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気になる顧客

ご長女夫婦とは、昨日は留守でお会い出来なかったので、翌日再度伺ってみた。この日はご長女にたまたまお会い出来た。割と物静かな方だが、過去に今根課長から提案を受けた事は覚えていてくださり、少し雑談をした。この時も、相続税についてはやや心配がある様子だった。ただ、

「父は頑固だから、何言っても聞かないと思います。」と言っていた。

星夜は、ご長女に聞きたい事が2つあった。

1つは、前回の提案の際、ご主人様は反対がなかったのか?これは本当の反対者が誰だったのかを確認しておく為だ。ご長女からは、

「主人はお父さんに頭が上がらないので何も言えませんし、私に委ねるスタンスでした。基本的にそこはどんな時も一緒です。」

と言う言葉が返ってきた。2つ目の質問で、

「今度は相続税対策も出来る駐車場だけで提案してみようと考えています。お父様がOKした場合はご長女さんは反対無いですか?」

とお聞きした。

「相続税対策が出来るならありがたいですが、それをしてしまったら、いつか自宅併用で建替えたい時にお金が借りられますか?」

とご長女からは返ってきた。星夜は、金融機関的にはどちらも実現可能だとわかっていたが、「銀行にも確認して来ます。もし、そのご心配が解消された場合は、是非、真剣にご検討願います。」と伝え、ご長女夫婦にはお父様と約束した別の日に約束を交わした。

これは、提案した時のお父様の反応を聞いてからご長女夫婦に話したかった事と、ご主人様にこの時点ではお会いできていなかった為だ。

地主様の中にも様々な家族がいる。どのタイミングで一緒に聞いてもらうのが良いのか?

ここを見誤らない事はとても大切な事なのだ。


星夜は胸騒ぎがしていた。今根課長に同行した時にお会い出来た高島様の件だ。

星夜はこの時既に、高島さんはアパートを建てるだろうと思っていた。後はそのご決断の時期と『どの会社で建てるか』だ。

もうひとつ確かな事は、高島家はアパートを建てて相続税対策する事で、状況が好転する事もわかっている。今根課長と提案プランを練り、資料作成には町田さんと宮田さんに協力してもらった。今の世田谷営業所には、

この『役割分担』が出来る。

愛知県にいた時は当たり前に出来た事だし、

同じ営業所内で一連の事が全て賄えた環境とはまだ雲泥の差だが、人員不足の首都圏では、

星夜がこちらに来た当初よりはまだ良くなった。

そして、準備が整った当日、星夜と今根課長は高島様宅を訪れた。面倒くさそうに

「まぁいいわ、やらないから。」と言われたが、何とかテーブルを貸してもらった。

事前の打ち合わせ通り、今根課長に説明を任せ、星夜はその反応を隣で見ている。ひと通り説明が終わったが、高島さんはやらないと言っていた。

この日は、とにかく明るい雰囲気で気楽に聞いてもらえればそれで良かった。そんな中で、星夜はお父様にいくつか質問した。

「仮にどちらかで建てるとしたら、自宅併用か駐車場だけかどちらが良いですか?」

お父様は、『どちらも嫌だ。』と言った。

星夜は続ける。

「そうなんですね。因みに相続税はかなりの額ですが、お父様の預金で払えそうですか?」

お父様は少し黙り、

「まあ、何とかなるだろう。俺が死んだ後の事なんて俺が考える事では無い。」と言った。

この時点ではお父様は、ストレスを感じている様だった。星夜は、

「率直なご意見を聞かせて頂き、ありがとうございます。」

と丁寧にお礼を言い、明るい笑顔であっさりとその場を去る事にした。しばらく星夜は無言で歩いていた。今根課長も無言で後ろをついて来たが、気になって耐えきれなかったのだろう。「高島さん、どうですかね?」

と聞いて来た。星夜はにっこり笑ってこう言った。

「今根課長!この案件は今までで1番良いね!流石だよ。頑張ろうね!」

今根課長は少し安心した様子で、頷いた。

星夜は、帰りの車内でも高島さんの事だけを考えていた。


今日はちゃんと収穫があった。

まず、お父様は借金が怖いのだと思う。

これは、賃貸経営のご決断をする際に少なからず誰もが抱えるものだ。お父様の立場からすれば、かわいい娘の前で弱いところは見せたくない。きっと断る際は違う理由にするはずだ。

そして、相続税を払える預金は持ち合わせていない。そもそもかなりの額なので足りない家が殆どだ。ある程度蓄えのある方で、自分の知識に自信を持っている方にはもっと強くあしらわれる。高島様は割と自分に自信を持っている方だ。それでも話を聞いてくれたところを見ると、気にはなっているのだ。情報は欲しいのだと思うが、まあ最悪、家の前の駐車場を売却すれば何とかなるだろうと考えているのではないか。星夜はそう感じていた。

この時点で、どの様に進捗させるべきかある程度頭の中で整理出来ていた。勿論、他社競合になる可能性は高いだろう。


お父様に商談した2日後、事前にアポイントが取れていたご長女夫婦に提案させてもらった。

ご主人様にはこの時初めてお会いしたが、温厚でとても良い人だ。お話好きそうではあるが、今回の提案については、妻と父で決める事というスタンスだった。事前にご長女が言っていた通りだ。話を進めていくにつれて、相続税対策については、想像以上の納税が必要と解ったからか、ご夫婦である程度早く決断しなければいけない認識を持ってくれた。

元々ご夫婦としては、自宅を建て替えた自宅併用がしたかったが、今回の駐車場だけに新築アパートを建てて借入をしても、自宅の敷地の担保評価を考えれば、自宅併用も後に融資が可能だと複数の金融機関から了承を得ていた。この件に関しても、ご夫婦としてはホッとした様子だった。

ご長女も父親思いの良い人だ。自宅併用については父の想いを尊重してあげようと考えていた。その代わりに、相続税対策で駐車場にアパートを建てる事を了承してもらおうと言う話になった。帰り際に星夜は、

「次回もしお父様が反対をしても、私達はこの計画を進めたいとハッキリ意思表示してください。」とご長女にお伝えした。

次回は3人で一緒に聞いて頂く事になった。

今回の提案は、ご夫婦の2人に留めておいて貰う事にした。お父様にはあえて声をかけず、当日にそのまま一緒に聞いて頂く。高島家は、まだお父様の方に決定権がある。自分達のいないところで話し合いが行われると必ずこじれる。これは星夜の経験から察知した勘だ。


営業所に戻り、次回用の提案書作成に着手した。

『提案書は必ず1日寝かせる。』

これは星夜の持論だ。提案日当日迄のスケジュールをたてる為、この事は頭に入れたうえで手順を踏む。どれだけ真剣に懸命に資料を作成しても、1日置く事でより冷静に客観的に見る事が出来るし、夜寝る前か朝に新たなアイデアが生まれる事がよくあるからだ。

資料作成には町田さんがいつもプラスアルファを加えてくれる。しかも作業スピードも早いので、むちゃぶりに答えてくれるのも頼もしい。言われた事が言われた通りに出来る人は十分に優秀だと思うが、こちらの希望や期待を超えてくれるのが町田さんの提案資料だ。宮田さんも含めてだが、この2人には出来るだけ長くここで一緒に働いて欲しいと願っていた。

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