27:二人の黒戦士
森の中を歩き初めてから三十分はたったでしょうか。
既に田中さんが調べてくれた辺りに近いと思います。
「ねぇ、あれ」
おもむろにふみちゃんが右側の方を指さす。
「ん?」
そちらを見ると、木の本数が少ない場所が見えた。良く気付くなぁ。
「見てきます」
すぐにガンドレルちゃんが反応して、そう言うとすっと消えて、その場所に立っていた。
そして辺りを見回してから、同様に戻ってきた。
「えと、いかがです?」
とりあえず聞く。
「何かの史跡があった場所かもしれません。
不自然に平坦でした。
ただ、特に何かの力があるようには感じませんでした」
「そっか。
この先で似たような場所が出てくるかもしれないね」
「つまり、この辺に目星を付けた田中さん当たりかもね。
まぁ、どんどん進んでみましょ」
ふみちゃんは、ノリノリだ。
「申し訳ありませんが、周辺の地形はお二人にお任せしてもよろしいですか?
わたしは前方と魔獣の気配に集中しておりますので。
ドレッド様は、何かしらの力を感じたらお教えください」
「それで行きましょう」
そう、ガンドレルちゃんは病み上がりのうえ、心にもダメージを負ってるはず、わたしたちでできることはどんどん言って欲しいわ。
「もちろんおっけーよ」
(「おい止まれ、ここは闇じゃ無さそうだ。
微かに感じる聖力、風か、いや音じゃないだろうか」)
そして出鼻をくじかれたかも?
「待って、ドレッドさんが、この辺のは闇じゃ無くて音かもって」
音が主の場所ってことなのね。それはそれで大発見だと思うわ。
「おお、じゃぁ、さっきの場所って、ものっすご~い昔に、音楽に良い感じな雰囲気を感じて音楽関係の施設を作ってたかもしれないね」
ふみちゃんの分析だけど、なるほど。
「聖殿とか聖騎士とかは、まだ無かったころだろうね」
「では、今日は戻りましょう」
ガンドレルちゃんは、すぐに切り替えた様に切り出す。
「時間いっぱい探すとかしなくていいです?」
「はい、今は必要ありませんし、巫女様方には少しでもリスクを避けていただきたいので」
戻って田中さんに相談、今回の情報を使って、さらに分析をしていただいた。
今回の場所と風の聖殿とのつながりを想定し、直線で結んだ線よりも光の聖殿寄りでかつ、他の聖殿の位置を並べて、それっぽい場所を選択した。
音の聖域については今回は置いといて事が落ち着いてから捜索されるでしょう。
「じゃぁ、明日はそこに行ってみましょう」
「巫女様、明日は俺も行きますよ。
ちょっと良いものがあるんです」
田中さんが、なんか妙に嬉しそうだ。
「珍しいですね。
でも、神殿の外に出て大丈夫なんです?」
「ええ、まぁ」
田中さん、なんとなく歯切れの悪い感じです。何か隠してる?
翌日。
田中さんが待っていた。
「早速行くとしましょうか。
準備はできています」
いつもと違って兵隊さんの服(正確にはパイロット用らしい)を着ている。妙にやる気も感じるぞ。
「その服が良いものなんです?」
「そんなまさか~。
いやいや、この服から想像できません?」
「できません」
あっさりと答える本音です。
「わたしわかりますけどね」
ふみちゃん、ほんとか?
それはドローンの大きいやつ、そう人が乗れるくらい、つまり空飛ぶクルマというものだと思う。
エンジンは爆発が抑制されるから使えないけど、モーターが大丈夫なのはわかっているのでこっちに部品を持って来て組み立てたらしい。
わたしたちが来るまでに組み立てとテストを終わらせてくれてました
「これ幾らくらいするの?」
ふみちゃんが聞く。
「聞かない方がいいですよ。
最近、イベント等で目にするようになったと思いますけど、こいつは、こっち仕様にカスタマイズしてて、ほとんど別ものになってます。
地球で使ったら戦闘機並みかもしれませんよ」
ああ、そういうのわたしに説明されてもですよ、男子め。
「ますます知りたい」
ふみちゃん、本気か?
「機密事項です」
「もったいぶってその答えかよ。
もう、お前を信じないからな」
ふみちゃん、どういう目線の言葉だろう。
「ははは、それは困りますね。
でも、機密情報は機密なんですよ」
「知らないなら知らないって言えばよかったのに」
「暇だからって、無意味なやり取りしてないで、この景色に集中しません?」
そう、窓の外の景色はとても綺麗だった。
「すいません、まだ着きませんか?」
ガンドレルちゃんの顔色が心配になる色をしている。空飛ぶ経験っていうか、こっちの世界そういう概念がまったく無いのよね。
「田中さん、わかります?」
「あと五分程かと、聖騎士様、もうしばらく御辛抱ください」
実際乗り心地は悪くないです。さすが幾らかわからないほどの乗り物。
それから五分ほどして、森の木の生えて無い場所を見つけて着陸した。
木は無いとはいえ岩が出てたり平坦では無いのだけど、なんか足が四本出て少し高い位置だけどバランスの良い状態です。
「俺は、ここに待機しています。
この機体それなりに丈夫ですし何かが触れると自動で上空に逃げるはずですので気にしなくていいですよ」
田中さんがまたなんか説明してる。そういうのまったく気にしてなかったですよ。
「はい」
とりあえず答える。
田中さん、そういえば外に出られないのか。気持ち悪いの我慢すればいいみたいだけど、これ動かせ無いと帰れないし。
「呼ぶと来る?」
ふみちゃんは聞き返す。
「ええと、まぁそうですね。
無線が届けば」
そうだった、そういう類はあまり機能しないんだった。
「いや、声で」
「なるほど、今度実装を申請しておきます」
田中さんが、まじめな顔で答える。
やっぱりそんなの無いですよね……いや、最近スマホとかも声に反応するか。
「あ、だったら犬笛とか?」
「それも申請しておきます」
「それでは、降ろしてもらえますか?」
さぁ行こう。今日は何か掴みたい。
「いちおう近距離レーダーやセンサーにおかしなモノが写らないか確認してました。
では、どうぞ」
すぐに扉が開くとその横に梯子に近い階段が現れて、苦労せずに降りられました。
「行ってきます」
「お気をつけて~」
田中さんは笑顔で手を振ってくれたのですが、なんか恥ずかしいので手を小さく上げて応える。
降りた場所は、この高級な空飛ぶクルマが降りれたというだけで決して人が歩きやすい場所とは言えなかった。
ガンドレルちゃんは身軽に進むが、我ら二人は四苦八苦だった。たぶん聖衣で無ければ傷だらけだったでしょう。
そして森の中に入ってからも獣道さえ無い状態でガンドレルちゃんが枝を払ってくれながら進みます。
ただ、進む方向は決まっています。地図で付けた目星の場所を上空から視認してそれっぽいものが見えたのです。
「巫女様、ここに居てください」
ガンドレルちゃんが、いったん止まるとそう告げて消えた。
ほぼ同時にドレッド様が「敵だ」と教えてくれた。
「巫女様はここにいなさい」
そして、ふみちゃんが緊張感のある声でそう言った。
「ふみちゃん?、もしかしてフミさん?」
「はい。
あの娘では荷が重いかもしれません。
わたくしが行きます」
「え? どういうこと?
いや、ええとふみちゃんは戦ったらダメなような」
(「俺が行く」)とドレッド様。
俺がって、それってわたしなんじゃ?
「ああもう仕方ない、みんなで行きましょう」
なんだか嫌な予感がする。二人そろってそんな風に言うのもあるけど。
「せんしん」
ふみちゃん、あっとフミさんが戦心装備に変わる。
「あ」
わたしの祈心装備が連動して戦心装備に変わり、すぐにその色が白から赤に変わる。
(「安心しろ。わかっている。君に人殺しはさせないさ」)
ドレッド様、信じますよ。
少し離れた場所。
「一人で来たのか?
しかも可愛い少女だ」
敵は黒戦士だ。 仮面の下で舌なめずりしてる感じ。
「ここで何をしているのですか?」
「おお、声もいいな。泣かせてやりたくなる」
「答えない様ですので、倒させていただきます」
「待てよ、あんたの問いに答えるのは簡単だから答えてやるよ。
なんかおかしな物が浮いてるのが見えたから様子を見に来たのさ」
空飛ぶクルマは地上から丸見えだったのだ。そりゃそうだ。
「ありがとうございます。では参ります」
「おっと、見た目はどうあれ聖騎士か、だがこの程度かよ残念だ」
黒戦士はガンドレルちゃんの剣を余裕で受け止めていた。
以降何度か剣を合わせるが明らかにガンドレルちゃんが押されている。
そして、一瞬の隙をつかれ剣の柄で鳩尾に強烈な一撃を受けてガンドレルちゃんは意識を失ってしまった。
「あらら、なんてことするんだよ」
黒戦士の背後から別な者の声がした。
「きさまも来たのか」
「ああ、あれが見える範囲ではお前と俺くらいだろうがな」
わたしたち二人が到着したとき。
黒戦士と、その腕にマントにくるまれ御姫様抱っこされているガンドレルちゃんがいた。
そして黒戦士は静かに言った。
「俺は投降する」
両手が塞がった状態を敵を目の前にしても崩さない理由だった。
さらに少し後方に、もう一人の黒戦士が倒れているのが見えた。恐る恐る確認してみると頭はあるので自爆では無い?血がすごく見えたけど気絶してるだけ?
「え???」
つまり、わたしは疑問符を浮かべた。とりあえず同時に三つ。ガンドレルちゃん?投降?もう一人はどういう?
「聞こえなかったのか?
投降すると言っている」
この時(「今、俺が倒す」)とドレッド様。
(小声で右手に「だめだってば」)
「その娘に何をした?」
フミさんが聞く。
「この状況で察して欲しいが、まぁいい、こいつを助けたのさ」
「では、そこに倒れている者はあなたが倒したと?」
「そういうことだ。
そして、今は念のため人質にしているかな」
「でしょうね。
わかりました。投降は認めましょう。ですが、拘束はさせていただきますがよろしいか?」
「ああ、構わない」
「では、その娘を渡してくださいますか」
フミさん、強気だ。
「どっちに渡せばいい?」
「わたしが……あ、フミさんお願いできます?」
「もちろんです。
あの男何するかわかりませんので」
あの男とはこれはドレッド様の方でしょう。
「俺が?」
「すいません、こちらの話です」
「まぁいい、で、どうする?」
拘束しないとだけど、手だけでいいよね?
(「おかしな真似をすれば俺が倒す。
ただ、自爆を警戒する必要があるだろ? だから距離をとって着いてこさせればいい」)
そっか、投降が本気なら勝手についてくるよね。
「あ、あの、少し離れてついてきてください。
あなたを信じますので今は拘束もしません」
「あまちゃんだな。
だが、俺はそれでかまわない」
フミさんがガンドレルちゃんを受け取り、そのまま来た方向へ戻った。ガンドレルちゃんが意識が無い状態では聖殿も見つけられないだろうし、それ以上に体が心配。見たところ怪我は無さそうだけど。
空飛ぶクルマに戻ると、
「どうしたものか……。
自爆されるとまずいです」
田中さんがものすごく困った。
飛んでるときに自爆されたら一網打尽だし落ちますよね。
(「吊るしていけ」)
ドレッド様、そんな無茶な~。
「最優先はお二人、いや三名の命です。
ですので、提案いいですか?」
「まず、お三方を運びます。
そしてここへ戻ってきますので、そちらの方には待っていていただく」
「あの、わたし残りますよ」
提案してみる。
「ダメです」
「あ、はい」
「最悪、俺とこの乗り物がどうなっても大勢に影響無いですからね」
「そんなぁ~」
「田中、わたくしもあなたに賛成です」
フミさん?ふみちゃん?
「俺は徒歩でいい。
そちらの拠点に行くつもりだ。
先に手配をしておいてくれ」
この人、ここに来てる時点で自力で移動可能なのは確かよね。
「なるほど。
助かります。では、とりあえずこれを渡しておきますので衛兵にでも見せてください。
ただ、その場で拘束されると思いますが、大人しく従ってくださいね」
田中さんはそう答えながら、名刺を取り出して渡した。
「承知した。
早く行け、その娘が心配だ」
めっちゃ良い人?う~ん、作戦?
「はい。では、急いで戻りましょうか。
確かにガンドレルさんの容体が心配です」
「そうですね。急ぎましょう」
田中さんが帰りの機内で話していたのが、彼を捕虜にできれば重要な情報が得られるはずなので、渡りに船ではあるらしい。
でも、やっぱり自爆できるというのが非常にやっかいで、それをさせない施策またはしないという信用が必要。
そして、最重要の一つ、上司の許可が必要。
で、たぶん、いろいろ準備できるまでは薬で眠ってもらうということで解決するらしいです。効かなくても効いたふりしてくれるといいなぁと付け加えてました。
それからガンドレルちゃんは外傷としておなかに打撲痕があったけど、特に血が出るような怪我は無かったそうです。
ただ、衣装の上部がかなり破損していたらしいです。
さらに、あの倒れていたもう一人については、後で調査に行ったところ、背中から心臓を一突きされていたそうです。死んだふりでは無かったことが確認されました。
そこまでしでても潜入するという作戦の疑いが払拭できないのは、現時点では仕方のないことなのでしょう。




