3:別な星へ
約束の夜になり、お迎えの二人が案内してくれたのは、学校からそう遠くない神社でした。 ここに神社があるのは知ってたけど訪れたのは初めてです。
「あの、風見さんは?」
なんとなく聞いてみる。 あっ、これを聞くなんて、会いたいから来たみたいに思われるかも?
「結星門の前でお待ちです。 こちらへ。
それから、私達の事は名前の方で呼んでいただければ幸いです。
苗字は同じですので」
名前の件、それはそうか、でもちょっと抵抗あるなぁ。心の中では中途半端にそうしてたけど。
さらに案内されて先へと進むと神社に関係するだろう建物の横を通り抜け、竹林を抜け、奥にある小高い山の前で止まる。山というか綺麗な形は古墳とかを想像させます。
その山には古い扉がありました。幅は五十センチほどだろうか、高さは身長百五十七センチのわたしがかがまずに通れるくらい。 颯矢さんには窮屈そうだろうとちょっと思った。
しおりさんが扉を開けて先に入る。 続くように入ると、それほど明るくは無いが照明は点いていて奥が少し見えた。 ほぼ扉の幅のままだけど、左右いや上下も切り出して来た石を並べたみたいな感じだ。
「階段があります」
しおりさんが教えてくれた。 たしかにすぐに下へ向かう階段が現れた。
そこを三十段ほど降りるとまた扉があり、躊躇なくしおりさんが開けて入るので、遠慮なくつづいた。
扉を入ると急に大きな空間に出た。
広いので感覚だけど部屋の形は円形だろうか、ここも石をうまく組んで作っているみたい。
中央付近に鳥居? いや門らしきものが見える。大きさは縦横四、五メートルはあるだろうか、さっきの扉とは違って大きい。そして、光も発しているのか門の中は眩しくてよくわからない。
光が無ければ向こうが見えるはずだろうけど。 鳥居みたいな形状に奥行きはほとんど無い様に見えた。
その前に人が立っていた。 颯矢さんだろうか、光が眩しくてシルエットのサイズ感からそう思えた。
近づくと、やはり颯矢さんだった。でも……
「え……」
え? どういうかっこ?
「どうかしたか?」
真面目な声で聞かれた。
「ええと……ぷっ、ふふふ」
いや、聞かないで、お願い。
「なんで笑う」
そう、わたしは笑っていた。しかも爆笑に近い。ごめんなさい……ぷぷっ。
「その顔でコスプレって感じが……ふ、ふふふ」
颯矢さんのその格好は、和洋折衷な忍者って感じでアニメとかに出てきそうなデザイン。
そして顔が良すぎるからこそリアルで無ければ間違いなくカッコいいはずなのだが……。
でも、目の前に居るのはきっと真面目な格好なのだ。だから余計に来るものが……。
「ほっとけ……だけど、あんた笑うと可愛いぞ」
「へ?」
うお、その返しは年頃の娘に対してはずるい。 しかもこんなタイミングで言うか? 悔しいけど、もう負けでいいです。
「あ、いや、その笑顔はきっと役に立つってことを言いたいだけだ、勘違いするなよ」
そして、何そのツンデレ台詞……とかよりもめっちゃ照れる。 実際破壊力あるのかもツンデレ台詞。
「愛想笑いをしろってことです?」
いや、デレは無いはずだから、ここはまともに受けない様に流そう。 抵抗しないとニヤケる。
「そういうことだ」
ですよね~。
「颯矢様、開きます」
いいタイミングで、場を切ってくれたナイスしおりさん。
え、開く? そうや”さま”ってのもちょっとひっかかかったけど、今はいいか。
眩しかった光が徐々に薄れて行く。
向こうが見えた。
こちらの石造りと違ってもう少し高級そうな雰囲気の部屋が見える。
「これで納得してくれるか?
では、行くぞ」
颯矢さんは、そう告げてすたすたと門をくぐって行く。
「なるほど、そして行きます」
遅れない様に続く。 確かに門はあった。 だから、後は説明を聞く。
「いってらっしゃい」
姉弟は来ないのだろう、挨拶とお辞儀で見送られた。
門をくぐるとすぐに衛兵さんだろうか鎧っぽい装備の方が左右に二人づつ並んで立ち、その手に持つ大きな槍を交差させて通せんぼをした。 なんか居るって感じだけど、ほんとに別な星?の疑問符が浮かぶ。今更だけど、別な星なんて何万光年とかかけて宇宙船で行くくらいしか想像できない。
「……様、その者は?」
ん? 今なんて言ったのかな、んでれさま? 考えてたら聞きそびれちゃった。 まぁ、わたしに質問されたとかじゃなさそうだからいいか。
「巫女様だ、通せ。
あと、先に一人報告に行け」
「はっ」
衛兵さんは返事をすると交差させた槍を立てて通してくれると共に、一人が槍を所定の位置だろうか立てかけると走って奥の扉を出て行った。
「少しここで待ってな」
「はい」
答えて後ろを見ると、しおりさんが小さく手を振って反応してくれた。
わたしも振り返す。 待っててくれてるのかな、二時間くらいなのだろうか。
「何をしてる?」
颯矢さんが不思議そうに聞く、いやわかるでしょ。
「なんでもないです」
「こっちへ来い」
颯矢さんは、何か合図を受けたのかさっき一人が出て行った扉の方へ向かう。 もちろん付いて行く。衛兵さんに会釈しながら、そして愛想笑いを忘れない。
扉を出ると、広い部屋、いやいや豪華な絨毯とか家具とかあって洋城の中の大広間みたいだった。
壁際に並んでいる高そうな椅子の一つを勧められたので、遠慮なく座った。
「これから、誰か来る」
「誰かって、そんな適当な」
「だって、この時間に対応できるやつを全部言うのか?」
「なるほど」
「まぁ、俺より偉いのは間違いない」
「あなたって……」
「ああ、下っ端だ」
「言って無いし」
「来た」
さっきの衛兵さんを先頭にして、五人の男性と三人の女性が来るのが見えた。
「何この、お城っぽい人達」
つい、思ったことが口から出た。
「城みたいなもんだからな」
それに返すんだ。流していいのに。真面目なのかな。
「ようこそ我が星へ、地球の方、わたしは大臣をしておりますコードラットと申します」
目の前まで来ると、一番偉いだろう人が挨拶してくれた。 三十代くらいだろうか、イケメンのおじさんだ。 他の人は従者かもしれないけど、皆さん顔がいい。結星門の衛兵さんも兜の下はきっとイケメンだろうと想像した。
そうだった、星っていうかこの人達全員宇宙人だった。
「始めまして、高橋舞子です。
よろしくお願いします」
とりあえず定型文。
「固くならないでください、我々はあなた様を歓迎いたします」
「ありがとうございます」
固くなって返す。
「では、こちらへ」
そう告げてぞろぞろと皆来た方へ歩き出す。
「行くぞ」
颯矢さんが、サポートしてくれている様だ。
さっきの女性三人はわたしの後方について居る。ちなみに、言わずもがな美女である。
案内されたのは、貴賓室というやつだろうか、やっぱり洋城感が半端ない。
部屋に入ると、さらに偉そうな感じの人が迎えてくれた。 さらに大勢の美男美女の団体。
「私は、神殿長をしておりますガイラムと申します。
この度は、来訪いただきありがとうがとうざいます」
どこかでみたような法王的衣装はその立場を納得させる。 そしてに手には本を持っている。向こうで見せられた本よりも少し大きくて豪華な感じ、そして使い古された感じの傷み具合、なるほど。
「始めまして、高橋舞子です。
よろしくお願いします」
とりあえず定型文。
「ランディル、この度はご苦労様でした。
こんなに早く見つけてきてくれるとは、さすがワインドリュー家の方ですね」
ランディル? それが彼の本名なのね。 ”そうや”の方が合ってる気がするけど、今のかっこならランディルかなぁ。
「見つけられたのは運がよかっただけですし、来てくれたこの者の心根のおかげです」
わたし、誉められたの? そして、この者って……言い方に笑いそう。
「そうですね。
巫女様には感謝しかありません」
「神殿長」
「なんでしょう、ランディル」
「この方には、まだ承諾はしていただいておりません。
神殿長の話を聞いてから判断する事を前提に来ていただきました」
「なるほど、承知いたしました。
あなたの英断に感謝を、そうです無理強いをする事はできません。
では、結星門の時間もございませんので、早速、ご説明させていただきます」
部屋の窓際?カーテンが掛かってるところにある応接セットの方へ掌で示された。 あそこで話しましょうってことよね。
「お願いします」
椅子に座ると、すぐにお茶?とお菓子?が出された。 器がやはり品格高い気がする。こういうのは触るのに勇気が……。
「お口に合うかわかりませんが、どうぞ、おくつろぎください」
「ありがとうございます。 いただきます」
とりあえず、お茶を一口、美味しい、紅茶っぽいかな。
神殿長はそれを確認したからか説明を始めた。
「発端としましては、半年前、我々の星に他の星の者達が侵攻してきました。
我々も対応しておりますが、現地では対抗手段に乏しく敵に押され気味な状態です。
幸い、非難を優先いたしましたので人的被害は出ておりません。しかし、今後、状況は厳しくなるものと思われます。
さて、結星門につきましては通って来られたので、どのようなものかは理解されたと思いますが、それに似たような門が敵星とも繋がっております。
敵側結星門は、二カ月に一度、二十時間ほど開きます。直近としては三日前に開きましたので次はほぼ二か月後です。
我々は、その門を閉じたいと考えております」
「なるほど」
単純に侵略者が来られない様にするって事なのね。 問題はどうやるのかよね、そしてわたしに何ができるか。 そして、人的被害は出てないってのは、死者が出てないという意味なのだろうか。
「閉じる為の方法がこの聖典に記されており、巫女様が居なければ成立しないのです。
具体的な方法はおそらくお任せすることになりますが、代わりに流れをご説明いたします。
まず、能力のある聖騎士八名をそれぞれ主従四組に割り当てます。
これは騎士の名誉として古より代々存在しております。もちろん現在も。
次に、主となる聖騎士を各聖殿にて神聖騎士として認めさせます。
そして、神聖騎士四人にて門へ聖力を注ぎます。
以上です。
巫女様の力が必要なのは、その中で聖殿に聖騎士を認めさせる際です。
主聖騎士の聖力のみでは及ばない分を従聖騎士が補うのですが、その間を繋げる役目を担っていただきます。
しかしながら、主従間の気持ちを一つにするため、巫女様は主、従それぞれの者と気持ちが通じ合う必要があります」
ここで、一旦話を切ってわたしの目を見た。 ここまでの説明わかりましたか?ってことよね。
「あの?」
先生質問。
「どうぞ」
「気持ちが通じ合うと言うのは、仲良くなれって感じですかね?」
「おそらくそうです。
申し訳無いのですが、文章から読み取れるのは気持ちが通じる必要があると言う曖昧なものなのです。
前回やそれ以前の文献も探しましたが、特にそれ以上のことは判明しませんでした」
「そうですか……。
具体的な方法は任せるって言うのは、仲良くなる方法なのね。
ただ、知り合いになれば良いってわけでも無いのか~」
落とせってことだと自信無いかも……う~む、それに……。
「我々でできることは全力でご協力させていただきます」
「ええと、ここまで説明していただいて、できれば達成して皆さんを救いたいと思いました。
でも、怖いです。
そういう国に生きて来なかったから、他の国で起きてる争いを他人事、いえ現実とも思って無いくらいの無関心だった自分が、逃げ出さないと言い切れない。
そういう時が来たらと思うと怖いです。 もちろん戦争下に身を置くことも、ものすごく怖いですけど」
不安しかないのも事実だけど、話を信じる前提であれば、自分しか、いや自分に何かできるなら協力はしたい。 さっきの説明、人的被害以外がかなり出てるのよね。そして、これからは人的被害も。
「これは神殿長では無くただの年寄りの気持ちとして、気休めにお聞きください。
今、ここに来ていただけたあなたなら、大丈夫だと思います。
見ず知らずの星へ、たった一人で赴いていただいた勇気と、貴星にとっては取るに足らない我らの戯言を親身に聞いてくださった優しさ。
例え実現できなくても我々はあなた様へは感謝しかございませんでしょう。
だから、やってみてはいただけないでしょうか?
星を救うとかたいそうな話では無く、ただ騎士達と友達になってください」
確かに簡単に言うとそういう事なのに、背景が重すぎて引き受ける勇気が……。
「俺達からも頼む」
颯矢さんの声で振り向くと、その場に居る全員が頭を下げていた。
「わかりました。 巫女、やってみてもいいですか?」
妙に力が湧いた気がしたのは、けっしてイケメン達のせいでは無いと信じたいが、このタイミングでオーケーしたのはそう取られてもおかしくないと一瞬考えるただの女子高生だった。
「おお、ありがとうございます」
手を取ってお礼を言われた。
周りの方々も嬉しそうにありがとうございますとかやったーとか言ってるのが聞こえる。
本当にわたしなんかでいいのだろうか、でも、なんとか頑張ってみよう。
「後付けで申し訳無いのですが、方法自体は危険なものにはならないと思われますが、戦時下にあって、戦況や敵の作戦次第では、いかなる危険が及ぶか言及できかねます。
最優先、全力でお守りさせていただきますので、ご安心ください」
「はい、この際全力で信じさせていただきます」
そしてまた、周りの方々が大盛況だ。
「さっそくですが、別なお部屋で採寸をお願いいたします。
巫女様の衣装が必要となりますゆえ、ご協力願います」
「わかりました。
あ、その前に、すっかり聞くのを忘れてた重要な事がありました」
「どの様な件でございましょう?」
「どうして私なんですか?」
ああ、恥ずかしい、これ知らないのにノコノコ来てるアホたれ丸出し、でも、最初に言ってくれてもよかったよね。
「ランディル?」
神殿長が颯矢さんに振る、当然か。
「言って無かったか?」
「はい」
「アザだよ、首の付け根のやつ」
肩から首に掛けて少し大き目の痣がある、しかも怪我とかでついたのでは無く生まれつきだ。
「へ? なんで知って……」
あ、あの朝ブラウスがはだけた時に見えたのか。 思わず赤面。
「そこから少し聖力が出てるのさ、姉にはちゃんと見えるからな、俺にはほんの微かにしか見えない」
ああ、あの時お姉さんが居たのって、確認させるために呼んでたってことね。
「そうなんですか、では、あの事件……が無かったら」
思い出すと怖いけど、なんか良かった様な、複雑な心境になる。
「もともと、姉があの手この手で多くの人をなんとか見て回る。
存在は、結星門からある程度の距離に限られるのと年齢が高校生に合致するから、近くの高校を転校しながら探すつもりだった。しらみつぶしに。
まさか二校目の三日目、しかも護衛役の俺が見つけるとは思ってもみなかったさ」
「な、なるほど、それは……、
それじゃ、わたしの他にも居るって事です?」
こちらの大変さを聞いたからか、方法を聞くと、重要性を曖昧に感じてしまった。
「居るはずだ。 しかし、実際探してみての感想たが、途方もない話だ。
調査に向けられる人員不足もあるが、奇跡だったと思ってるよ。
念のため捜索は続けるつもりだが、次の奇跡とか運命とかに導かれる事を当てにするのが前提になるかもしれんな。
ああ、捜索が三人では少ないと思ったかもしれないが、多くは出せない理由がある。 それはこの世界をもう少し理解してもらうことが必要だと思う」
「そうですか、興味本意って言うと申し訳ないですけど、いろいろ見せて欲しいです」
「聖騎士様達に案内してもらえばいい」
なんかちょっと冷たく突き放された気がする。む~。
「では、そろそろよろしいでしょうか?」
控えてた女性が声を掛けてくれた。
そうだった、採寸よね。
別室にて、いろいろと計られた。 囲む美女軍団に圧倒され弄ばれながらって感じでした。
それが済むと、時間間際だったのか、慌ただしく結星門から出された。
今、門の向こうで皆さんが頭を下げている。
大丈夫よ、明日もちゃんと来ます。
お辞儀して手を振ると、結星門の中が最初の時と同じ光で埋まった。
「おかえりなさい」
しおりさんが迎えてくれた。
「ただいまです」
「すいません弟は先に帰らせました。
明日の朝ご飯担当ですので先に就寝する様に。
言って無かったですけど、そこが私たちの家なのです。
父はおりますが、母がおりませんので、家事は私達で分担しております」
「そうだったんですね」
「帰るんだろ、送るよ」
颯矢さんが提案してくれた。
「お願いします」
そう、もう十二時過ぎだ。
「では、また明日お会いしましょう」
「はい、また明日」
しおりさんと挨拶を交わすと、既に先に歩き出していた颯矢さんに追いつくべく軽く走った。
「今日は、ありがとな。
実際、まだよくわからんだろうが、無理せず頑張って欲しい」
帰り道、しばらく黙っていた颯矢さんがふいに口を開いた。
でも、その通りなんだろう、よく分って無い、引き受けてよかったのか、まだ迷ってる。
「がんばりますよ。
興味本意ですけどね」
「それでいい」
「でも、宇宙人って居るんだなぁ」
「そこかよ」
「ただ、見た目変わらないから実感湧かないかも」
「そうだな」
向こうの星の人達もきっとそうなのだろう、だからすんなり話せたんだ。
「あ、それから、皆さん学校ではしばらく知らない振りしてくださいね」
「了解した」
学校の状態も把握してるのだろう、察してくれた。
「あ、ここまででいいです」
家の近くまで来てしまっているのに気付いた。
「そうか、では行け、家に入るまでは距離を置いて見ておく。 じゃ、気を付けてな」
「また明日、じゃ、おやすみなさい」
そして駆け出す。 ちょっと走りたいのは子供っぽいか。




