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神様への贈り物 その1

 クリスマスイブの日、ベルモンドがいくら待ってもジュディは約束の場所には来ませんでした。

そこで、ジュディを心配したベルモンドは、翌日のクリスマス当日に、彼女の為に描いた絵のキャンバスを持って、その自宅を訪ねてみる事にしたのです。

今まで、ベルモンドはジュディの家を訪ねた事はありませんでしたが、うろ覚えの住所を頼りに、近所の人たちに何度も聞いて、ようやく彼女が住んでいるという家を探し当てる事が出来ました。

それは貧民街に所狭しと並ぶ、ほったて小屋の一軒で、いかにもみすぼらしい家でした。

ベルモンドはその家のドアをノックしましたが、返事はありません。

いやな予感がしたベルモンドは、思い切ってそのドアを開けてみました。

すると、そのドアには鍵はかかっておらず、ギィ〜ッと軋む様な音と共にそれは開きます。

そして、その扉の奥にある一つしかない殺風景な部屋の中には粗末なベッドが置いてあり、更にその上には、ジュディが瀕死の状態でぐったりと横たわっていたのでした。


「ジュディ!!」


慌ててジュディが横たわるベッドに駆け寄るベルモンド。

ベルモンドが近づくと、ジュディがうっすらと目を開けて彼を見ました。


「来てくれたのね、ベルモンド。ありがとう」


「いっ、一体どうしたんだ、ジュディ!!病気なのか!?」


動揺してうわずった声で尋ねるベルモンドに対し、ジュディはベッドに横たわったまま頷きます。


「ごめんね。実は少し前から熱っぽかったの。こないだ、あなたと別れてから急に苦しくなって、それからずっと寝込んでいたの。昨日は逢いに行けなくて、ごめんなさい」


ベルモンドは、激しく首を振ります。

症状から見て彼女は、昨今世間を騒がせている、恐ろしい感染症にかかったのだと思われました。

ベルモンドは、ベッドに横たわるジュディの手をギュッと握りしめて言いました。


「謝るのは僕の方だ。本当にすまないー。寒空の下でモデルなんかさせて、君に負担をかけてしまった。でもジュディ。体調が悪いのなら、どうして僕に言ってくれなかったんだ?」


ジュディはベルモンドのその言葉を聞くと、恥ずかしそうに目を伏せてから彼に答えます。


「それは、どうしても、あなたの役に立ちたかったからー。だって、わたし、あなたに何もしてあげられなかったし」


すると、ベルモンドは感極まった様にウッと呻きました。

しかし、やがて顔を上げると、キッパリとした口調で彼女に言いました。


「とにかく、君の病気を治さなくてはー。待っててくれ。すぐに、医者を呼んでくるから」


しかし、ジュディはベッドの上で、悲しそうに首を振ります。


「駄目よ。お金が無ければ、こんな所にお医者さんは来てくれないわ」


そして、ベルモンドの気持ちを少しでも慰める為でしょうか。

彼の持っている、白い包みを見て言いました。


「それ、あなたが描いてくれた絵でしょう?わたし、見てみたいわ」


しかし、ベルモンドは彼女のその言葉を聞くと、何かを思いついた様にハッとした表情になりました。 

そして、自分が手にした、その白いシーツに包まれた絵のキャンバスを、再び胸元に抱え上げると、真剣な声でベッドの上の彼女に告げました。


「そうだ、ジュディ。俺、今から街に行って、この絵を売ってくるよ。自信作なんだ。きっと、高く売れると思う。そして、絵を売って手に入れたそのお金で、医者をこの家に連れて来るよ。だからジュディ!少しの間だけ待っていてくれっ!なるべく早く戻るからっ!!」


けれど、ジュディは心配そうな顔を、ベルモンドに向けました。


「そんなに上手く行くかしら?それより、わたし、あなたに側に居て欲しいー」


しかし、ジュディの病気を治したい一心のベルモンドは、熱心な口調で彼女を説得しようとします。


「大丈夫だ!僕を信じてくれっ!きっと、医者を連れて来るから!それから、ジュディ。他に何か欲しい物はないか!?何でも言ってくれっ!!」


ベルモンドの熱心な様子を見て、とうとうジュディは、コクリとうなずきます。

そして、か細い声で自分の希望を彼に伝えました。


「それなら、わたし、あなたと前に食べた屋台のパンケーキが食べたいわ。ほらっ、覚えてる?お祭りの時に一緒に食べた。あれ、すごく美味しかったー」


ベルモンドはジュディの言葉を聞くと、キャンバスの白い包みをしっかりと抱えながら言いました。


「わかった!パンケーキだなっ!必ず買ってくるよ!そして、もちろん医者も連れてくるっ!!ジュディ、待っていてくれっ!!!」


けれども、ベッドに横たわるジュディは、相変わらずその顔に心配そうな表情を浮かべています。

彼女にはベルモンドの言うみたいに、そんなに簡単に事が運ぶとは、どうしても思えなかったのです。


「ベルモンド、無理しないでね」 


「大丈夫だ、ジュディ!!すぐに戻るからっ!」


そう叫んだベルモンドは絵の包みをしっかりと抱えると、ジュディの視線を背中に受けながら部屋を出て、冬の街へと飛び出して行きます。

後にただ一人残されたジュディはベッドに横たわりながら、ベルモンドがそこから出ていった、部屋に一つしかない扉をじっと見つめます。


「ベルモンド、早く帰って来て」


彼女の声が、ガランとした部屋にうつろに響きました。


[続く]


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