職して行った時の事。

営業先でばったりその人に出くわした星夜は、都築支店長には気をつけろと助言を受けたのだった。丁度その頃、星夜の課の新人社員に都築支店長から連絡があり、案件の進捗方法について、課長と支店長の意見が全く違うのでどうしたら良いかとの相談を受ける事があった。

星夜はこの時に『なるほど』と思った。

これをやられると、課長職の人間達はきつい。『一緒に』現場に出向き、お客様の反応や様子も伺いつつ、アドバイスを頂く分には、上司の指示も大切な役割を果たす。しかし、全く同行をしない、お客様の顔も知らない人間が、課長をすっ飛ばして営業社員に直接指示を出せば、その社員が混乱するのは当然の事だ。ただし、この件については、他の課長達から散々同じ事をされていると聞かされていた。星夜は、腹を割って直接都築支店長と話そうと思った。

だが、この『腹を割って話す』ということがそもそもできないのだ。その場では取り繕った様な対応をしても、直ぐに同じ事を繰り返してくる。星夜はこの時に、

『偉そうにはしたいけど、この人には自信が無いんだな。』という仮説を立ててみた。

そして、星夜の課の新人の案件を『最後まで』都築支店長に同行をお願いする事にした。


営業課長は多忙なポジションだ。何名もの営業社員の同行をしなければいけない割に、自らの契約も獲らないといけない。どんな形であれ、上席の人達にも協力してもらわないと体が持たない。コロナ後は、会社の業績の悪化もあり、経費削減でかなりの人件費を削っている。よって、1人1人の管理職者にのしかかってくる仕事量は膨大すぎる。幸い、星夜の課は支店でダントツトップの成績だ。会社も支店長に対して同行支援は惜しまない事と通知している。星夜としては普通の事を相談しているだけだ。


課の新人社員から相談の連絡があった。

「支店長には同行してもらいたく無いです。」

話を聞くと、お客様のことは傲慢な態度で怒らせてしまうし、案件進捗の際の打ち合わせはたいした時間もかけずで大丈夫と言ったくせに、商談後に準備不足だとダメ出しされた様だ。

因みに他の社員達からも同様の声が続出。

これ以来、星夜は都築支店長へ同行を依頼する事は無くなった。


この支店には、経験豊富なベテラン課長達が沢山いる。建築や仲介部責任者達も優秀な人が揃っていて、事務員も優秀。星夜は最初の1年目で、この支店が何故数字は作れているのか察しがついた。悔しい思いをしてきた人達が沢山いるはずだ。星夜もその1人となる。

まあそうは言っても、同じ支店で共に働く仲間だ。ネガティブな事ばかり考えるのも良くない。星夜はこの時、あえて都築支店長との距離を縮める為に積極的にコミュニケーションを取るようにしていた。支店長も50代後半、この世代の人達はヨイショされて気分が悪い人もいない。

だが、星夜のその考えは甘かった。星夜は成田課の成果は上げつつも、他の課長から出てくる意見等を都築支店長にやんわり伝える役周りもしていた。何の結果も出す事無く、ただ不平不満を言うのは良くない。あくまでこの支店の中にいる社員達がより働き易くなれば良いし、ちゃんと結果が自分に返ってくる様であれば、より意欲も向上する。その中でも挑戦する必要のある事、無駄を排除する事も皆で考えていくべきだ。

しかし、都築支店長の場合はいつだって自分が最優先なのだ。誰しも自分は可愛いはずだから、まず自分を守る事を考えるのは人として間違っていないと思う。問題なのは、

『自分が最優先で結局自分さえ良ければ良い』と言うスタンスの人が多くの社員達の上に立つと、本当に残酷だ。

この辺りから各部署の管理職者達が退職していった。

『後でちゃんとフォローするから』

と無理難題を押し付けられ、実際に何か起こった場合は、自分以外の何かや誰かのせいにして直ぐ逃げるのだそうだ。これはちなみに退職して行った人に限らず、異動して行った人や、今もこの時点ではらわたが煮えくり返っている人達が沢山いる。


そして、星夜には頻繁に異動の話が出た。

これは後にわかった事だが、自分のポジションを脅かす可能性がある人間はなるべく排除したいのだ。しかし、数字を勝手に作ってくれる成田課の様な組織がいなくなったらなったで困る。星夜は、年老いた親達の事等も考えても、環境的に異動する希望は全く出していなかった。自らのメンタルの問題も抱えている為、

これ以上の仕事量になるのも結構きつい。

その為、星夜は自ら会社に職群について申し出た。

この会社には『総合職』と言う全国転勤が伴い、会社から通達された場合は、事業所長になる可能性がある事を了承している人がなるものと、『地域特定A』、『地域特定B』と言う、

近隣の支店への異動は了承するが、営業課長以上は、何らかの事情によりなれませんと言う人等、自らがどのように働きたいか選べるシステムがある。

勿論デメリットもあり、『総合職』以下の職群は、給与やボーナス査定に影響してくる。

星夜は多少給料が下がっても、この環境を維持出来る方が良かった。会社や支店に数字できちんと貢献していれば問題無いだろうと思っていた。


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