4:影のガンドレル
巫女初日、今日は、しおりさんに結星門の前まで送っていただきました。
そこからは一人で門を抜けてそのまま広間に入ります。
門の衛兵さんは何も言わなくても敬礼付きで通してくれました。そして愛想笑いを返す。
広間に入ると、すぐ横にデスクが置かれその後ろに女性が一人立っていました。これは受付みたいな?
その女性は見た目は二十代くらいのイメージだけど、どうなんだろ。 少なくとも学生じゃ無いでしょう。
そして、なんて言うか、昨日も思ったけど、ここの女性達の衣装って露出ちょっと多めなのよね。 地球なら神殿長の趣味だとか指摘されてなんちゃらハラで大変なことになりそう。
「高橋様」
ぼーっと見てたら、その女性に声を掛けられた。
「はい?」
答えて近づく。
「わたくし、聖騎士達との面談をサポートさせていただきますカラナと申します。
スケジュールを確認されたい場合や面談のご予約等承ります」
「は、はい、お願いします」
ああ、そういうことか、聖騎士の皆さん、忙しいはずよね。戦争中だし特に。
「聖騎士達とお約束があれば優先していただいて構いませんし、聖騎士達からの申請があれば申告いたします」
そっか、そういう段取りができるのね。 でも、できれば向こうからの方が助かるなぁ。
「それから、滞在される際に利用いただく部屋を御用意いたしました」
掌で示されたのは、広間の端にある扉だ。 観音開きっぽいけど、片方ずつ開けていいのよね?という心配が先にきた。
「ありがとうございます」
「また、私物などですが、できればわたくしに見せて持ち込みの確認をお願いします。
特に食品や生き物は、ウィルス管理や生態系への影響を考慮して門よりこちらへの持ち込みはご遠慮願います。 本日は、特にありませんね」
「わかりました。 今日は無いです」
小さな鞄の中身を見せながら答える。
「それで、聖騎士達やこの星についてのご説明は本日面談いただく聖騎士に任せております」
「よかった、ぜひ知りたいです。
向こうの星では、颯矢さん、あ、ええと、らんでぃるさん?達に聞く暇が無かったので」
「そうでしたか」
「では、早速おねが……」
「いえ、最初は衣装を試着していただきます」
話が続いてたぁ。
「え、もうできたのですか?」
あ、でも、露出すごいの来そうな予感が……。
着ないとだめかなぁ。 目の前の人のさえ躊躇する、ごめんなさいカラナさん。
連れていかれたのは採寸をした時の部屋ですが、人数が多い。 採寸時は出たり入ったりでも最大五人くらいだったけど、今は二十人くらい居る。
圧倒されていると、そのままいろいろ脱がされ代わる代わるにガシガシといろいろな部分を着せられた。
白ベースに様々な色が少しだけあちこちに使ってあったりひらひらがすごく多いかな?
でも、恐れていた予想が見事以上に当たり、やっぱりいろんなところが出てる。 とにかく申し訳程度のスカートだけでもなんとか長くしてほしい。
すごく綺麗で嬉しいけど、ほんとにこれ、ここに居る時は着てないといけないの~?
「聖衣装では、チャクラ部分を外気に少しでもさらす必要がございます。
その聖力が聖衣装に力を与え、外気からあなた様をお守りします」
気付いたようにいろいろ出てる意味を教えてくれた。 その意味がそもそもわからんのです。
そのエネルギー供給みたいなのなら、逆にそこに繋がる部分がある方がいいような気が……。
「放出される力はあなたの周囲を覆います。 その中で聖衣装は役目を果たせるのです。
この神殿内は結星門に近いので大丈夫ですが、聖衣装無しで神殿外など離れると気分が悪くなると思われます」
大気が地球と少し違うということかな、そしてオーラに包まれて保護されるみたいな感じで、かな。
「痣から聖力?が出てるって聞いたのですけど、そこはいいんです?」
左側は出てるのに右のそこは見えない非対称デザインなのだ。これは、隠してくれたのかな?
いや、もちろん出したいって言ってる訳ではないです。
「そちらの聖力は別なものとのことです」
違う? それ以上説明無いってことは知らないか、教えられないかってことかな。
「それで、いつも着てる必要あるんです?」
とりあえず、やっぱりこれは聞く。だって、この中は平気って言ったよね。
「はい。 それから、そのアクセサリー類は戦闘時になる戦心形態の外装甲部の補強素材となりますので、なるべく外されないよう」
あっさり肯定され、よくわからなかったけど、なんだか物騒な単語が混ざって……そして何その注意事項。
「外すとどうなるんです」
「外装甲が造形できませんので、部位によっては見えてしまいます」
そして、さらによくわからんけど、見えるってどこが? 何が?
「どういうことでしょう? 戦闘時とか? 外装甲とか?」
「ガンドレル様、よろしいでしょうか?」
誰?
先に答えて~と言いたくなる。
「はい」
抑揚なく答えたのは、集団から外れて壁際に立っていた鎧姿だった。
声の感じから若い女性なのは分かったけど、身長は百五十くらいだろうか、鎧は黒だけど光沢は青紫っぽい感じ、ものすごく綺麗な色。
そして、胸の上とおへそのあたりはむき出し、超短いスカートは前部分以外は鎧が覆っている。
頭は兜では無く冠みたいな感じ、長い銀髪をその冠がうまく後ろへ流している。
颯矢さんのもそうだったけどお人形というよりアニメキャラって感じ。
さらに、近づいてくる顔を見てまた驚く、幼げなのに大人っぽい綺麗な顔。 もう美人は見慣れるくらい見たのに。
これだけ揃うと、いやどこをとっても感動を隠しきれない。
「ガンドレル様、戦心形態の確認、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ」
ガンドレルさん……ちゃん?は答えると、そこで止まった。二メートルほど手前だ。
「巫女様、いきますよ?」
可愛い声で合図をくれた。
「あ、はい」
でも、何が?
「きしん」
ガンドレルさんは、ぎりぎり聞こえそうな小声で呟く様にそう言った。
気付くと衣装が鎧では無くドレスの様な形になっていた。
「え? え? ええ~?」
驚くわたしはその姿にとにかく驚き、目が釘付けにされていた。
ドレス、だけど、元の鎧のイメージを踏襲していて色も形も美しい、そしてやっぱりいろいろ露出がある。
ただ、そんなに多くは無いかな。
そして、
「せんしん」
と同じように呟いた。
元の鎧姿だった。
「あら? え、なんで?」
あらためてさっきより近いからその美しさに見入られる。
固まっていると、ガンドレルさんがこちらに手を伸ばす、いや、こっちを示している? 私?
「あっ」
気付いて横にある姿見を見る。
「なんじゃ、こりゃ~」
あ、変な言葉が出ちゃった。
鏡に写った姿は、さっきまでの衣装ではなく、鎧っぽい姿だった。
形はガンドレルさんのにどことなく似ているけど、露出部分は全然多いです。マントも無い。そして固そうな部分に光沢はあるけどメタリック感は無い、いいけど。
「あ、あの?」
聞こうと思って振り向くとガンドレルさんは、壁の方に立っていた。
「今の様に、近くの聖騎士が戦心装備へ変わる際に近くにおりますと巫女様の衣装も変形いたします。
緊急非難的処置です。
もちろんご自分の意思で変えられますが、慣れないとできませんので今回はガンドレル様にご協力いただきました」
「な、なるほど……」
「それから、祈心装備へ戻すのは連動しませんのであしからず。
もう一点、他の衣装などを身に着けられますと、変形時に破損いたしますのでお気を付けください。
また、この後、ガンドレル様と面談いただくお時間とさせていただきます。
その際に、練習にお付き合いいただける事になっております」
カラナさんは、そう答えながらおへその辺りに手を当ててきしんとつぶやくと最初の衣装に戻った。
ええと、何も着るなってことよね。 どうせこの形だと下着とかはみ出ちゃうから余計に問題よね。
「はい……助かり、ます」
ふむ、そうかさっそく一人目の聖騎士様との面談ですね。 それに女の人でよかったかな。 大人しそうな感じだったけど、騎士なのよね。カッコいいなぁ。
変身方法を教えてもらうとか、きっかけになるネタもあるしね。
そして今、ガンドレルさんの私室に来ている。
ここは控室的な部屋でお城にちゃんとした執務室を兼ねた部屋が用意されてるらしい。
窓際の一輪挿しの花以外はとても女の子の部屋とも思えない殺風景だけど、本宅では無いからなのかな。
「わたしは、ガンドレルと言います。
影を司る聖騎士でございます。 よろしくお願いいたします」
さっきはまともに会話して無かったから大人しいくらいしかイメージ出来なかったけど、なんか妹キャラぽい?
衣装もドレスバージョン、祈心装備というらしい、になってるし、銀髪って何? めっちゃ可愛い。
「影?」
でも、影?
「あ、そうでした、聖騎士についてもご説明する様に言われています。
本当は、聖騎士のまとめ役でありますオルテミアス様がされる予定でしたが、衣装の件もありましたのでわたくしが代行させていただきます」
「高橋舞子です。 よろしくお願いします。
仲良くしてくれると嬉しいです。
あと、説明もよろしくお願いします」
「がんばります。
ええと、聖騎士はね、光、炎、雷、音の主となる理を司る四人と、それぞれに付き従う影、氷、土、風が居るの。
わたしは、光の聖騎士オルテミアス様の従騎士、影の聖騎士なのです。
聖騎士になるには、それぞれの聖力を持っている事が前提で、あとは各聖殿にて修業をして、聖殿長が力を認めた者を指名するの」
話し方が少し幼くなった気がするのは、本来そういう感じなんだろう。可愛い。
「ほう」
「聖殿長は先代がなることが多いのですけど、居なければ候補者から王が指名します」
「なるほど」
「聖騎士の役目はね、それぞれの聖騎士の元に組織される部隊で治安の管理や害獣の討伐とか政治的な役割を担います」
「ふむふむ」
「でも、これからは、徐々に各部隊から離れて結星門の封印を目的に動く事になります。
神殿長直轄組織になるのかな」
「皆さん、神殿に集まるのです?」
「そうですね、敵の動向次第みたいです。
門から侵入して来た敵の残存戦力がどのくらい居るかわからないので、どうするか検討しているそうです」
「全部やっつけたわけでは無いのね」
「はい、門の前の敵陣はそのままなのです。
敵はかなり準備してきた様で、次に門が開くまで死守する作戦の様です。
森などに潜伏している者も居ると想定しています。
さらに、嫌がらせみたいに最初に大きな獣をかなりの数放たれています。
こちらも門を見張るための砦にかなりの戦力を置いていますが、攻めあぐねて居るようです」
「膠着状態ですね」
しったかぶりな台詞でごめんなさい。
「今、指揮をされているのはアスカール様、あ、炎の聖騎士様なのですが、他の聖騎士様が援護に向かわれると思います。 それも検討しています」
「そっか、実際、戦いが起こってるのですものね」
「はい、わたしは神殿の守護が役目ですが状況に応じては派遣されるかもしれません。
一番弱いわたしが行っても役に立たないですけど」
「他の聖騎士様がものすごくお強いのね」
「はい、そうですね。
では、時間まで衣装の練習、しましょうか?」
「あ、そうでした。 ぜひに~」
この後、何度も変わってもらい戻してもらって、感覚が掴めてきたおかげで、自力で戻すのはなんとかできる様になった。
これなら慣れてくると自分の意思で自由にできそう。
何よりも、これで鎧にされてもすぐに戻せる。 多少でも露出を減らしたい。
そして最も気になっていたアクセサリーの件、試して見た。 今なら彼女一人だ。
綺麗なビキニアーマーになった。 それでも微妙なあたりが消えるよりはましか、最悪の場合でもセーフだ。
「では、次の機会には、あなたのお話を聞かせてください」
そう答える笑顔の妹可愛いなぁ。
「そうします。 たいしたお話はできないですけど……。
でも、とっても楽しみです」
今日はこれで時間だ、実質何にもしてない気がするけど、こんな感じで大丈夫なのかな。
いや、ガンドレルさんとは友達にはなれたと思う。
でも、どういうレベルの友達になればいいかも分らないのよね。
わたしの話もして理解してもらうべきなのはわかるけど。
それにしても、今戦地にいる聖騎士様とはどんな話すればいいのよ。
ああ、やっぱり不安が……。