19:古の神聖騎士、地球へ
私たちが地球に戻った頃、颯矢さんは風の聖殿へと入っていった。
明日私たちが行く予定だから、事前のチェックとかなのかな?
お仕事ご苦労様です。 で、いいのよね?
そして同刻の砦、
窓の壊れる音が聞こえたのでしょう、オルテミアス様他数名の兵士達が駆け付けて来るところでした。
その時、ふとマイサ様の姿が消えたと思うと、ああ、やっぱり、あれでした。
とっくにオルテミアス様は膝をつかされています。
「お前、何をやっている?」
マイサ様の動きに瞬時に反応したドレッド様だったけど、事態を把握できていないようです。 ですよね。
そして、当然というかマイサ様は答えません。 とくに反応する事も無くオルテミアス様にキスしたままです。
「お前らは何をやっている?」
ドレッド様はさらに、今度は止めようとしない周りの者達に向けて聞きます。
でも、理由を知っていても誰も答えようがないでしょう。
そしてガンドレルちゃんの体がくず折れる。
それをオルテミアス様が支える。
「マイサ?」
ドレッド様は、マイサ様の気配が消えたことに気付いた様です。
「ドレッド殿か?」
ガンドレルちゃんをお姫様抱っこして立ち上がったオルテミアス様がアスカール様に向かって聞きます。
「ああ、そうだ。
で、綺麗なねえちゃん、俺もあんたとキスしてもいいのか?」
「お断りする」
即答&冷徹の顔。
「普通、そうだよなぁ」
ドレッド様、残念そうに納得する。 実は常識がある?
「あなたには色々と聞きたい事があり……」
オルテミアス様が話を続けようとしたけど、
「俺も、その黒いのとチューしたい」
違った~~~~~。 お願いします、凛々しいアスカール様を返して~。
「それは絶対にさせませんっ」
オルテミアス様が強く言い放つ。
呼応する様にその場に居た兵士全員がオルテミアス様とガンドレルちゃんを守るようにアスカール様の前に壁を作る。
武器を構えていないのは、意思表示なのでしょう。
「わかってるよ。
いつか口説きたいが、マイサが絶対出てくるのもわかる。無理してでもな。
ああ、じゃぁこいつが気にしてる巫女でもいいかもな……。
どうしたものか……っく」
アスカール様が思案するポーズから、いきなり膝を付いた。 って、気にしてる巫女って、何?
「……すまない、迷惑をかけた。
……ガンドレルを早く部屋に運んで休ませてやってくれ」
よかった、アスカール様本人に戻ったみたいです。
それは一安心なのだけど、皆さんいろいろ教えて欲しかったでしょうに、ほんとドレッド様何しに出て来たのよ。
いちおう事態が収拾したころ。
指令室に斥候が慌てるように入ってきた。
「敵が移動を始めました。
こちらへでは無く逆方向へです」
指令室に居るミドラリウス様に報告をする。
「反対側へ?
何かの陽動か?
いや……逃げた……のか?」
ミドラリウス様は、状況を計りかねるといった感じでしょうか、思案している様です。
「アスカール様を呼んできてくれないか。
ガンドレルの部屋へ行っているはずだ」
ミドラリウス様は、斥候の人とは違う兵士に頼みます。
「その必要は無い」
扉を開けてアスカール様がちょうど入室しました。
兵士たちに肩を借りています。
「アスカール様、どうされました」
ミドラリウス様が駆け寄って兵士を押しのけて支える。
「ドレッドが出て来た」
「方法がわかったのですか?」
「いや、残念ながら……だが、確信は無いがガンドレルが絡んでいるとは言えるかもしれない。
だが、今はそれはいい、俺を呼ぼうとした理由を教えてくれ。
敵がどうかしたのか?」
「はい、どうやら移動を始めた様です。
こちらでは無く反対方向にです」
「なんと間の悪い。
追撃して責めるチャンスだろうが、恐らく、頼みの二人はしばらく出られない」
実際は、二人のおかげでこういう事態なのだけど、誰も事情を知らないのだ。
「いったい、何が……。
いえ、いかがいたしましょう?」
気になるけど、今はその件はいいって言われたもんね。
「様子見しか無いだろうな。
黒い鎧の動きだけ注意する様に斥候達に伝えてくれ。
陽動だとしたら動くのはそいつらだ。
だが、気付かれるように動くとも思えんがな」
「わたしも斥候に出ます」
「そうだな、頼む。
それから、城と神殿に伝令を走らせろ、黒い鎧が来るかもしれんから注意しろと」
アスカール様は一通り指示すると、椅子に倒れる様に座った。 お願いします、お休みくださいませ。
「大丈夫ですか?」
部屋を出ようとしたミドラリウス様があわてて容体を聞きます。
「オルテミアスがもうすぐ来る、そうしたら変わってもらうよ」
「わかりました。
では、行ってまいります」
ミドラリウス様が兵士を数名連れて指令室を出て行きました。
地球に戻ったわたしとふみちゃんは、前に会った鈴木花子先生と話をしています。 職員室の隣の応接室で、わたしとふみちゃんが並んで座り対面に鈴木先生です。
あ、鈴木花子先生は私が地球に居る時の護衛と聞いてたけど、実はほとんど会ったことなかったです。
キリっとした雰囲気は、さすが軍の方って感じです。 眼鏡で隠してるのかもしれないけどかなりの美人さんです。 スタイルも向こうの星の人みたいにすごい。 ああ、どういうとこ見てるのよわたし。
「わかりました。
ご連絡ありがとうございました。
では、早速手配してまいりますので失礼いたします。
それから、私はすぐに門の方へ向かいます。 ガードが到着すれば学校に戻って参りますが、以降は田中の指示に従ってください」
鈴木先生は私たちの説明をすぐに理解してくれた様です。 助かる。 まぁ、ほとんどふみちゃんが説明してたけど。
「はい。
先生、お気をつけて」
「お気遣いありがとうございます。
では、行ってまいります」
鈴木先生は笑顔で答えて部屋を出ていかれました。
鈴木先生が扉を出てから一分もしないうちに田中さんが入って来ました。
「こんにちは~」
田中さんは軽い挨拶をしながら対面に座る。 やっぱり少しおじさん入ってる?
「うおっ」
いきなり田中さんが椅子ごと後ろに倒れた。
「かわすのか」
いつの間にかふみちゃんが立っていてこのセリフ。
「えっ?」
わたしは思わず声を出しちゃったけど、なんかこの雰囲気って……。
「こっちの男は、皆、貴様並みの手練れなのか?」
ふみちゃん、なんかかっこよ、じゃなくって出て来た?
「ええと、俺何かした?」
田中さん、倒れた勢いを利用して、それとも自分からわざと後ろに倒れたのか、くるりと後転して立ち上がってる。
「試してみただけだ」
「試す?」
田中さんは、わたしに目くばせしてから聞き返す。
「で、どうなんだ?」
あ、さっきの地球人の男の人がってやつね。
「後で説明を足しますので、今は答えてあげてください」
田中さんに向かって促してみる。 いやぁ、説明って言ってもね。
「俺は、訓練された人間だ。 自分で言うのもなんだが成績は悪く無かった」
「そうか、では貴様でいい、こちらの世界を案内してくれないか」
「「はぁ?」」
わたしも田中さんもある意味それぞれ予想外の提案に変な聞き返しをしてしまった。
わたしは、古の聖騎士様って知ってるけど、というか他に思いつかない。
田中さんは、まだ事情を知らないから、ふみちゃん……の冗談と思ってるかも。 つまり、まず説明しなくちゃ。
いや、なんか攻撃?したのかもしれないし……ああ、もう順番に整理していこう。
「あ、あの?……お名前、なんでしたっけ?」
そこからだった。
「フミでいいぞ」
「あ、そ、そうですか」
本名は~? でも、今はいいや。 って言うか、この人もう少し大人しめだった様な。
「……巫女さん。
じゃ、説明してもらえるか?」
田中さんから見たら今の部分はどう見えたのだろう。 知り合いに名前聞いて、知ってる名前を答えられただけ。
でも、予想を付けて流してくれたのね。
とりあえず、いきさつを説明した。
「どうやらそういう事らしい。 ふぅ」
フミさんは、他人事の様に溜息付きだ。
「なるほど、そこまでは理解した。
で、こちらにご協力いただけると思っていいのかな?」
田中さんは、警戒を解かないのか少し離れた場所に立ったままだ。
「さぁな。
とりあえず、あ・た・し・に”ご協力”いただけると思っていいのだな?」
「と・り・あ・え・ず・だけどな」
田中さんがソファを起こして座りながら答える。
「では、行こうか」
この世界を案内しろって事ね。 今から?
「あの、まだ授業あるので、その後にしてください」
「勉強か?」
「そうです」
「ふむ……わかりました。
巫女様にお任せします」
「よかった。
それから、先に聞きたいのだけど。
あなたはどうやって現れて、どうしたら本人にもどるのでしょう?」
「わたしは出たいときに出る。
そして、戻りたいときに戻る。
ただ、体の主の体力が尽きれば勝手に戻るとも思いますよ」
「なるほど。
では、わたしのお願いでの出入りも可能でしょうか?」
「時と場合によります。
巫女様といえど、あたしの巫女様ではありませんので」
「教えてくれてありがとうございます。
他の古の聖騎士様たちも同じでしょうか?」
「それはわからないです。
会った事無いので」
「なるほど~」
同じ可能性はあるかもしれないけど、試しにお願いして出て来てくれた事無いからなぁ。いや、無視されてただけかも?
「俺からも聞きたい。
さっきの動き、体の持ち主に害は無いのか?」
田中さん、ふみちゃんの体の事気遣ってくれてるのね。 意外と優しい。
「そうですね。
聖力を使っていますので、肉体への負担は軽減されて居るはずですけど、この体、かなり貧弱ですので筋肉痛にはなるかもしれませんね」
「では、早々に引っ込んでいただきたいが?」
「意識だけなら害は無いだろう」
「せめて授業が終わるまで引っ込んでいただけないか?」
「興味があったのだがな、まぁいいだろう。 この後、移動してもらわないといけないしな。
だから、後で呼んで下され。 約束です」
「わかりました。 授業が終わったら声をかけます。
それと、本人に了承もとっておきます」
「では、後ほど……」
ふみちゃんの体がソファに座り込む。
「ふみちゃん、大丈夫?」
ゆすってみた。
「あ、ああ、ええと、ここはどこ? わたしは誰?」
寝ぼけ気味というか、若干疲れたみたいな感じです。まぁ、憑かれてるんですけどね。
「え?」
でも、ふみちゃん、この文言は……。
「出てた?」
やっぱり正気じゃん。
「うん、出てた」
ということで、事情を説明してあげた。
そして、この後の事ももちろん即答でOKしてくれた。




