タイトル未定2025/01/01 10:57
十畳の広い和室。簾が降ろされた帳の向こうで鏡台の前で、ただ白い背中が蠢く。身に纏われた着物は大きくはだけられ、上半身の着脱がない。
乾燥を懸念してこそだろう。指にすくわれたボディクリームが上半身に塗られていく。
夕方というのに電気はつけられず、自然光だけが背中を映し出す。
「太夫、お掃除を」
畳箒とちりとりを持って、さっと襖を開けてしまったのは、二十歳そこそこの少年の面影を残す青年であった。
青年は、いまいち間が悪く、修羅場に遭遇することが多い。
「はっ……! すっすすすみません」
「あ………」
青年は、ぽっと顔を赤らめて、視線をはずしいそいそと部屋に入りかけた足を引っ込め即座に襖を閉めた。
ポカンとしていた「太夫」は、
「武士ッ…!」
と切なげに青年の名を呼んだ。
武士は、駆け足で部屋から離れ廊下の一角で乱れた呼吸を整えた。胸をかきむしるような感覚に襲われる。
いくら女と見まごう美貌を持っていても相手は男なのだ。しかも相手は店の稼ぎ頭、三太夫の一人。
武士はいやいやと首を振り、片手を頭にやった。道ならぬ相手。店の当主からも、きつく太夫との関わりをとめられているのだ。
それなのになぜこんなにも惹かれるのか。
武士は熱を持ちはじめた心を鎮めるため、賄い部屋で水をかぶった。




