17:条件
敵星側結星門封印神殿前、敵設置陣内での会話。
「近海に放っていた海獣が倒されました」
港町に潜伏していた斥候からの報告が指揮官へと伝えられた。
「なんだと?
…………早かったな」
指揮官は驚くとともに、倒される予想はしていたのだろう、負け惜しみでは無さそうだ。
「たまたま訪れた聖騎士に出会った事。 そして相性が悪かった様です」
斥候は報告を続けた。
「たまたま?
では、陽動にはならなかったと?」
「その様です。
ただ、その際に巫女の同行を確認致しました」
「巫女か……巫女を連れて何をしているかが気になるな。 何かの準備か……。
まぁいい。
倒されたとはいえ海獣の現物を見た事で警戒はするだろう、それで多少の戦力は削げるはずだな。
やはり、先んじるには白戦士ダグラサ殿に出ていただくべきか……」
「お呼びしますか?」
控えている別な衛兵が指示を待つ。
「ああ、そうしてくれ……」
指揮官らしき声は疲労の濃い声で指示した。
この場を死守するのが役割なのだろうか。
学校の昼休み、わたしは中庭のベンチでふみちゃんとランチ中です。
「ええと、わたしっておかしいのかな?」
なんとなく、ふみちゃんに聞いてみた。
「どうした?」
「亡くなる人が出てるのに、あんまり怖く感じ無いの……」
似た気持ちは都度感じている。
「イケメンだらけで現実感が麻痺してるんじゃ?」
ふみちゃんがわざとらしく引き気味に答える。 やっぱ、そうなのか、いや、たぶん違うかなぁ。
「なんのお話しです?」
田中さんが、話にいきなり割って入って来た。
「イケおじはあっち行ってて」
この人、良い人だし見た目も良いけど、なんか苦手。 それに周囲の視線が気になる。 そして今は大事な悩みを相談中。
「そう邪見にしないでくださいよ。 それにオジって……」
「こちらに入って来た人はどうしてるんです?」
まぁ、せっかくなので気になってた事を聞いてみる。
「ああ、敵の人ですね。
寝てますよ。
正確には寝てもらってます」
「起こして尋問とかしないのですか?
酷い事は良くないと思いますけど」
「ああ、ご存じだと思いますけど、彼らは自害するんですよね?」
「……はい」
知っている。 その方法を思い出すときついなぁ。
「CTにかけたら頭に爆弾らしきものが発見されまして、仕方ないのでそのまま眠り続けてもらってるんですよ」
「もっと積極的に調べてると思ってました。イメージ的に」
映画やお話では、やっぱりたいへんな目に合わされてるイメージなのだ、この話題ふっておきながら苦手過ぎる。
「そのイメージはなんとなくわかりますよ。
じゃ、あのこと教えてあげましょうか?」
「え? 何か掴んでるんです?」
敵がこっちに侵入してきた目的とかかなぁ?
「直接その件じゃないかな。
我々、地球が向こうと不可侵条約を結んでる事についてです」
「ああ」
あ、なんか面倒くさそうな話かな?
「どうでも良いみたいですね」
「そんな事ないですよ」
はっ、顔に出てた?
「あなた、向こうに行ってどう思いました?
または、あの兄弟を見てどう思いました?」
「美男美女……しかもとんでもなく」
やっぱりこれかなぁ?
「でしょ?
あんなのがごろごろ居るって世間に知れ渡ったら、たいへんな事になります。
なので、いちおう昔の偉い人たちが理性を保った結果です」
「なるほど~」
「あ~、そんな理由でって思ったでしょ?」
はっ、また顔に出てた?
「いや~、理解できるほど理解できるお話でした」
「確かに、その事自体はたいした話では無いのですけどね。
ただ、もしも敵が勝ちそうな場合、どうなるのでしょうね」
「大丈夫なんじゃ……」
聞いてる話が全部では無いかも知れないけど、わたしには周囲の雰囲気からそこまでの緊迫は感じてないのも事実。
「あんな力を持った者たちが負けたとしたら、実際我々がなんとかできるかもわかりません」
「え?」
どういう事? わたしに圧かけてる?
「まぁ、たぶん、やばそうなら支援を求めてくるでしょ。あなたを守る名目はこちらにもありますしね」
「その節は、よろしくお願いいたします」
可能性あるって事かな? どうしよう……。
「お任せを、巫女様」
「う~」
もう少し考えてみる必要はあるかなぁ。
ああ~、やっぱり面倒な話、いや、重い話だった~。 そして気になったのは、本当に美男美女説なのかなぁ、なんかもっとありそうな気がする。
「私もがんばって情報収集しないとだなぁ」
でも、なんか、ふみちゃんに気合が入ったみたい。
その日、神殿に行くと、雷の聖騎士ダリアン様ファミリーと土の聖騎士アーク様が来ていた。
衣装、いや、神殿長に挨拶したり戦神装備を作るためでした。
娘さんの話は聞いていたので、すぐに理解しました。 わたしも衣装作っていただいたしね。
その四人に挨拶したかと思ったところで、ダリアン様に否応も無く引きずられて、わたしの控室に来ています。
「巫女様、頼みがあります」
単刀直入ってやつです。
「はい、ええと?」
なんか嫌な予感のする展開だけど、もちろんほぼ断る気はありませんよ。
「なんとか娘から妻の方に移してもらえないでしょうか?」
両手を握って、泣きそうな顔で懇願された。 聖騎士では無くお父さんの顔なのだろうか。
「はい~?」
でも、よくわからない。 出来るかは置いといて、意味もやり方も全くわからない。
「娘は、まだ十二歳、いずれは聖騎士を目指すでしょうがまだ入殿もしていない。
それどころか、たいして鍛えてもいないのです」
「十二歳って、確かに幼いかなって思ったけど……」
ガンドレルちゃん見てるから、そういうものみたいに流しちゃってましたよ。本当にすいません。
「なんとかならないでしょうか?」
たぶん、他の方々にも相談したけどダメだったのだろうなぁ、ものすごく必死だ。
「ええと、本人はなんと? ええと、古さんの方」
「現れていないので、全くわかりません」
「ええと、どうやったら現れるとか……無理ですよね」
いやいや、マイサさん出すやり方はちょっと無理よね。何も知らない小学生くらいの子になんて。
「手掛かり無しです。
ただ、他の古の神聖騎士殿に聞いてみていただくとかできないでしょうか?」
「なるほど、う~ん、マイサさんしかいないかなぁ。
炎のドレッドさんは、もっと面倒そうだしなぁ」
「そうですか。 は~」
そう、マイサさんを呼び出すのもたいへんなのは熟知しているのだ。
「とりあえず、娘さんに何かをしてみます。 何かって言うか、聖殿の水晶相手みたいな感じで」
思い付きだけど、炎の聖殿ではわたしが水晶に触れたらできたのよね。
「ふむ、そういうことですか。
では、皆を呼んできます」
ダリアン様の顔が少しだけいつもの雰囲気に戻った様に見えたかも。
ほんとに何も手段が無かったのだろう。
試すだけだとしてもアイデアが出せてよかった。
いやいや、そこで満足したらだめじゃん。 もっともっと考える。
何よりも、あんな幼い子が戦いに巻き込まれちゃいけないです。
すぐに御家族とアーク様、そしてふみちゃんが一緒に部屋に入って来ました。
「お待たせしました」
ダリアン様は、また申し訳なさそうだ。
「よろしくお願いいたします」
お母さんだ。 ものすごく綺麗、そしてスタイル抜群ってやつだ、ダリアンめ~。
「お願いします」
娘ちゃん。 可愛いです。 お母さん似かなぁ。
「俺は何かできますか?」
アーク様も、いつもの雰囲気は無くて少し固い感じだ。 家族の一員、お兄ちゃん的な感じだろうか。
「私は隅っこに置かれときますね」
ふみちゃんだ。 アーク様になんとなく近い位置から部屋の隅に移動した。
アーク様に会ってから、すぐ超お気に入りになったっぽいです。
「とりあえず、カリヤちゃんはそこに座ってね」
近くの椅子を指して伝える。 名前は最初の挨拶時に聞いてたのです。
「はい」
カリヤちゃんは小さく答えて椅子に座る。
はて、どうしたものか。
とりあえず、椅子の前でしゃがんで視線を合わせる。
「では、手を握ってみるね。 何もしなくていいからね」
「はい」
緊張しまくってるのがよくわかる。 実際、真実をどこまで教えてるか解らないですけど。
いつものふみちゃんなら、ここでわたしの後ろで変顔とかして緊張をほぐしそうだけど、アーク様を意識してるのか? 今こそ君の出番なのに。
「ええと、ダリアン様、わたしの痣ちょっと触れてみていただけます?
あと、儀式の様な感じでお願いします」
首の横の痣を見える様にしてお願いする。 水晶相手だとそういう方法だったよね?
「了解した。
そして、失礼いたします」
ダリアン様の手が痣に触れた。
聖力を込めてる感じかな、痣から入って手から抜けて行く、これなら何か……。
「あ」
カリヤちゃんが、何か感じたのか手を放そうとした。
「待って、お願いもう少し頑張ってみよ」
握る手に少し力を足してお願いする。
「は、はい」
返事を返してくれたけど、不安そうな表情だ。
周りのみんなも励ましてる。 それに答えようと頑張ってるのね。
「ありがとう……あっ」
あ、来た。
わたしの反応に何か感じたのか周囲も急に鎮まる。
(「巫女様でしょうか?」)
「はい、そうです。
あなたとお話をしたいです」
周囲が無言で湧きたつ。
(「先日の願い、協力しに参りました」)
「あ、そうですよね。
ありがとうございます」
(「出陣でしょうか?」)
「あ、そうじゃなくて。
ご相談なんですけど、体を別の方、そちらの聖騎士様に移っていただけないかと」
(「巨乳の方は嫌です」)
「え? ええ~~~~~そこ~~~」
「ど、どうされました?」
ダリアン様が慌てて状況を確認する。
ああ、どうしよ、というかそのまま伝えるしかないけど、確認はしておこう。
「その条件だけですか?」
(「はい」)
マジか~~~。
この星って、みんなスタイルいいじゃん、幼い子しか無理なの? いや、探せば居るはず。
あ、この際わたしとか、ぐぬぬ。
「わ、わたしではだめですか?」
(「だめでしょう。 巫女様は巫女様ですから」)
サイズは大丈夫なんだ、ちょっと悲しい。
「ええと、でも、その子は聖騎士じゃないですよね?」
(「関係無いですよ。
百に万を足しても一に万を足してもほんの誤差でしょ?」)
「そんなに力の差が……」
(「巫女様がおっしゃらんとすることはよくわかります。
わたくしとて、子供を戦場へというのは不本意でございます。
しかし、現状を聞き及ぶにあたり、まずは星を救う事を優先せねば、それも意味がありませぬ」)
でも乳の大きさは譲れないのね。 なんでよっ。
「なんとか曲げられないかな、条件」
(「わかりました。
では、ご提案申し上げます。
あちらの壁際の方であれば応じましょう」)
「え? ふみちゃん?」
「はい?、わたしがどうした?」
ふみちゃん、わたしの声しか聞いて無いから、よくわかって無いでしょう。
「えっとね……聖騎士、やる?」
確かにその胸ならね。 一緒にがんばろうね。
「いいよ」
そして、即答かよ。 さすがというか、さすがだ。
(「そこの親父と代わってもらってください」)
「は、はい。
ふみちゃん、本当にいいの?
いや、お願いします」
たぶん、ふみちゃんなら大丈夫だろう。 わたしもこんなだし。
「みなまで言うな。 だいたい理解した上で応えてるよ。 任せな、もうみんな仲間だ」
なんかよくわからないけど、そうだよね。
「じゃ、ダリアン様と代わって」
「了解」
ふみちゃんは、返事をすると近くへ移動してきた。
「地球の方にそこまで甘えるわけには……」
ダリアン様が、ふみちゃんを制止しながら言う。
「大丈夫、移す方法があるんなら、後から候補者探してください」
ふみちゃんは制止を制止してから答える。
それだ。 確かに、一旦ふみちゃんでっていうのなら問題無いじゃん。
「わかりました。 全力で候補を探させていただきます」
「じゃ、交代で」
「ひゃ」
ふみちゃんが痣に触れたとたん、何かが通り抜けた。気がする。 ビリっと来るかなと思ったけどそれはなかった。
「うご」
同時にふみちゃんがゆらぐ、アーク様がすかさず支えた。早い。
「……」
カリヤちゃんは、意識を失ったのか、椅子にもたれかかり、くず折れるところをダリアン様に支えられた。
「カリヤっ、大丈夫か?」
ダリアン様が優しく声を掛ける。そして、傍に来ていた奥様に委ねる。
「寝ていますね」
「巫女様、いったい?」
ダリアン様がわたしに聞く。
「ええと、たぶん、ふみちゃんに移ったかと」
「わたしも、たぶんとしか答えられないです。
でも、どうやったら出てくるんだろう?」
そういえば、そもそも出す方法わかって無かったじゃん。
ふみちゃんの手を握ってみる。
「ダリアン様、さっきのお願いします」
もう一度同じプロセスで、とりあえず話して確認をしよう。
「お任せを」
ダリアン様の手が痣に触れる。
う~ん、反応無しか。
また、方法から探さないとかなぁ。
「だめですね、時間をおかないととかかも?
この後も、カリヤちゃんの様子も気にしててください」
「了解した」
ダリアン様は、その後、奥様と二人で、ふみちゃんとわたしにものすごく感謝してくれました。
そして、そのままその日は帰ることになった。
明日は、念のため、ふみちゃんの衣装作りからとなった。




