2:宇宙人って居ると思います?
放課後、学校からの帰り道、スズメ公園……でわかるよね、その横を通った時、ふと思い出す様にそっちを見ると、居た。風見さん……とお姉さん、と後ろに隠れてるのは弟くん?
三人がわたしに気付いて、風見さんが指招きする。ちょいちょいって朝と同じ。
千載一遇?渡りに船?じゃない、願ったり叶ったりみたいな……はどうでもよくて、早速お礼のチャンスだ。
てててと小走りで近づき、頭を下げる。
「今朝は、助けてくれてありがとうございました。 どうしていいか分らなくて、本当に助かりました」
まずは、言いたかった一言。 何度でも言いたいくらい。
「お礼をされるほどの事じゃないさ。
だが、その件とは関係なく、あんたに頼みがあって待っていた」
朝の怖い感じでは無く真摯な感じだ。
え?頼み? でも、姉弟同伴ってことはああいう話しでは無いわよね。
「高橋舞子様へ、私たちからのお願いです」
お姉さんも付け加えてくれた。 フルネーム呼びって意味ありげ?
「わたしでお役に立てる事であれば」
できることなんだと思うけど、受ける意思は示しておかないとね。
「俺ではうまく説明できないから姉さん頼む」
説明が難しい? 転校早々で困ってることがある? 人気有り過ぎな事とか?
「わたしは、颯矢の姉、風見しおりと申します。三年A組です。弟の颯矢は二年G組、下の弟のさくは一年C組です。
よろしくお願いいたします」
ああ、一年違いなのね。 お姉さんはA組かぁ。 授業で一緒になることも無いかな。残念。 そして一年の弟、可愛い。一個違いの兄とは似て無いかも、これはこれで良いです。
「あ、私は高橋舞子。 三年C組です、よろしくお願いします」
とりあえず、今更ながら挨拶程度の自己紹介は返して、後はお願いを聞いてからよね。 名前は、さっき呼ばれたから名乗る必要なかったかなぁ。
「さて、とはいえ、どの様に説明すべきでしょうか……、
ええと…………、
……宇宙人って居ると思います?」
「え?」
この場合、どういう意味?
1、私たち宇宙人です
2、あなた宇宙人ですね(バレたか、いや違うって)
3、宇宙人研究会に入りませんか?
4、宗教の勧誘
5、緊張をほぐす会議前のアイスブレークってやつかな?
6、その他
5か6かな……。
とか考えてて答えに戸惑っていると理解された様です。
「お姉ちゃん、その聞き方は……」
そう、弟くん、わたしの”?”がわかってくれた?
「だめかな?」
しおりさんは、少し残念そうな表情をする。
「まぁ、ここは、ぼくに任せて」
「ええ」
「あの、ぼく達の世界を救ってください」
「え?」
この場合は、どういう意味?
1、私たち異世界人です
2、転生して俺つえぇしてください
3、ファンタジー研究会に入りませんか?
4、宗教の勧誘
5、これも、緊張をほぐすアイスブレークってやつかな?
6、その他
きっと5か6よね……でも、その他って何があるかしら。
「おまえら……やっぱり俺が話す」
颯矢さん?が再登場。
「ええ~、ぼく、間違って無いもん」
「いいから、大人しくしとけ」
「は~い」
弟くんはすぐに引き下がった。
「えと?」
そして、颯矢さんに向かってその先を促す。 きっと、ここからは大丈夫……と信じよう。
「俺達は、あんたを探していた。
嘘は言わないから、話を最後まで聞いてくれないか」
嘘じゃないって、え、どれ? 宇宙人? 世界を救う?
「……わかりました」
ここまで来たし聞くしかないよね。
「とはいえ、その前にちょっと場所を変えてもいいか?」
颯矢さんは視線を別な方に向ける。
そっちを見ると、道路の方から公園の中を見ている生徒が数人居るのに気付いた。
少し歩くと河原があるけど、どうやらそこに行くようだ。
土手の上の細い道は、ランニングや犬の散歩の人などそれなりに人通りがある。そこを横切る。
「この国は平和だよな」
土手を降りたところで、颯矢さんは話し始めた。 降りるときに他に人が居ないのは確認している。
でも、また、解釈の方法がわからない台詞だ。
”宇宙人って居ると思います?”
”世界を救ってください”
”あんたを探していた”
に続いて、これはもう、宗教の勧誘説が最有力なんじゃ。
「あの、ええと、本題に入って構いませんよ」
宗教の勧誘の可能性大と覚悟してみた。 そうなら、申し訳無いけど断るしかないかな。
「この本に書いてあるんだ」
でた~。 教本かなぁ。 B5くらいのサイズで厚さは三センチくらい、そしてものすごく立派で古っぽい。
”書いてある”とはどの台詞に掛かってるんだろう、”探していた”のところかなぁ。
「何をです?」
聞いてみる。
「俺達と神殿に来てほしい」
”何を”の答えは?
で、神殿って宗教っぽいよね、これで役満ですかね、麻雀知らないけど……。
しかしこれは、なんとかこの場から逃げないと……いやいや、でも、最後まで聞いてって言ってたのを受けたんだ。
言ってることが怪しく聞こえるのは、わたしが警戒してるからなのかな、颯矢さんは助けてくれたし、お姉さんは優しく接してくれた。弟くんからは、ちょっとだけ敵視されてるかもだけど。
弟くんは、兄の後ろから覗いてずっとこっちを見ている。睨んでるわけでも無いけど、好意的でも無さそうなのだ。
「神殿はどこにあるんです?」
聞く意味があるかわからないけど聞く。
「今は言えない。
だが、説明を続けさせてくれ、ここからは作り話の様な内容だから、だまって聞いてくれればいい」
「どうぞ」
ええと、まだ進展してなかった? 自分で作り話みたいって、でも嘘では無い?
「俺達は別の星から来た、地球人の言い方では宇宙人だ」
ふぁ?
「俺達の星は、今、別な星に攻められている」
にゃ?
「俺達の星とそいつらの星が結星門で繋がったんだ。
数百年単位で発生する現象だそうだ。 その門を通って攻めてきた」
むむ?
「そして、その結星門を閉じる方法がこの本に記されている」
ほう?
「その方法が、地球に居る巫女に助けを求めることなんだと」
巫女? それがわたしって言いたいの? 普通のサラリーマン家庭でしかも無宗教。 宗教は関係無いかな。
「結星門ってのは、地球と俺達の星の間でも繋がっている。
俺達はそこを通ってこちらに巫女を探しに来た。
そして、それが君だとわかった」
えっ、何がわかったの?
「巫女の役目は……戦ってくれという訳じゃ無いし皆で全力で守る。
ただ、絶対に安全とも言い切れない。
もし、敵の戦力が圧倒的であれば、危険が及ぶかもしれない」
戦争してるところに行くってこと?
「だが、もしも我々の星が征服されたら、次は地球だろう。
結星門が繋がってるからな」
ええと、地球存亡の危機を救え、みたいな?
「だから、一度俺達の星に来てくれないか?
神殿ではもっと詳しく説明してくれるはずだ」
ここで神殿が来るのね。
「その説明を聞いてから決めてくれればいい。
でも、助けて欲しい。 既に多くの人々が苦しめられている」
「お願いします」
しおりさんが頭を下げる。
「頼みます」
弟くんも兄の後ろから出てきてから頭を下げた。
「あの、ごめんなさい、まだ信じられないというか、理解できてないというか……、だから、とりあえず、その結星門を見てからでもいいですか?
それが存在してるの確認できたら、とりあえず信じられそうなので、神殿の説明を聞いてみます」
人が苦しんでるって聞いて、それをなぜか私ごときが助けられるって、本当ならなんとかしたい。
だから、真実を見よう。
「ありがとう。
神殿だが、結星門を通ったすぐ傍にある」
向こうでの移動は無しか、なんとなくよかった。
「こちらの結星門が使えるのは日本時間で夜十時から十二時の間だけなんだ。
協力を受けてもらえた場合、都合の付く日だけで構わないが、しばらく通ってもらう事になる」
二時間? ほとんど毎日?
「今夜は行けそうか?
都合悪ければ、希望を言ってくれ」
「あの、その時間内で行って帰って来れると思っていいですか?
あと、その場所は近いのでしょうか?
そうであれば大丈夫です」
門から神殿は傍って言ってたけど……その門は?
「場所はここから近い。
時間内に必ず戻させる。
こちらでの生活にできるだけ影響を与え無い様にされるはずだ」
「あ、生活かぁ、そうよね。
では、まずは、神殿でお話を聞いてみます」
「了解だ。
じゃあ、今夜九時半くらいに、こいつらが迎えに行く」
「よろしくお願いいたします」
しおりさんがお辞儀する。
「それでは、後ほど」
とりあえず、わたしはそう言って、軽く手を振ってからその場を後にした。
でもさ、別な星に行くってことだった? どういうこと? ああ、不安だぁ。
まだ、わたし、引き受けては……いない、よね? ああ、不安だぁ。