20:古の神聖騎士、町へ
砦の指令室。
ドレッド様に壊された窓の応急修理も終わり、外からは事態が落ち着いた風に見えます。
中の方でも、敵の動きの分析やらの会議が少し前に終わって、こちらも落ち着き始めています。
そのタイミングを待っていたのか指令室にガンドレルちゃんが入室しました。
「もういいのか?」
デスクに付いていたオルテミアス様が優しく声をかける。
オルテミアス様は、少し前にアスカール様と交代して指揮をとっています。
「はい」
ガンドレルちゃんが小さく答える。足取りも立っている雰囲気も声と同じで元気が無さそうです。
体力も戻って無いのでしょうし、自分の意識が無い時に暴れてる程度の情報は知ってるみたいなので……。
「それでも、休んでいてもらえという事だ」
そうなんでしょうけど、なんの為の休みかを考えると本当に不憫で……。
「わたし……」
「どうした?」
「いえ、休みます」
ガンドレルちゃんはゆっくりと扉の方へ振り返った。
「待て」
オルテミアス様が慌てて制止します。
「はい?」
ガンドレルちゃんは顔だけ少し向けて答えます。
「気にするなとは言い難いが、なんて言うか、お互い様だ。
今は、お互い使命を全うしよう」
ほんとこの二人って犠牲者過ぎる。 でも、相談された内容を思い出すと、本当に複雑。 そして、今はちょっとだけ甘えさせてあげて欲しかったのです。
一方、学校では放課後になりました。フミ様を案内する約束をした時間です。
学校からみんな一緒だと変な噂になると嫌なので、一旦帰って着替えてから神社にて待ち合わせ。 そこから軍の方に車を出してもらって移動。手配は田中さんがやってくれました。
車で移動するのは、学校の周辺って住宅街くらいしかないので、できれば良い店に連れて行きたいと言う田中さんからの提案です。
まぁ、知り合いに見られ無い様に気を使ってくれたのかも知れないです。
そして、神社でさく君が加わりました。 事情を説明したら、自分も古の神聖騎士様と話がしたいと言うのですが、断る理由は無いもんね。ただ、期待しない様には注意しておきました。
しおりさんは、軍のガードの方々が門の守りに来て居るので離れられないとのこと。
車で一時間ほど走ると、少し大きめの町につきました。 位置的には三つ先の駅で、その近くの時間貸しの駐車場に入ったところです。
大都会では無いけど、少し高いビルはあるので、向こうの星とは違うのをイメージし易いかもしれません。
もっとも、実は、どういうのが見たいのかは聞いてないので、呼び出してみないと満足いただけるかは不明なのです。
「さて、そろそろ呼んでみるけどいい?」
ふみちゃんにフミさん呼んで良いかを聞く。 呼べと言われたけど、実は勝手に出て来そうでずっとドキドキしてました。 授業が終わったらって言った気がするし。
「田中君、後でエナジードリンクおごってね」
ふみちゃんは田中さんにおねだり。 もっとねだればと思ったけど、この後食事もするかもだ。
「任せておけ、必要経費だ」
「では、どうぞ~」
「おお。 ついに現われるのか」
さく君、やっぱり期待しすぎじゃない? 現れるって、どんな存在?
「行きます。 あ~テステス、じゃない。
フミさん、出て来てください」
呼ぶって、名前一緒だけど、いいのかなこんなので?
「ああ、ええと、まだ私だ」
「あ、そうなんだ」
「お~い、フミさ~ん、出て来てくださ~い」
ふみちゃんの耳元で言ってみた。
「……巫女様か。
ということは、世界を見せていただけるのだな?」
お、出て来た? もしかしてそれなりに声の大きさが必要?
「はい、約束でしたし。
その前に、この人は向こうの人でさく君といいます」
まずは、さく君を紹介する。
「ほう、さくくん殿、よろしく頼みます」
くんは名前の一部じゃ無いですって古典的なボケを……いや、古い人やんって、何か勝手に脳内がうるさい。
「さくと呼び捨ててください。
古の神聖騎士様」
これは、ふみちゃんに懐くさく君という、本人が喜びそうな絵面なんだけどね。
「わかった、さく。
あたしはフミでいいぞ」
「はい、ふみさん」
一緒やん。
「あの、ええと、今、車って言うこっちの世界の乗り物の中です。
馬無しで走る馬車みたいな?」
ん?文字通りじゃん、説明になって無いかも。
「なるほど」
あまり興味無いのかあっさりしてるなぁ。
「では、行きましょうか?」
田中さんはそう言って車から降りる
そして、さく君が後部座席の真ん中に座ってたふみちゃんの手を引いて降りてくれた。 車も初めてでしょうから当然か。
しばらく町を歩いてみた。 いちおう、三人でいろいろ説明はしました。というか、傍からみたらダブルデート的な?……は無いか。
「あまり美しいものでは無いのだな……」
フミさんが、突然感想を呟いた。
「観光地では無いですからね。
世界って言うから現在の文明的な景色をお望みかと思ったのですが、外れましたかね」
田中さんが申し訳無さそうに応じる。
「そうか、いつか連れて行ってもらえるのだろうか?」
「観光地ですか?
そうですね。 今度資料を持って来ますので、行きたいとこ決めてください」
旅行ガイドブックとかかな? 世界って、土地的な意味じゃ無いと思ってたけど、美しいところって言うと土地的な意味だったのかな。
「あっちの世界を救ってからにしましょう」
一応提案というか、冷たいけどこれ言えるの今はわたししか居ないじゃん。
「それは思案中だ。
この体のままでは、宿主に申し訳無いと考えている」
おお、優しい人なのかも。 でも、そう思うなら、条件緩和してくだされ~。
「ありがとうございます。 本人に変わってお礼します」
本人はやる気あったけど、そうよね、おっしゃる通りです。
「では、食で世界を感じていただきましょうか」
田中さんの次なる提案だ。
「食べ物は、こっちがちょっと上かも知れないよ」
さく君がフォロー。 どっちの料理も食べたことあるのさく君だけだもんね。
ということで、田中さんお勧めのお寿司屋さんへ行く事になりました。やっぱりおじさん? そして、交際費(あまりツッコんではいけない部分みたい)というので落とすらしいです。さらに足が出たら上司持ちも付いてますとのこと。
その分、食事の際に費用に見合う情報を聞き出す作戦だそうです。
今、それっぽいお店が道路を挟んで反対側に見えています。
「あそこです?」
「ええ、そうで……っつ?!」
田中さんが答えた時、わたしをいきなり抱えて横に飛びました。
横を猛スピードの車が走り抜けて行きました。 暴走車が歩道を走って来たみたい。
同時にさく君がふみちゃんに……?ふみちゃんは? 一瞬さく君が助けた様に見えたのに?
気付くと、暴走車は横断歩道を少し越えた所で行くはずだったお店に突っこんでいました。
その車より手前に、ふみちゃん発見、横に五、六歳の男の子が立っています。
さらに、ふみちゃんと子供を田中さんが押し倒した?
そこに瓦がたくさん降って来ます。 ぶつかった車が建物に与えたダメージのせいでしょう。
危ないって思った時、小さな雷みたいなのが一杯見えて、瓦は全部粉々になって田中さんに降りかかりました。
「そんなことができるのか……」
さく君が驚きを隠せません。 お店の中とか車の運転手の様子を見に行こうとしたのかな、途中でその光景を見て足が止まった感じです。
っていうか、なんでみんなそんなに早く動けるのよ。 人間か?
わたしはへたり込んで動けないままその様子をただ見てるだけでした。
救急車とかは他の通行人の方がしてくれたみたいです。
「ここを離れます。
幸い重傷者はいない様ですので、後は任せましょう」
田中さんがフミさんとさく君を連れてわたしの元へ来て言う。
「……は、はい」
一瞬、把握できなかったけど、さく君に手を引かれてから我に返って理解しました。
とりあえず車に戻ってきました。
田中さんは瓦の欠片とか粉を浴びてるし、フミさんもさく君もそれなりに埃にまみれてます。
「今日は帰りましょう。
また、調整させてください」
田中さんが車を発進しながら言う。 みんな騒動に巻き込まれたくは無いはずだからお任せします。
「それでいい。
聖力を使ったから、今回は体力の残ってるうちに引っ込むよ」
フミさんがそう言うと、ふみちゃんの体が力が抜けるようにさく君にもたれかかった。
「おい、大丈夫か?」
さく君がふみちゃんを支えながら声をかける。
「……お?」
ふみちゃんが、目を開けました。
「気が付いた~」
わたしは思わず安心しました。
「だるい」
ふみちゃんは眠そうだ。 さっきの教えるべきだろうか、雷みたいなの出してたって。
「そのままの体勢でかまわないよ」
さく君は優しい。
「いちおう言わせてくれ。
力を見るためとかの仕込みじゃ無いからな」
田中さんがいつになく真面目な顔と口調だ。
「あ、え? そういう見方するものなの?」
考えてもみなかったけど、そういう事もあるの?
「ああ、無いですけど、我々の見たいものが見えられて、結果的に出来過ぎだったので」
「そうなのね」
素早い動きも雷の能力も、あと人助けしたことも?かな。
「しかも出費も駐車場代くらいでしたし」
「あ、お寿司~」
「次回と言う事で」
「そうですね。 ふみちゃんこんなだし、次回でいいかも」
それにしても、聖騎士の力ってこっちの世界でも使えるんだ。 理屈は最初から知らないけど。
田中さんが、気にする理由がわかった気がします。 さっき電話で連絡してるのがちょっとだけ聞こえたけど、使われ方によっては脅威になるのよね。
撤退中の敵。
「敵は追っては来ていないようです」
指揮官に斥候が状況の報告をする。
「白戦士を見たのであれば、こちらの意図は読み切れんだろうな、何かの陽動の可能性程度には考えるだろうが。
だが、敵は動かなくてもよい。 意識だけこちらに向けるのが最良だからな。
おかげで状況は睨み合いを続けてるのと同じになっている。
我々は黒戦士達の戦果を待つしか無いが」
敵の指揮官は大型の騎乗魔獣に跨って移動しています。
あの白い鎧の戦士が同様の大型騎乗魔獣に乗って並走しています。
「俺が見たあの二人は、そういう気性の者には見えなかった。
追撃できない何か理由があるのかもしれん。 仲間割れでもしたか」
白い鎧の戦士が応じる。




