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貧乏画家と花売り娘 その2

 さて、そんなこんなで月日は流れ、ベルモンドとジュディが知り合ってから、一年近い時が過ぎようとしていました。

季節は春から夏、そして秋を過ぎて冬になり、やがて街に讃美歌のメロディが流れる時期へと、それは急速に移り変わって行きます。

そう、もうすぐクリスマス。

つまりは、神様の誕生日がやって来ようとしていたのです。

しかしながら、街が次第に華やかな雰囲気になろうとしていたのに、ベルモンドとジュディはそれどころではありませんでした。

冬になると、人々は足早に家に帰り、外出する人も少なくなる為、似顔絵を描く仕事はあまり流行りません。

花売り娘の方は、もっと大変でした。

冬は咲いている花の数や種類が少なく、その上やはり外出する人があまりいない為、せっかく摘んだそれらの花も、ほとんど売れなかったのです。

そんな訳で、二人の貧しさにはますます拍車がかかり、とても相手にプレゼントを贈る余裕はありませんでした。

二人はその事をとても悲しく、みじめに感じていました。

けれど、クリスマスが近づいたある日に、ベルモンドは突然いいアイデアを思いつきます。


(そうだっ!僕には、絵があるじゃないか!彼女をモデルにして絵を描こう。一世一代の作品を。そしてそれを彼女へのプレゼントにするんだ!)


自分のその思いつきに、ベルモンドは有頂天になりました。

そして、ベルモンドがジュディにその事を話すと、なんと彼女は二つ返事で了承してくれました。

実はジュディもベルモンドに対して、クリスマスに何もプレゼントを贈る事が出来ない事を心苦しく思っており、代わりに何か彼にしてあげられる事はないかと、ずっと考えていたのでした。

だから、ベルモンドの為に何かが出来る事が、彼女にはとても嬉しかったのです。


「わかったわ、ベルモンド。わたし、あなたの絵のモデルになるわ。わたしで良ければー」


「もちろんだよ、ジュディ。きっと最高の作品にして見せるよ」


こうして、ベルモンドはジュディに贈る為に、彼女をモデルとした肖像画を熱心に描き始めたのでした。

それから二人は毎日、互いの仕事が終わった後で、ベルモンドが決めた野外の人気の無い場所で待ち合わせました。

そして、その場所でベルモンドは、日が落ちて真っ暗になるまでのわずかな時間を使い、キャンバスの前に立つジュディをモデルに絵を描き続けたのです。

ジュディをモデルにしている時間だけではなく、ベルモンドはその絵のキャンバスを家に持ち帰った後も、更にそれに手を加え作品のクオリティを上げていきました。

こうして、ジュディの肖像画は、徐々に完成へと近づいていったのです。

そして、それはクリスマスイブを翌日に控えた日の事でした。

ついに、ベルモンドの描いたジュディの肖像画が完成したのです。

自分の部屋でその絵に最後の一筆を入れた際、彼の口からは思わず満足げな言葉が漏れ出ます。


「よし、出来たぞっ!これは、良いものだ!!」


彼は部屋に立てられている、件の絵のキャンバスをしげしげと眺めると、その出来栄えの良さに深い満足感を覚えます。

そして、明日のクリスマスイブにジュディにその絵を手渡した時、彼女の顔に浮かぶであろう喜びの表情を想像して、ベルモンドの心はまるで羽根が生えた様に浮き立つのでした。

それから、早く明日という日が来るのを願いながら、ベルモンドは眠りに就きました。

もしかしたら、その夜こそ彼にとって、生涯で最も幸せな夜だったのかもしれません。

翌日、彼は完成したばかりの絵を綺麗なシーツとリボンで包むと、それを両手で抱えながら、意気揚々と街へと繰り出して行きました。

そして気もそぞろに、似顔絵描きとしての一日の仕事を終えると、はやる気持ちを抑えつつ、ジュディといつもそこで待ち合わせをしている野外の某所へと向かいました。

けれども、ベルモンドがその場所に着いた時、ジュディの姿はそこには見当たりませんでした。


(ジュディは、まだ来ていないのか。早く来ないかな。この絵を渡す時が楽しみだ)


ジュディに渡す予定のシーツで包まれた絵を、両手に抱えながら、思わずにやけるベルモンド。

しかしー。

約束の時間を何時間も過ぎて夜になっても、その日、ジュディが待ち合わせをしたはずの、その場所に現れる事はありませんでした。


[続く]







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