11:人生の救世主Ⅱ
翌日、学校へと向かう途中。
良い天気です、つまり暑いです。まさに暑いです。
たくさんの蝉の声が響いている”スズメたちのいる小さな公園”の横を通り過ぎると、
「よぉ、ねえちゃん」
聞き覚えのある忘れたい声が背後から聞こえた。
つい、足を止めてしまった。 ”しまった”と言いたい。
そして電線に止まってるカラスがカァと大きな声で鳴きました。 今日は、そっちは向きません。
そのまま歩き出そうとしたとき、回り込まれてしまった。
やっぱり、あの時の二人だ。 うそでしょ。
「覚えててくれたか?
お詫びしてもらって無いよな~?」
やっぱり凄んだ声でどなる。
「あの時、謝りました」
「だから~、俺、言葉だけじゃすまないって言ったよな?」
「そんな……」
「最近、風見のやつは見かけてないから、助けを期待しても無駄だと思うぜ」
そうよ、颯矢さんは治癒室でまだ寝てるのよ。わたしを庇って……。
でも、どうしよう、ああ、やっぱり人生終わるの……そうじゃない、あきらめたらだめ、よね?
颯矢さんが身を挺して守ってくれたんだ。 自分でなんとかせねばと思って顔を上げた。
やっぱりこの人達の顔、怖い。 たたけばいいの? それとも蹴る? 無理無理無理……。
「こら、何固まってんだ。行くぞ」
行くってどこによ~。 ああ、やっぱりだめ何もできない、と顔をそむけた時、
「おい」
男たちの後ろにいつから居たのか、二人の男と違う声の主、三人目の男が立っている。
その”おい”は、わたしでは無く男達への台詞だった様で、二人の肩をぽんぽんと叩いた。
「まさか……」
男達はそう呟いて振り向く。
わたしもそちらを見る。うちの制服を着てる、まさか颯矢さん? いや知らない人だ。 知らないと言うか全く見覚えが無い。
「誰だ、おめぇ?」
「その人のナイトだが?」
はい? 誰、ナイトって騎士? その人って誰? 知らないですけど。
そして、身長百八十くらいの優し気な目のイケメン。ちょっと大人顔かな。 ああ、わたしはいつもこんなだぁ。
「なんだそりゃって痛ててて……離せ、この野郎」
ナイトさんは、男達の手首を取ってひねり上げていた。
「降参でいいかい?」
「は、はい、降参です」
「じゃ、行け、二度とこの人に近づくなよ」
「わかりました」
そう答えて、男二人は逃げる様に去って行った。
「大丈夫でしたか?」
ナイト様?は優しく微笑みながら聞いてくれた。
「はい、大丈夫です。
あ、ありがとうございました」
「まさか、こういう形の護衛になるとは思って無かったよ」
護衛? やっぱり向こうの人なのかな?
「はい?」
「まぁ、今は、顔だけ覚えておいてくれると嬉しい。
じゃぁね」
そういうと、走って去って行った。
「え? はい、ほんとに助かりました」
あ、ええと、何? お名前は?
と、走り去る姿を目で追っていると、
「ねぇ」
うわっっとびっくりして振り向く。
「あ、ええと、さく君、おはよう」
さく君が立っていた。
「今の人は知り合い?」
さく君が知らない人? 向こうの人じゃ無いかも? ?
「ええと、知らない人です」
「ふむ。
もう少し危険になったら助けに出るつもりだったけど、先を越されちゃった。
でも、怖かったですよね。ごめんなさい」
「そんな、謝らないでください。
さく君、見守ってくれてたのね。
自分でなんとかしようと思ったけど、だめでした」
「それが普通じゃないですかね。 常識の通じそうにない奴らでしたから。
ただ、今、あんたは兄に代わって僕が守ってます」
今後、人生の終わりを感じる事は無いのね。嬉しい。 そういう問題じゃ無いや。
「ありがとう、ありがとう、頼りにさせてもらいます。よろしくお願いいたします」
「わかったから、学校行ってください。
僕は、後から行きますので」
言い終わると、もう姿は無かった。
学校について、今朝の自称”わたしのナイト”さんの事、ふみちゃんに聞いてみた。 でも、知らないと言う。
そしたら、ホームルームで来た。 転校生だった。
「本日からクラスメートになる田中一郎君だ、仲良くしてやってくれ」
先生が紹介してくれた。
なるほど、確かに顔だけ覚えてれば大丈夫だった。
この場合、どうすればいい? イケメンは避けたい、へんな誤解されたく無いし。 敵を作りたく無いし。
というか、たぶん、普通の人じゃ無いよね?
わたしを知ってた。 いいタイミングでの登場。 ナイトって言葉。
ふみちゃんに相談してからかなぁ。 現実逃避だけど。
その日、特に田中君からのコンタクトは無かった。
女子たちに囲まれてて近づけないのもあるけど、わたしからは絶対に近づかないつもりなので、特に何事も無かった。
昼休みにふみちゃんと話したけど様子見しようって事になったのもある。
良くも悪くも絶対に向こうから何か仕掛けてくるはずなのだ。
さく君が認識してるから何かあればなんとかしてくれるだろうという楽観視も含めてだけど。
ただね、朝の件、やっぱり嬉しかったのよ、お礼をもっと言いたいのは本心。
いや、今、こっちの世界の日常事を優先して考えるのはよそう。 いや、関係してるかもだけど。
だから、様子見っです。
今日は、炎の聖騎士様と面談予定になっています。
今後、優先すべきは、古の神聖騎士の力を借りることなのですが、先に話しておきたいことがあるそうです。
炎の聖騎士様の執務室はお城にあるとの事で、わたしの控室に来ていただいた。 そして、横に氷の聖騎士ミドラリウス様も居たりします。
「俺は、地球人を信用していない」
ええ~、そんなぁ。アスカール様の一言だった。
「誤解されない様に付け加えると、個人がでは無い。
俺は、地球の歴史について勉強していた。 だから、国家や集団の行為について信用できないのだ。
野心、プライド、保身などを優先するが為に戦争を起こす。
わたしには敵と同じに見えてしまう。
敵を追い払った後に地球から攻められるのでは無いかとも考えられる。
だから、地球人の力、そう巫女の力を借りる事に抵抗があった」
ああ、そうよね。 地球ってくくりになるとずっと戦争してるもんね。 いや、そうだとも言えない、まだ全然勉強してなくてすいません。
歴史とかって、英雄とか偉人とかを覚えて勝手に妄想するくらいしかしてないです。
「だが、君は、自分の身を顧みずに巫女を引き受けてくれた。
そして闇の聖騎士について、君の助言無しではたどり着けなかったろう。
真剣に我らの星の未来を考えてくれている。
今は、君個人としての力を借りたい。
あらためてお願いする。 我らの星を助けて欲しい」
「あの、えと、わたし、あんまし深く考えて無くて、結果的にそんな風なのかもしれないけど……。
あ、違う、力を貸すとかそういうのじゃなくて、平和に近づける役に立てるなら、頑張ります」
頑張りますに力を込めて、ちょっと胸を張ってたたいた。 どうも、真面目な雰囲気に弱いらしい。
「君は……失礼、巫女様は、可愛らしい方だな」
え、え、え、ああ、ハムスター可愛いの可愛らしいだよね。それでも十分ですけど。
「は? え?」
「平和になったら、お茶に誘ってもよろしいかな?」
「あ、でも、こっちのお茶飲めない……ので」
実際、よく知らないけど。
「もちろん俺が地球へ行こう」
「そ、それなら、だいじょうぶ、かな」
な、な、なにが起こった?
「あすか~~る様」
ミドラリウス様がアスカール様を制止するように言葉を挟んだ。
「ああ、これは失礼、本当に失礼した。
まぁ、なんだ、俺はこれで失礼する」
アスカール様は席を立つと優雅にお辞儀をしてから部屋を出て行った。
「あ、はい、ありがとうございました」
一瞬、見とれてからお礼を口にした。
「ごほん、巫女様」
ミドラリウス様が、意識を引き戻してくれた。
「は、ミドラリウス様、お体はもうよろしいのですか?」
ああ、しまった、取ってつけた様な言い方だ~。ごめんなさい。
「はい、おかげさまで、もう完全に回復いたしました」
さて、そして、この女性顔、しかも超美人を相手に、どう会話を進めよう。顔関係無いけど。 ふみちゃんなら、得意そうなんだけどなぁ。
「それは、よかったです」
ああ、無意味に歩を一つ進めて次の一手を待つ状態。 氷の美女って、男の人だけど、雪女的イメージが……。
「ご挨拶がたいへん遅くなりましたが、氷の聖騎士ミドラリウスと申します。以後お見知りおきを」
うっ、向こうも歩を一つ進めてきた。
「わたしは、高橋舞子と言います。
もっと早くにご挨拶したかったです」
いかん、このままでは、歩を進めあうだけになるかも。 といいつつ将棋ももちろん良く知りません。
「ふふ、確かに、巫女様は可愛らしい方ですね」
「え?」
「すいません、本当にそう思います。
アスカール様は人を見る目のある方だとおもっております。
あの方が信じるあなたを僕も信じます」
へ? ハムスター可愛いの可愛いを信じる?
「はい、ありがとうございます」
「僕も、地球人は信じられませんでしたから、自分たち……この星の者たちでなんとかしたいと思っていました。
そして、敵に遭遇し、なんとか命からがらここにたどり着けましたが、運ばれた治癒室でその戦力の大きさに絶望していたのです。
そこで、巫女様発見からここまでの事情を聞き、大きな希望をいただきました」
「そんなたいそうなものでは……」
「プレッシャーをかけるとか責任を押し付けたいわけではありませんので、僕の独り言と聞き流してください。
今のまま、好きなようにされてください」
この美女の微笑みは、いや男の人ですけど、すばらしい。 こんな風に言われて照れくさくて意識が現実逃避してた。
「はい、がんばります」
一気に王手が来たのですが待ったもできないので投了です。
「では、僕は、アスカール様の次にお茶の予約を入れさせてくださいね。
また、お話ししましょう」
「はい、ありがとうございました~」
もう、何がなんだかわからない感じで、炎の聖騎士様と氷の聖騎士様との面談は終わった。




