21:神殿襲撃
神殿です。
たった今、砦から伝令として派遣されて来た早馬が到着した様です。
伝令の人は神殿長の前まで走って来るなり息を整える事も無く報告します。
「神殿長、ご報告申し上げます。
敵軍は、こちらの進軍前に撤退を始めました。
ですが、敵の精鋭が国の要所へ派遣されたのでは無いかとのことです」
要点のみを素早く報告、さすが。
「少し待ってくださいね。
待機されている聖騎士様方を大広間に集めてください。
それと、警備の強化を急いでください」
報告を受けた神殿長は、すぐに側近の一人に指示を出します。指示された側近の方が急いで部屋を出て行きました。
そして再度伝令者へ問います。
「こちらに被害は無いのですね?」
「はい。
ただ、詳細不明なのですが、古の神聖騎士様お二人ともなぜか発現し、アスカール様、ガンドレル様ともに休息に入っておられます」
「そうですか、何か大事があったのでしょうが分析も困難ですね」
古の神聖騎士様がからむと本人達以外よくわからないのに、あの人たち説明もしてくれないのよね。
十分後、
神殿の会議室、今は作戦指令室みたいな?
神殿残留組のダリアン様、ランデット様、アーク様の三人の聖騎士様が揃って話をしています。
「ランディルはどこへ行ったのでしょう」
ランデット様が呟く。 ランディルは颯矢さんのことっと。
「ここ数日、見ていないと巫女様もお気にされておりました」
控えている衛兵が答えてくれます。かなり気にしてますよ~。
「少しでも目が必要な時に……。
だが、あの黒い鎧の者、我らで抑えられるのだろうか」
今の状況って実は不利なのだろうか? 攻めに行ったのも焦ってる感じの作戦だしなぁ。
「なんとしても神殿内へは入れない様にするぞ」
ダリアン様が厳しい表情で答える。
今、神殿に居る聖騎士で実際黒い鎧と対峙した者はいないのですが、報告された内容から想像されるその強さは、聖騎士様の能力を遥かに越えているのです。
「俺に古の神聖騎士の力があればなぁ。
でもさ、なんで聖騎士でも無く、そもそもこの星の者でも無い人間に乗り移れたのだろう?
俺がふがいないばかりに、ふみ様にも申し訳無さ過ぎて……」
アーク様もふみちゃんの事を気にしてくれてるのね。 あとちょっと羨ましい?
「それは、わしの台詞だ」
ダリアン様は、アーク様の頭をかるくこづく。
「そもそも我々は、聖騎士の力についてさえあまり考えてこなかったですからね。
今が、いろいろ知る機会なのでしょうが、そんな悠長な事は言ってられない。
もう一日あれば私も試せたのですが……」
ランデット様が冷静に応じる。
お城です。
こちらへも早馬での報告が入っています。
「そうですか。
任せますよ、ミュークラウン」
王様は近くに控えているミュークラウン様に告げる。
現在、お城に居る聖騎士はミュークラウン様だけなのだけど、一般の騎士が当然たくさん居ます。 そして聖騎士見習いの方達もここへ避難してる人が多く居ます。
「御意。
ですが、多勢に無勢、表立っては仕掛けてこないのではと考えますわ。
我々は王の守護に全力集中させてくださいませ」
ミュークラウン様は、やんわりと応じる。
「確かに、現状、あえてここを狙う意味はほとんど無いでしょうね」
「本命は巫女様かもしれませんわ」
え? 本命わたしって、暗殺ターゲットの本命……よね?、そんなぁ……
「あちらは、ことごとく時間稼ぎの陽動作戦の様でしたから、早めに仕掛けたのですが裏目に出ましたかね」
「あきらかに時間稼ぎでしたよね。それでもって目的はきっと果たしている。
他人事の様で申し訳ございませんが、これまでの経緯では、こちらは行き当たりばったりの作戦に見えますわね。
ずっと後手に回っていたのですから、今回の仕掛けは逆転の一手としては有だったと思いますわ。 早めに、では無いですが」
ミュークラウン様って、王様に皮肉?
「ほう?」
「でも、ここに来て、巫女様の存在には気付ていると思われますので、その分こちらの戦力を計れなくなってきたのでは無いでしょうか?
ゆえに、巫女様の排除を最優先にする可能性が高いのではと……」
「わかりました。 巫女様のご協力はここまでとしていただく様に神殿に連絡をしてください」
あれ? なんて言うか、王様ありがとうございます。
「懸命なご判断感謝いたします。
事が落ち着いたら、またご招待いたしましょう」
ぜひに。
「そうじゃの」
わたしたちが鈴木先生に報告した一時間後。
大き目のワゴン車が十台、少しずつ時間をずらしながら神社の駐車場などに止まり、それぞれから武装した迷彩服の人達が降りて来た。田中さんたちの例のトラックも到着したようです。
地球軍が到着したのです。
すぐに、地球側の結星門がある祠の前に陣を展開しはじめました。
そこから、左右の竹林や神社の屋根などにも人が配置されてます。
「登録されていない者が出て来た場合、即時にネットと麻酔銃を撃てる様にしておけ。
実弾部隊は二次防壁にて待機。
先日の捕獲者と同じ格好なら射殺も許可が下りている」
指揮官らしき人が無線機に向かって命令してます。 射殺って、凶悪犯みたいな、いや警察じゃなくて軍ってことはそれ以上なの?
結星門が開く日本時間の夜十時を少し過ぎた頃。
神殿にある厩舎が突然火事になりました。
「厩舎で火事が発生しました」
既にざわついている中、神殿長に報告が入ります。
大広間にて、ダリアン様、アーク様、ランデット様と話をしている最中です。
「来たか。
私は厨房の方へ行ってきます」
ランデット様が、すぐに厩舎じゃなくって厨房?へ向かいます。 厨房は厩舎から遠くて、勝手口とかあるみたい。搬入とかゴミ出しとかに使うのかな。
「厩舎の方、対応は必要か?」
ダリアン様が報告に来た兵士に聞く。
「いえ、消火及び馬の退避は既に実施しております」
「では、わしとアークはここで待機だ」
「了解」
アーク様は神殿長の後方に移動する。
神殿の厨房手前の廊下。
ぎゃーという悲鳴が複数聞こえています。
「遅かったか」
ランデット様が、走りながら呟く。
厨房の入口にあと十メートルくらいのところで、突然扉が吹き飛ぶ。
飛び散る破片と共に黒い影が飛び出してきました。 五つかな?
五つの黒い影は、ランデット様に斬りかかりながら駆け抜けて行きます。
ランデット様は、数か所斬られましたが、なんとか致命傷は避けられた様です。 ただ、それなりにダメージがあるのかその場に膝を付きました。
「厨房から進入者だ~」
ランデット様は皆に知らせるべく大声で叫びます。
「くっ、全く対処できなかった……」
そして、なんとか立ち上がりながら進入者の後を追います。
神殿の大広間。
侵入者が確認されたことざわついて、その喧騒に混ざって悲鳴も聞こえてきます。
既に神殿長や一般の方達は、別な部屋に退避しています。
敵の狙いが結星門である可能性は以前に侵入された際に確認されているので、その場合この広間を通るはずなのです。
扉は、ランデットさんが出てからすぐに簡単には開けられない様にテーブルや椅子で押さえてあります。
その扉と結正門への通路の中間にダリアン様とアーク様、そして衛兵さん達が待ち構えます。
「まずいな……監視も警備も被害がわからんが……戦力不足だ」
ダリアン様は扉の方を見つめたまま。
戦力不足、分っていてもこの方達は引かないのでしょう。
「この時間に攻め込んで来た以上、ぜったい結正門狙いだもんな。 あ、少し間を置いてたから巫女様狙いもあるか……」
アーク様も緊張が隠せない様子。
「向こうに出れば地球軍が待機してると思うが、当てにするわけにもいかん」
この理由が実はわたしにはよくわかっていません。 地球の兵器を使えばたぶんなんとかなってたんじゃ。
確かに日本だから戦争に加担できないのもわかるけど、何か方法は無いのかな。
わたしが、聞いて無い事ってまだまだあるんだろうなぁ。
そして、喧騒が近づいて来たと思うと、扉が攻撃されている様な軋む音がします。
そして静かになりました。
「ん?どうした」
ダリアン様の構えていた槍が少し下がります。
「扉をぶっ飛ばすほどの爆弾とか大技とかが来るんじゃないかな?」
アーク様が、衛兵さん達に下がるように手で合図します。
二、三分待っても何も起こりません。
「こっちが様子見で扉を開けるのを待ってるとか?」
アーク様がシーンとした空気にじらされたのか予想します。
「ランデットが倒したのか、だと助かるが」
ダリアン様も続きます。
その時、
扉の向こうからまさにランデット様の声がします。
「ランデットです。
敵三人は倒し、二人は逃亡しました。
倒したのはランディルです。 そのまま逃げた二人を追って行きました」
ランディルって、颯矢さんよね? 三人倒したって……。
「おお、名乗ってるって事はランデット本物か。
ん? 倒したのがランディル? ランデットでは無いのか?」
ランデット様の報告に安堵してからダリアン様も疑問符を浮かべます。
「はい、ランディルです。 中身が本人かは不明ですが、たとえ遠目でも弟を見間違えません」
「そういう事か、では、わしは神殿内を落ち着かせる。
アークはランデットと一緒にランディルを追ってくれ。
古のやつならどっかでぶっ倒れてるかもしれん」
「了解っ」
アーク様はさっそく扉の前を片づけています。
「俺達が出たら、またこれを置いてくれ。
後は神殿長の指示に従え」
ダリアン様が衛兵に指示します。
地球側の結星門がある祠の前です。
時間になって門が開くとすぐに伝令の方が出てきて状況の報告がされました。
わたしは、少し前に来ましたが神社の中で待機しています。 ふみちゃんは大事を取ってお休みです。
で、結論ですが、今日は行かない方が良いだろうとのことでした。
ああ、皆さんが心配です。 でも、行っても何もできないのもわかります。
しばらくすると、また伝令の方が来たそうです。
状況は落ち着いたそうですが、門が閉じるまでは軍には待機して居て欲しいと。
そして、結局、鈴木先生にわたしは早く帰るように言われました。
大丈夫みたいですけど、どのくらい大丈夫かもわからないし、やっぱり心配ですよ。
いや、怪我してる人が居たら、わたしも少しは役に立つかもだし。 でも、入れてもらえない。 明日は絶対行ってやる。田中さんにお願いしよう。




