貧乏画家と花売り娘 その1
昔々、ある街に画家志望の青年と、野外で摘んだ花を街中で売って生計を立てる、若い娘さんが住んでいました。
青年の名はベルモンド、娘の名前はジュディといいました。
二人はとても貧しく、時には食べる物にも事欠く有様でしたが、彼らはそんな状況にもめげたりはせず、毎日を懸命に生きていました。
いつか幸せになれる日が来る事を信じてー。
ベルモンドは普段は街に出ると道行く人々の似顔絵を描いて日銭を稼いでおり、同じく街角に立って花を売って暮らしているジュディとは顔を合わせる事が多く、何度か挨拶や会話を繰り返すうちに、二人は徐々に親密になっていきました。
「ベルモンド、絵の調子はどう？」
「うん、ジュディ。まあまあかな。君は？花は売れてる？」
「全然よ。早く売らないとしぼんじゃう」
こうして出会って一年近くの歳月が流れた時期には、二人はすでに恋に落ち、お互いの事を好きになっていたのでした。
さて、そんな若く貧しい二人にとって、街での暮らしはけっして楽なものではなく、むしろ辛い事の方が多かったのですが、それでも、たまには嬉しい日もありました。
例えば、街で年に数回開かれる、お祭りの日がそうです。
街のお祭りの日は、二人にとって掻き入れ時です。
彼らはいつもよりたくさんお金が入ると、お祭りの出店で、普段は食べられない甘いパンケーキを買って、二人で分けあって食べたりしました。
ベルモンドとジュディの二人は、内心ではお互いに強く惹かれあっていましたが、相手にその気持ちを伝える事はありませんでした。
彼らの性格が二人揃って内気だったせいもありますが、お互いに貧しいこんな状況下では、結婚しても、相手や生まれて来る子供をとても幸せには出来ないと、それぞれが考えていたからです。
けれど、ベルモンドの方はいつか有名な画家となって、ジュディに求婚すると固く心に決めていました。
ですからベルモンドは、昼間は街で似顔絵描きをしながらも、夜は家に引きこもり、そこで展覧会に出品したり画商に見せたりする為の絵を懸命に描いていたのです。
しかし残念ながら、彼の描いた絵が展覧会で賞を受ける事はなく、また画商からの評判も、現時点では決して芳しいものではありませんでした。
そんな目に遭ってくじけそうになっているベルモンドを、ジュディは何度も励ましました。
もちろん、ジュディは食べる物に事欠くほど貧しかったので、ベルモンドの絵を買う余裕などとてもありません。
ベルモンドの方はたまにジュディから一番安い花を買い、部屋に飾る事もあったのですがー。
しかしジュディは、ベルモンドの描く絵がとても好きでした。
だから、彼に夢をあきらめて欲しくなかったのです。
もっとも、ジュディはベルモンドの事が好きだったので、多少のひいき目もあったのかも知れません。
「大丈夫だよ、ベルモンド。きっと、立派な画家になれるよ」
「わかった、ジュディ。精一杯、頑張ってみるよ」
こうして、ジュディの励ましを受けたベルモンドは、必死に絵を描き続けたのでした。
[続く]
