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首都圏の課題

営業は、お客様に提案して、何度もプランの打ち合わせを重ね、概ねお客様とそのご家族が合意しても、金融機関がお金を貸してくれなければ契約出来ない。

正直、この一連の流れはとてもグレーゾーンが多い。その中でも星夜の勤める会社は、割とこの決まり事を守っていた。お客様の立場で言えば、契約内容が説明通りであり、金融機関からの正式な了承が得られても、無事に着工出来るか、工事は滞りないか、説明通りの完成図になっているか、そして、完成した物件がちゃんと満室になるか。これら沢山の『心配事』がある。

そして、営業の立場で言えば、苦労して苦労して他社との競合にも打ち勝ち、有り難くご契約頂けたとしても、その契約が着工しなければ、完工しなければ、報奨金は懐に入ってこない。


この首都圏ブロックで働き、大まかに言えば大きな課題が2つあったと思う。

1つ目は、お客様に提案するプランを作成する際の設計図面や金額の辻褄合わせに必要な積算の完成に大幅に時間がかかる事。

東京都内には、狭小地や変形地に高層の建物が多く建設されている。世田谷に当てはめてみれば、『低層地域』と呼ばれる地域が7割前後を占める。低層地域とはあらかじめ建築する上で高さが10〜12m程に指定されている地域の事を指す。細かく言えば都内には様々な建築条例があり、プランを考える上で避けては通れない

『しばり』があるのだ。

世田谷区は閑静な住宅街というイメージを持たれる方も多いだろう。そもそもこの様な地域分け、条例等がある為に、3階建以上の住宅や賃貸物件が少ないのだ。当のお客様達は、そんな細かいところまでは知らずに自分達の理想を叶えたい。最終的には出来る事、出来ない事の中で、ギリギリ目一杯のプランで着地する。

23区内の新しい営業所は本当に後回しにされていた感は否めない。それだけ要望が複雑になる為、大抵設計の人には『無理』とか『出来ない』と突っ返される。この攻略には毎回本当に苦労した。依頼される数に対して対応する設計者の数も圧倒的に足りない。これは、正直現場の人間同士だけでは無く会社が考える問題だ。


2つ目は、施工経験豊富な人材がいない事だ。

契約後、様々な準備期間を経て着工に進む。

だが、この着工迄の期間があまりにも時間がかかり過ぎる。建築の言い分としては人がいないという事。結局これも現場の社員だけが抱える問題ではない。1人の人員に対して業務が膨大に当てられ過ぎて、全ての業務に時間がかかる。仕事を詰め込み過ぎると必ずミスが起きる。

やがてそれが大きな問題につながる。そうしているうちに社員が辞めていく。

正直、建築さん達は他社も含めて働き口に困る事はない。無理に苦しい職場にとどまり、自らを擦り減らす必要もないのだ。この準備期間に時間がかかり過ぎると必ず他社が介入してくる。契約後にキャンセルになったという噂をこの首都圏ブロックに来てから何度聞いた事か。工事がスムーズに進まなければリピートも無くなる。そして、それは営業にも大きくのしかかって来る。

契約出来ても着工出来なければ、営業には1円も入ってこない。これで辞めていく社員も多い。これが2つ目の大きな問題だ。

この頃、色々相談が出来た神島さんも違うブロックに移動してしまっていた。途方に暮れる毎日を星夜は過ごしていた。


新たな編成もあり、また人の異動が多くあった。世田谷にも派遣が2名入った。

1人は、営業の事務サポートのようなポジションで、【町田さん】という女性だ。もう1人はCADのサポートをしてくれる【宮田さん】という女性。星夜が面接に立ち会った2人で、是非うちに来て欲しいと思っていたので、とても嬉しかった。何よりこれで星夜はもう少し現場に営業支援に出られるだろう。そして新しい支社長として星夜の上司となったのが、

土橋(どばし)支社長】だ。

京都出身の関西人で新卒からこの会社にいる。元々、教育担当として、新人の育成にも力を注いでいた経験があり、営業としてこの関東や首都圏に来て10年程の経験を持つ。土橋支社長は、かなり厳しい人だ。自分の経験や能力に自信を持っており、相手に有無を言わせないところがあった。星夜は、最初は何度かこの土橋支社長とぶつかった。但し、今の星夜に必要な事はただ上司とぶつかる事ではない。


実は、この頃星夜は鬱病の制御できない部分がまた強く出始めていた。足掻いても足掻いても光が見える気配もしない。そんな毎日を繰り返し、人との衝突でイライラが重なり不安定になっていたのだ。説明するのは難しいが、気持ちは休みたいのに、見えない何かに体が動かされている。そんな感覚だったろうか。しかしある夜、1人でベランダで黄昏ている際にふと

『何のために』がよぎった。

自分は何故ここにいる?自分の存在意義とは?そんな事をふと思ったのだ。

そして、星夜は決めた。

『変えるのは周りではなく、まずは自分からだ。』

この日を境に、星夜は土橋支社長を含め、

人との接し方をより丁寧に誠実にする様心がけた。土橋支社長は、そんな星夜を受け入れてくれた。目指す先は同じ。それから様々な事に対して、レスポンス良く相談出来る、星夜にとって頼りになる上司になっていった。


丁度その頃、一緒に戦っていた松下課長が異動になった。星夜にとっては、同じスニーカー好きで色んな事を話した気さくな人だった事もあり、とても残念だったが、去る人がいればやってくる人もいる。新しく世田谷に来た課長は、20代の若き戦士だった。

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