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診療中 ユニット2 Case2  ~小池という女王様~


ep.3「希望・カウンセリング」で解説させていただいた通り、口腔内には様々な細菌が共存共栄しているわけだが、その細菌叢のバランスが崩れると悪玉菌が優位となり、ディスバイオーシスという状態に陥ることはみなさん学習済みのはずだ。

こうなると、元通りの状態に戻す為には自らの努力と治療とが必要になる。

こと口腔内においては治療法が確立されているので、新種の病原細菌や多剤耐性菌などが出現しない限り、特殊なケースを除いては臨床の現場においても難治性の症例はそれほど多くは存在しない。

寧ろ稀に遭遇する程度だ。

だが、ひと度その「稀」な病態に遭遇すると、頭を抱え手を拱くことになる。

どう足掻いても、必死に手を尽くしても力及ばず…という結果になることもある。

それが人の成せる限界、現代の医療の限界でもあると思う。

故に早期発見・早期治療、あるいは予防が重要になってくる。


職場の人事にも同じようなことが言えると思う。

いじめも早い段階で周囲や上の者が気付いて、小さな芽のうちに摘んでしまえばそれ以上悪質な事は起こらなかったのに、放置したせいで取り返しのつかない事態にまでなってしまうことがある。

あらゆる病気と一緒ではないだろうか。



このクリニック内にも病巣が複数存在する。

その中でも最も厄介なのが教祖様小池だ。

彼女を口腔内で表現するなら

「悪玉菌の女王の権化」

「新種で不滅・無敵で最強の歯周病原細菌」

「諸悪の根源」

といったところだろうか。

とにかく対処のしようがない。

彼女のペースに乗せられてしまうと、自分が悪いような何かしないといけないような何とも言えない錯覚に陥る。

一言で表現するなら、小池は

「カバートアグレッション野郎!」

この用語はネット検索をしていただければ詳しい解説を見られると思う。

簡単に言えば、良い人のふりをして親しげに近付いてはくるが、邪魔な存在は悪意を隠して攻撃してくる。

また、相手を思うように操ろうとしたり、周りの人間を自分の影響下に置いて優位に立とうとするような人格の人間をさす。

小池はその最たる存在で、無意識なのか意識的なのかは不明だが、よく観察していれば、そのメッキの下に隠された彼女の本性が見え隠れする。


例えばみなさんの周りにもこんな人はいないだろうか?

「誰にでも愛想がいい」

「都合が悪い事はとぼける」(「知らない」「覚えてない」が口癖w)

「平気で嘘をつく」

「自分にとって不利な事は明言を避け、話をはぐらかす」

「ちょっとした事ですぐに泣いたり怒ったり不機嫌になる」

「自分に非があるにも拘らず被害者面をする」

「物事を自分の都合のいいように解釈する」

「相手に罪悪感を植え付ける」

このように、ズル賢く上手に立ち回る人物があなたの周囲、あるいはこれからの人生で出会う人の中に必ず1人くらいはいるはずだと思う。


小池の子分たちはまさに彼女に操られている。

高校時代の取り巻きの女子達と同類だ。

ただ、医療従事者ともなると心理学に精通している者も多く、患者さんの治療をスムーズに行うために相手の本性や本質を見抜くことに長けている者も少なくないので、高校時代に比べるとその手に引っかかる者は少ないのだろう。

良く言えば、子分たちは素直なのかもしれない(笑)



こちらに就職して1ヶ月くらい経った頃、こんなことがあった。

私は患者さんの診断に使う顎模型(がくもけい)(歯並びを型取りして作った石膏模型)をトリミング(削って綺麗に形成)し終わり、それを保管する場所がいまいち分からず困っていた。

たまたま近くを通りかかったスタッフがいたので質問すると

「技工室の上から2段目の棚が診断用の顎模型を置く場所になっているので、そこなら置いて大丈夫ですよ!」

と、忙しかったのかサッと答えてくれた後、すぐに診療室の方へ行ってしまった。

私は教えてもらった通り、2段目の棚に置いた。

今思えば不自然だったのだが、なぜか右端の一画だけすごくスペースが空いていて、ただ起きやすかったので右端寄りに何も考えずに顎模型を置いてしまった。

だが、それがいけなかった。

後に知ったのだが、そこは小池専用スペースだったのだ。


顎模型を保管した数日後に事件は起こった。

朝礼から少し経ち、それぞれに業務を行っていた時、技工室付近にて小池と上木が何かこそこそと話し込んでいた。

ふと見ると、小池の両手には真っ二つに割れた顎模型が握られていた。

私は診療室に向かうために近くを通過しただけであったが、なぜか二人に睨まれた。

そしてお昼休み前、突然小池に

「ねぇ!ちょっと技工室に来てくれない?」

と呼び止められ、一緒に技工室へと向かった。


技工室に入ると、作業用の机の上には朝私が目撃した2つに割れた顎模型が置かれていた。

よくよく見てみると、その特徴的な歯列から私の担当患者さんのものであることに気付いた。

小池は腕組みをしたまま何も言わなかったので、私は

「この模型、割れてしまったんですか?」

と質問した。

すると小池は

「ん~とぉ~、秋山さんが置いた場所、そこに置かれちゃうと落ちやすいみたいなんだよね~。」

「あと少しで私の足の上に落ちそうですごく怖かったし、それに危なかったから…。」

「ちょうど手がぶつかりやすい場所にあったんだよね~。」

と言ってきた。

それを聞いた私は、なぜか瞬間的にそこに置いてしまった自分が悪かったような錯覚に陥てしまい、申し訳ない気持ちになってしまった。

咄嗟に

「すみませんでした!」

と言いそうになったが、我に返った。

よくよく考えてみればこの模型を割ったのは小池で、私は落ちるような場所には置いていなかった。

大方、自分が使うポジションには他の模型はないと思い込み、取り出す際に私の模型にぶつかり床に落として破損したのだろう。

ちなみに、顎模型ごときが足に落ちようとも多少痛い程度で、投げつけられたのなら別として、小池の言う「怖い」の意味は全くわからなかった(笑)

私は

「割ったのあなたじゃん!謝罪もなしですか?」

「えっ!?これって私に謝れって圧かけてきているの?信じられない!」

と心の中で思った。

小池は私からの謝罪を待っている様子で、腕組みをしたまま微動だにしなかった。

その上、ほとんど瞬きもせずにやや上目遣いでこちらをじっと見つめている。

私は面倒事を避ける為、仕方なく小池に

「それであれば、今度からそこには置かないようにしますね。気を付けます。」

とだけ伝えた。

小池はやや不服そうではあったが、

「わかればいいんだよ!そこは私のテリトリーだから!」

とでも言わんばかりにツンツンした態度で技工室から出て行った。

去り際に私に向かって

「もし分からないことがあるなら、今度から私か主任にちゃんと聞いて欲しいなぁ~♪」

ニコッ!!!

と、気持ち悪いくらいの作り笑いをしてきた。


このように、小池は高圧的に何か伝えた後には必ず自分のイメージが悪くならないように、一見すると優しそうな仕草と一言を添えて作り笑いをする癖があった。

また、周囲から責められるような事柄を除き、基本的には自ら謝罪することはなく、この顎模型破損のケースのように都合の悪い事はとぼける。

謝罪は一切せず、挙げ句被害者面をし「怖い」とほざき、あたかも私がそこに模型を置いたのが悪いと思わせるような方向へ持っていき、罪悪感を植え付けようとした。

まさに「カバートアグレッション野郎!!」

この手口にまんまと引っかかると、自分は悪くないのに謝罪させられてしまう。

その最たる状態、洗脳とも言える状態が子分たちなのだろう。

人を洗脳し動かすのが小池の特殊能力・真骨頂だ!


私は仕方なく割れた顎模型の件を院長に報告する為に院長室へと向かった。

その報告内容も細心の注意を払い、私と小池のどちらも平等に悪かった程度の表現にとどめ、何とか許していただいた。

恐らくだが、今思えばこの私の担当患者さんは院長のお気に入りではなく、

「この患者はインプラントの希望も自費の希望もほぼないだろうなー。」

と言われてしまっていたので、院長の中ではどうでも良かったのだろう。

もしこれが院長のお気に入り&インプラント治療100%の患者さんの顎模型であったなら、怒鳴られるだけでは済まされなかったと思う(笑)


私は割れた模型を可及的速やかに修復し、元通りの綺麗な状態に戻した。

前の職場ではパートのお姉様が絶望的に不器用で、型から外す際に派手に飛ばすなどし、粉砕した印象模型を修復する事は多々あったので慣れてはいた。

勿論、破折(はせつ)した状態によっては修復不可能な場合もある。

ちなみに、この修復技術は技工士さんのお墨付きだ。

そして何よりも、手先を器用に生んでもらって良かったと母親に感謝した。

修復した顎模型を技工室にある2段目の棚の「超左端」に目一杯寄せて保管した。



この件では事なきを得たが、今後は小池のペースには絶対に乗せられてはならないと肝に銘じた出来事だった。

小池は本当にズル賢い女だ。

私とは相容れぬ存在。

心の底から軽蔑した。



そして私は約5年間、この小池にいじめられ続けた。

本当に地獄の日々だった。


この小池というキャラは実際にモデルがおります。

ガチでヤバい方でした…(笑)


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