13:炎の聖殿へ
現在ですが、右に颯矢さん、左に田中さん、前にさく君、後ろは廊下の壁という、四面楚歌、いや三面楚歌?は無いか、という状況です。そもそも三人とも味方なのですが……。
学校に着いて教室に向かう途中、まず田中さんに呼び止められました。
すぐに、颯矢さんが現れて、田中さんと口論っぽくなってしまいました。
「貴様は誰だ?」
颯矢さん、田中さんとは会ったこと無いですもんね。
「国から正式に派遣された身辺警護担当ですよ、あちらの方」
ああ、田中さんは颯矢さんの正体も知ってるのね。
「護衛は俺がやるから地球のやつは引っ込んでていい」
言い方ぁ。
「ああ……怪我で入院中と聞いていましたが、回復されたのですね」
その時、さらに、
「今、護衛は僕なんで、お二人は邪魔なので遠くで見守っててくださいよ」
と、いつの間にか、さく君が目の前に居ました。
「さく、お前はもういい、後方支援に回れ」
「兄さんは、まだ全快では無いでしょう」
「お二人ともクラスが違う時点で学校では役に立たないのでは?」
「貴様は護衛と言ってるが、目的は監視だろう」
「あの~、皆さん。 わたし、教室へ行きたいのですけど……」
わたしの話も聞いて欲しいです。 たぶん、三人とも引くのが嫌なんだろうなぁ。だからどうでもよさげな話だと思ったり、ごめんなさい。
「そうだよね、じゃ、一緒に行こう。 同じクラスだしね」
田中さんは同じクラスを強調する。
「待て、俺が付き添う」
今度、学校ではあまり接近しない様にお願いしないと。視線が……。
「僕の教室も同じ方向なので一緒に行きましょう」
「わたし、一人で……」
「君達、何をしているの?」
そして、鈴木先生が登場。助かったかも?
「ちっ、鈴木か」
田中さんが舌打ちしつつ一人で教室に向かい、風見兄弟も仕方なさそうにその場を離れていきました。
と、鈴木先生のおかげで何とかなったけど、明日学校行きたく無いなぁ。
今日一日、皆さんの視線を勝手に意識してしまって怖かった。
被害妄想なので、皆さんほんとごめんなさい。思い上がりじゃないんです。ほんとにほんとになんかそういう感じです。
でも、それでも明日から学校行きたく無いなぁ。
今日は、炎の聖騎士アスカール様と氷の聖騎士ミドラリウス様と一緒に炎の聖殿へ向かいます。
古の神聖騎士マイサ様に教えていただいた方法、炎の古の神聖騎士様の力を借りるためです。
聖殿へは馬で行くので、以前にアーク様にされたように、今回はアスカール様に抱っこ紐で繋がれています。
アーク様の時もそうでしたが、この体勢はっきり言って、超恥ずかしい。 道の幅や状態が問題で馬車では行けないそうで馬なのです。
でも、幸せ感も半端ないのは、この美しい方々と超接近状態だから仕方ないよね。
それだけでは無いです、やはりこの星は美しい、ほとんどの場所が自然なままだからかも知れないけど、それだけで心が弾むのです。
なんて、ちょっと惚けていると、
「巫女様、俺の話を聞いてくれるか?」
アスカール様に問いかけられた。
「はっ、はい、なんでしょう?」
変に慌てて答える。
「どうかしたか?」
「あ、いえ、なんでも。
だから、お話聞かせてください」
「少し長くなるが、神殿に到着するまでの暇つぶしと思ってくれればいい。
ミドラリウス、ちゃちゃを入れるなよ」
並走するミドラリウス様に一声かけたのは、いつもの仲良しの関係を想像させます。
「つまり、入れるタイミングが多いのですか?」
ミドラリウス様、それもちゃちゃじゃ?
「そういう振りじゃない。 今日はな」
ああ、でも、確かに、もうツッコミたい。
「わかりました。 では、黙っているとしましょう」
ミドラリウス様はやれやれといった感じで少し下がる。
そして、アスカール様が話し始めた。
「ガンドレルを見る限りだが、古の神聖騎士の力を借りると言うのは、自分の体を好きに使わせるということだ。
受け入れがたい話だ。 だが、炎の聖騎士としてであれば受け入れる。
やつの言う通り、俺達は人々の礎となる事を制約して聖騎士となった。
たとえ、儀式のための祝詞を読みあげたに過ぎなくとも、確かに交わした約束だ。
あの時、やつの質問への答えはもう一つあった。
まぁ、同じ内容だがな」
「そうなんです?」
あ、聞いちゃった。 ちゃちゃじゃないよね? ん?、わたし、ダメとは言われて無かった。
「平和ボケだ。
君にお願いする時点、いや、違うか、巫女を探そうと決めた時点、誰も反対しなかったのだ。
君の様なか弱い女性に危険とわかっている事をお願いするのにだ。
あまりにも楽観視し、古文書のままに進めれば良いとな。
マイサに巫女を探せと言われた時、もちろん探すべきだと皆考えた。 問われた時には聞いていないと答えたがな。
だが、それが警告の意味も含んでいたなどと考えもしなかった。
だから、平和ボケの我らは、自らの職務に重きを置き後回しとしてしまった。
あの時、皆が真面目に巫女探しを支持していれば、危険も無く、開く前の門を消滅できていたのだろう。
もっとも、まさか数週間で見つかるなんてな、だから王も神殿長も未だに目が覚めない。
数百年の時間が過ぎて居ることが、麻痺させているのだ。
さきほどの巫女探しの件は、皆と言ったが、風の家系の者達のみが王に意見をしたが耳を貸してもらえなかったそうだ。
それでも、王や神殿長を責めることもできない、彼らも自分の責務が大きかったのだからな」
震災は忘れた頃にやってくる……に似てるかな。 この場では空気的に言いにくいけど……。
「そして我らは古の神聖騎士にもう一度問わねばならない、前回の悲劇について、古文書に記されていない事実を。
我らが弱い理由では無く、彼らが強かった理由を」
そういえば、マイサさん、自分たちの話はしてなかったものね。 勝手に逆に想像してしまってた。何度も死にそうになったか、敵をいっぱい殺したのかって……。
「神殿が見えて来た。 巫女様には愚痴を聞いていただいてすまなかったな」
「わたし、平和ボケというか平和とかすら考えもしなかったです。
他国の状況も良く知らず、知ろうともせず、流れていく情報に同情だけで済ましていた。
わたしの様な者が、それでも済む様に国が環境を作ってくれていたのでしょうけど……」
以前に、颯矢さんが言ってた”この国は平和だな”って、そういうのを言ってたのかな、もしかして皮肉?って事は無いか。
「それでも君はここに居る。 俺達の手助けをしてくれている。
君の国については何も言える立場には無いが……」
「とにかく、がんばります……です」
今は、これ、ちゃんと終わったら自分の周りの事を考えよう。
聖殿の前で馬が止まる。
そしてもちろん降ろされます。 でも、お姫様抱っこ紐状態で降りるのはやっぱり慣れない。
二頭の馬は、ミドラリウス様が馬留に連れて行ってくれました。
聖殿は、神殿の規模を小さくした様な建物で観光で来てみたいと思わせる様なとっても綺麗な場所です。
立派な入口から聖殿の中に入ると、部屋の雰囲気も神殿に似ています。 あちこちに炎を示す様な印が彫刻されているのでここが炎の聖殿なのだろうと分かりやすいです。もちろん水を表す彫刻もあります。
大き目の部屋に入ると奥の方に祭壇がありました。その上に大きな水晶の玉らしきものが飾ってあります。
その少し手前の左右にも、少し小さめの祭壇と水晶の玉があり、左の玉の方がさらに少し小さいかも。
それから、本来、聖殿には修業中の方々がいるのですが、今は、お城と神殿に非難されているそうです。
「さて、まずはどうしたものか……」
アスカール様が思案する様に呟く。
「聖騎士の儀式から試してみましょう」
ミドラリウス様が提案する。
「あの?」
「どうした?」
「皆さん方法わかってるんじゃ?」
マイサさん、そう言ってたよね? あれは自分たちで考えろって事だったの。
聖騎士様達、遠慮しないでもっと聞くべきだったんじゃ? まぁ、あれもこれもって聞いても答えてくれる感じじゃ無かったかもだけど。
「ああ、ガンドレルに宿った時の方法は分っている。 聖騎士として認められる為の儀式だ。
だが、巫女様に手伝っていただけと言われた。
それを誰も知らない。
聖騎士の儀式だけなら、我らの儀式の際にも何かしらあったかもしれんが誰も経験していないのだ。
もちろんガンドレル自信もな。
つまり、意識しながらやってみるしかない」
「そうなのですね」
「方法は、左右のどちらかのオーブに聖力を流し込み、満たせるだけの力があればという単純なものだ。
だから、力があれば何人でも成れるとも言える。 とはいえ、基本的に聖殿長の推挙が必要だ。政治的理由でな」
「なるほど~」
とりあえず、相槌。
「ミドラリウス見ててくれ。 巫女様も参考に見ていてくれ。 もちろん気になった点があれば教えてくだされ」
アスカール様はそう言うと、右側の祭壇に向かい、両手の籠手を外して水晶玉には右手を乗せた。 左の祭壇は従騎士、つまり氷の聖騎士用だそうです。
水晶玉が、少し赤くなったと思うとどんどん赤くなり、赤い光を発し始め、ついに赤く輝いた。
「すごい」
つい、感想が口から出てしまった。
「わからんな」
アスカール様は残念そうに手を離す。 赤い光はす~っと消えて行った。
「特に不審な点はありませんでした」
ミドラリウス様が報告する。
わたし初めて見たので、やはりよくわかりません。
「それでは、巫女様のお手を拝借」
アスカール様は、わたしの手を取って再挑戦。 さっきとまったく同じ。
「すいません、何も感じませんでした」
いちおう、報告。 手を繋いでるドキドキくらいだけで、なんか特殊っぽい力は感じずでした。
「次は神聖騎士の方だな」
アスカール様が奥の祭壇の方に向かうので、ミドラリウス様と一緒に付いて行く。
「ちょっと待ってくださいね」
一言伝えて、首の痣の部分を出す為にあたふたと紐を解く。
「まず、落ち着こうか。
別に失敗しても構わないし、他に誰か居るわけでも無い」
「ありがとうございます。 準備できました」
「わたくしも大丈夫です」
ミドラリウス様も籠手を外して準備万端そうだ。
「それでは、失礼」
アスカール様は、わたしの首横の痣に左手を当てる。
「こちらも失礼します」
ミドラリウス様がわたしの左手を握る。
「では、行くぞ」
アスカール様が声の勢い通りに大きな水晶玉に手を乗せる。
水晶玉が、少し赤くなった。 でも、そこまでだった。
しばらく時間が立っても、それ以上強くならなかった。
「時期尚早だったか……この儀式自体に失敗していると、試すどころでは無いか……」
アスカール様は水晶玉から手を離す。
わたしの痣の手は、少し立ってから離した。
「あの?」
「どうされた?」
「この方法で、ランディルさんにランデットさんの聖力を渡せたんです」
「ふむ、俺の意識下にでも地球人への偏見がわずかに残っているのだろうか……」
「わたくしだと思います」
「たぶん、わたしもかも」
ミドラリウス様とわたしの言葉は同時だった。
「どちらにも何か思い当たる点があると……では、どうする?」
「ちょっと二人だけでお話してみます?」
わたしに思い当たるといえば、仲良くなるの部分だ、どのくらいかがさっぱりわからないのだけど。
「そうですね、お願いします」
ミドラリウス様はわたしの方に向きなおって目を合わせてくれた。
「なるほどな、確かに二人かもしれん。
俺は少し聖殿内を調べてみる。
修行者達の休憩室にでも行ってのんびり話でもするといいだろう」
アスカール様は、籠手を付けなおしてから、祭壇の裏手に回って行った。
「では、こちらです」
ミドラリウス様が先導する様に歩き出す。
「はい」
答えて付いて行く。




