可もなく不可もなし元王女と、流行遅れのヒロイン
「可もなく不可もなし王女の茶番劇」の続きです。
茶番劇読んでなくても分かるようには書いたつもりですが、こちらも書き殴ったので諸々雑です。
ヒマつぶしにどうぞ!
ときめく物語に欠かせない存在は、そう、魅力的なヒロイン。
子どもの頃に多くの女の子がハマるのは、プリンセス系ヒロイン。あの頃は突然歌い出すプリンセスに何の違和感も覚えなかったよね。それどころか歌っちゃうし。あ、大人もまんまと口ずさむよね。
あとは戦闘系アニメヒロインも沼。おもちゃ売り場に並ぶ戦闘アイテムを課金させられる親がなんと多いことよ。
まああとはなんといってもラノベのヒロインだよね。応援したくなるヒロインが主人公だとストレスなく読めちゃうゆえにマジで沼るから夜中に読み漁ってて気づくと朝になっていたとかあるあるですよね?
あ、あと完全に好みの問題だけど、私的にはあざとい系腹黒ヒロインはちょっと…という感じ。いやあ、神々しいほどに極まりし悪役か、悲しい過去を抱えて闇堕ちした悪役がやっぱり心躍るーーー
「ーーー妃殿下!!」
あれ、既視感。いやー、私、嫁ぎ先の国でも侍女に叱られているよ。流石、”可もなく不可もなし王女”。あ、元王女か。
「さあ、ドレスをお選びください!」
「…どれでも、」
「さあ!」
圧よ!すごいよ!いやあ、我が祖国では私テキトーな扱いだったからさ、こんな超絶高級高品質ドレス着られるなんてそれだけで夢のようだからさ、正直…なんでも嬉しいんです!というか前世ではドレス着たことすらないんで!
そう、私が転生してきたらしいこの世界は、ラノベらしい中世ヨーロッパ風の世界観なのである。無論、戦争もあるが、魔法はないしモンスターもいない。やはり残念である。
水面下で敵対している帝国へ身一つで嫁いできたら案の定、戦争に巻き込まれそうになり一芝居打ったらなんやかんやで回避出来たんです、前回の話でね!うーん、私ってノーチートだけど強運なのか?
そして、戦争勃発の裏工作をしていた我が父上は、捨て駒第4王女であった私がどうやら使えると判断したらしく、まあそれはそれは見事な掌返しでございますわよ?可愛い孫を期待しているとかいう手紙来たし。
いや、私に似たら悲劇なのよ。絶対子に恨まれる自信がある。なにせ私は顔立ちも体型も髪色も目の色も可もなく不可もなしな一方で、配偶者様は全てがキラキラパーフェクトなリアル皇子様なのである。
しかし!子の心配は無用なのだ。ありがたや。なにせ白い結婚中である。多分この先も。
私だけでなく帝国の人々もお飾り妃だと確信しているに違いない。と、いうことは…?えー!今日のお披露目パーティー、もしかすると私ご令嬢方からなんか言われる?!なんか仕掛けられる?!なにそれ楽しい!!
目の前に群がる貴族の方々が、途端に物語のスパイスに見えてきた。ホホホ。わたくし、緊張感がぶっ飛びましたわよ?フフフ…
「妃殿下のお陰で帝国は戦争回避が叶いました…!心より、妃殿下へ御礼申し上げます!」
「しかしながら、結婚式直後に争いに巻き込まれ…さぞ怖い思いをなされたのではございませんか…?」
「帝国はやはり野蛮な国であると、そのように思われても仕方ありませんわね…」
悲しげに表情を曇らせる貴婦人もいる。いやあ…すげー!流石の演技力!勉強になります!しかしこれは罠ですわね?フフフ…
「わたくしは、そのようには、ぞんじませんわ」
ニッコリと、今回のキャラに合わせた笑顔を作る。
「りゅうこうおくれ、ですもの」
そう、今回のキャラ設定は、無自覚煽り系元王女。
そして作戦は、題して、社交界カオス大作戦である。
無論、隣にいらっしゃるパートナーの皇子には作戦内容を伝え済みである。信頼の第一歩は、自己開示!!皇子はニコニコ笑顔で快諾してくれた。うん、笑顔ね、うん…少し、いやかなりゾッとする笑顔だったけどね…うん…問題ないよね?笑顔だものね?
ということで、私はカタコト帝国語を武器に、煽りに煽って社交界を混沌へと導く悪役よ!フフフフフ…
さっそく私の「流行遅れ」発言で、貴婦人のお顔が引き攣っている!今後もコンプレックスをいじりまくってさしあげるわよ!覚悟なさい!ホホホホホ!
そう、野蛮な国と未だに言われることへのコンプレックスを持っているのは旧帝国派、らしい。圧倒的な武力で領土を拡大したことにより豊かになったのは我々のお陰なのに、との言い分は新帝国派らしい。元々争いを好まない民族の危機を救った民族。おおまかに、帝国はその二つが一つになった国である。
そして帝国は今、主にその二大派閥がバチバチやっているのである!多分ね。だって誰も私に帝国の詳しい情勢教えてくれないんだよ?孤独で憐れな妃よ?ほぼ独学ですわよ?
しかし!スピーキングが壊滅的な私はリスニングもヤバいだろうと思われているので、ナニモワカリマセン顔で情報収集しております!みんな油断して喋りすぎだと思うんですけど!え、私バカにされ過ぎ…?いや、まあ…使える手だからいいよね…?うん、そう思おう。
あ、ちなみに前回の話も読んでくださった皆様の中で、え、短期間で帝国語力上がってない?と思われた方…フフフ…”可もなく不可もなし元王女”のわたくしが短期間で上達するわけがなくってよ?特定のフレーズのみを想定してそれを丸暗記したのよ!ホホホ!
あの女性騎士様がなんと私の専属護衛になってくれたので、イントネーションとか諸々アドバイスもらいながら丸暗記!フフフ…想定外の会話がされた時は笑って誤魔化す、これぞ妃殿下パワー!ホホホ…
そんなこんなでカオスに華々しく、帝国での社交界デビューを果たした。
さて、一通り挨拶した後に皇族の休憩スペースへと皇子にエスコートされて一人ぼっちなう。いやあ、休ませてくれるなんて、ありがたやありがたや。しかも私以外いないし!他のキラキラ皇族の皆様方はまだ挨拶回り中である。え、私早々にサボっている?いやいや、皇子が連れてきたから大丈夫だよね…?
それにしても良い眺めの場所である。さすが帝国、人の多さ半端ない。ひえー。あ、皇子いた。凄いさすが皇子スマイルずっとキープしているよ。
いやー、きっと絶対、私の印象を聞いたり情報収集したりするために離れたんだろうけど、まあそんなの想定内である。おおいに元王女な政略結婚妃を活用してください!何もかもが釣り合わなさ過ぎる私の利用価値なんてそれしかないので!事実!
そんな“可もなく不可もなし王女”というあだ名を祖国で付けられていた私の隠れた才能は、そう、目が良いこと。胸張って言えることではない?いやいや、視力落ちたら眼鏡だよ?可もなく不可もなしな顔に眼鏡とか、新しいあだ名絶対に眼鏡王女だろう。あ、眼鏡妃かーー
ーーあッ…!?あ、あれは……まさか…ッ!!!!!
見晴らしの良いこの場所から!!なんと!!なんということかッ!!ヒロインを発見した!!
えー!!ヒロインだよねあの子いや絶対ヒロインだ!!だってめちゃくそ可愛いのにクソダサドレス着ているし!!しかもなんか貶されてる感じがするし!!いや待てヒロインちゃんを貶す役目はこのわたくしでしてよ??
込み上げる笑みをニッコリ笑顔に変え、ヒロインちゃんの元へゆっくり歩を進める。
フフフフフ…早歩きしたいけど絶対に転ぶ自信があるからダメよ私…ここで躓きでもしたら私の目指す悪役から遠ざかるわ…てへぺろキャラなんてお呼びでなくってよ?まあ実際転びそうになったら後ろにいる騎士様に助けられるわけだからそれは恥ずかし過ぎる。自重自重。
それにしても、足りない足りないゾンビだらけだなお貴族様は。自分が満たされてないから、他人を攻撃する。他人を下げ、自分を満たす。あの人は不幸だわ、でも私は幸せ、って。
クソダサドレス着ているご令嬢見て何かしら察して憐れむならまだしも、貶すなんてそれこそクソダサだってどうして気づかないのだろうか。おのれゾンビめ!!成敗してやるわ!!
「ーーなぜ、そのような、りゅうこうおくれのドレスを、きていらっしゃるの?」
突如現れた妃殿下に驚きつつも、そのストレートな物言いに忍び笑いが静かに素早く広がる。
「なぜみなさまは、わらっているのかしら?わたくし、なにかへんなこと、いいまして?」
ニッコリ笑顔で周囲を見渡せば、表情が固まる皆々様。
フフフ…強めメイク、正解だったわ。
スーパー侍女達とは、強めメイクで威厳を表現する派と淡めメイクで可憐さを訴える派とナチュラルメイクで親しみやすさアピール派で揉めたけど、強メイクで大正解!!
最後にヒロインちゃんへ視線を送れば…くっ…!ごめんねヒロインちゃん…!そんなリンゴのように顔を真っ赤にさせてしまって!!
「そのっ…、畏れながら…私は、庶子で…最近引き取られたばかりでして…」
「では、あなたがいま、はじをかいているのは、わたくしのせいですわね…」
「…へ!?」
「このたびのパーティーは、わたくしのために、きゅうきょひらかれたのですから、とつぜんのしょうたいで、わるいことをしてしまったわ…」
「そっ…ッ、そのようなことは…ッ!」
ヒロインちゃんの両手を握りしめ、顔を覗き込むようにキラキラお目目を見つめる。
「おわびとして、わたくしのおちゃかいに、あなたをしょうたいしても、よろしくて?」
「そっ、ッ、そのような…!畏れ多いことにございます…!わたしのような、末端貴族には、」
「あら、帝国は、わが祖国よりも、みぶんのかきねをこえたこうりゅうが、さかんなのではなくて?」
ざわつきが一層大きくなる。お、来たか。ヒーローの登場である!
「その通りだ」
さすがの皇子様、ご令嬢方の視線を掻っ攫っている。
うん、あれだね、見惚れちゃって話聞いてない子いるでしょ?ねえ、耳に内容届いてる?割と大事な場面なんですけどね?
「帝国の新たな流儀に感銘を受けた我が妃は、身分問わず様々な者達と交流を持ちたいと願っている」
「はい。ぜひとも、よろしくたのみますわ、帝国のみなさま」
渾身のニッコリ笑顔をご令嬢方へ振りまいた。
ああ…かあいいなあヒロインちゃん…!こんな”可もなく不可もなし元王女”の笑顔にぽっと頬を染めちゃうなんて、ピュアすぎる。というか、その絶妙な頬染めスキル教えてほしい!いや天然かこれは。羨ましい!さすがーー
ーーふと、楽器の音色が耳に届く。
おお…狙い通りの如く絶妙なタイミングで、曲が流れてきたな。そして流れるような皇子のエスコート。ひえー!
そうしてとうとう、私の今夜の死地…ダンス会場中央へ辿り着いてしまった。
どう頑張って取り繕っても僅かなぎこちなさが拭えないステップをする私を、ニコニコという擬音が鳴りそうな笑顔で見下ろす皇子。
これは…おもしれー女枠ではなく珍獣枠か?いやでも笑顔だしな…癒し系小動物枠だったらもっと穏やかな微笑みだよね…うん…なんだろう……この笑顔。なんというか、サイコパスっぽい、んだよなあ…怖。え、違うよね?
『作戦は、成功しましたか?』
『はい、お陰様で。先ほどは、ありがとうございました』
ほんの少しの微笑みを添え、皇子の顔を見上げる。
『礼には及びません。貴女は私の、妻ですから』
つ、つま…妻……妃ではなく?あの、怖いです皇子ニコニコやめて!!なんて言えないので、ハニカミ笑顔を貼り付けて俯いた。ハ、ハハハ…
さて、お気付きでしょうか、皆様。皇子はなんと我が祖国語、ペラペラなんですよ。ペラペラ。あの、私のカタコト帝国語と殴り書き帝国語での決死の提案ね、マジで、ほんとに、茶番劇だったのである。恥ずかし憐れ惨めすぎて笑える。笑うしかない。
え、なにその茶番劇?と思った皆様、前回の話でわたくしの一芝居をお楽しみいただけますわよ?フフフ…憐れで笑えてきますわよ…
そうそう、侍女達曰く、皇子はペンタリンガルらしい。え、ペンタリンガルとは…?となった皆様、検索してみてください。私はね、私が頭脳も可もなく不可もなしとみんなに知られているので、侍女がご丁寧に教えてくれたよ!ほんと、眉目秀麗で才華爛発とか、絵に描いたような皇子様よ…ホホホ。
そんな皇子様の完璧なるリードとフォローのおかげで、お披露目パーティーは無事に平和に終わった。めでたしめでたしありがたや。
しかも!私は!ヒロインちゃんを発見したのである!きゃー!わたくし社交辞令なんて言わなくってよ?絶対にお茶会呼びますわよ?フフフ…覚悟なさい…
と、ほくそ笑んでいた私は、ヒロインちゃんのポテンシャルに返り討ちに合ったのである……
『妃殿下、私…パーティーで助けていただいたことも、今日この日のことも、一生涯忘れません…!!』
うん。私も。一生忘れられないよ。まさかあなたも我が祖国語話せるなんて…やっぱりあなたはヒロインだ!!才色兼備!!そしてピュア!!はい、ヒロイン!!
というか耳まで赤くして目を潤ませるヒロインちゃん、いやー!かあいい!なにその耳染めスキルなに?!それも天然なのー!可愛いが過ぎる!
そう、いきなりお茶会なんてハードル高いだろうし相応のドレスないだろうしで、こっそり我が宮へ呼んでお詫びドレスを贈ったら、まるで私が女神かの如く崇拝の眼差しを返された。
いやあ、私を色眼鏡で見ないなんて、己の浅はかさを思い知らされる…可愛いは正義!とか思ってごめんなさい。でも可愛いは正義!!
『流行遅れだなんて言葉を貴女に向けてしまって、ごめんなさい』
『いえっ!そんな…!妃殿下が謝罪されることなんて一つもございません!意図した発言であると承知しておりますし、なにより針の筵であった私を救ってくださったのですから…!』
りゅ、流暢すぎやしないかヒロイン…多分、皇子よりペラペラな気がするよこれ。いや、ペラペラというか語彙力があると言うか…
さも何も気にしていませんという表情を取り繕ってサラッと尋ねれば、平民時代に我が祖国の同胞がご近所にいたらしい。そして、あのパーティー後に貴族語も含めて勉強し直したと。はあぁぁああ……なんてピュアなのか!!微力ながら私の力になりたいって、いやもう百人力ですよヒロインちゃんありがとう!!
そうして、ヒロインちゃんのお陰で私のカタコト帝国語は改善されていったのであるーーー
「お~ご苦労ご苦労、皇子サマ」
「ねえ、なんなの?あの王女頭おかしいの?」
「もう王女ではない。俺の妃だ」
「ッは~!ゴシュウシンなこった~!」
「…本気?…いや、いい。聞きたくもない。それよりも、またなんか面倒な女増えてない?」
「いや、あの御令嬢は使える」
「へ~?珍しいな?お前がそうやってご令嬢を評価するのは」
「何度も言ってはいるが、俺は皇太子になるつもりはない」
「何、その脈略のなさ。というかそうは言ってもあの王女…妃デンカの一件で今、候補筆頭でしょ?」
「ま~結局、同盟国とのアレも良い感じに収まったからな~?」
「だからこそだ。俺の目指す政に、使える」
ーーー”可もなく不可もなし元王女”が、流行をリードしているらしい。
そんな摩訶不思議な噂が、帝国をはじめ諸国に広まっている。
ハハハ、まさか、お披露目パーティーでの社交界カオス大作戦からこう転じるだなんて、全く予想していなかった。
あの時ヒロインちゃんに贈ったドレス、流行なんて完全無視してヒロインちゃんにピッタリな茶会向けプリンセスドレスをスーパー侍女達と厳選したら、お茶会にて大好評だったのである。そしてヒロインちゃんは私の素晴らしさを歌うかのように語った。うん、なんか花とかキラキラエフェクト舞っていたよね!あと小鳥とかも一緒に歌っていたと思う!流石プリンセス系ヒロインちゃん!!
そうして私は、恥ずかしくて居た堪れないという気持ちをひた隠す表情管理スキルを手に入れました。役に立ちそうこれ。
例えば皇子脚本の、仲睦まじいアピールのための茶番劇とか。内容がベタすぎて恥ずか死ぬとはこういうことかと身を持って体感した。お…思い出すだけで羞恥心爆発である。
というか、ヒロインちゃん出てきたけど私悪役王女じゃないのか。いや待って皇子もヒロインちゃんも我が祖国語ペラペラという共通点発覚したんだよ今回!!ということは!?これから急接近あり得る!!きゃー!!身分違いの切ない恋が始まるー!!そして私は立ちはだかる強大な壁!!
相も変わらず能天気な私は、今日も今日とて自らフラグ生産しているとは知らずに、楽しく妄想の世界に浸っていたのであるーーー
なんだかんだと続きそうですが、妄想が尽きたら終わると思います。
ヒマつぶしのお付き合い、ありがとうございました!
2024.07.15続きの短編書きました。