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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十二章 守護者たちの不満
98/136

正義

「黄川田達子!黄川田達子を!どうかお願いいたします!」


 農業地区にて選挙戦の開幕を告げたのは、一台の選挙カーだった。


 正道党党首・黄川田達子自ら選挙カーに乗り、町民に向けて手を振っている。黄川田達子の笑顔が輝くポスターの側にはまた別の女性のポスターが貼られ、彼女もまた手を振っている。


「五大政策でこの町をさらに前進させる!それが正道党、正道党でございます!どうか皆様、この正道党に、どうか清き一票を!」


 地元同然とも言うべき農業地区で、黄川田達子の名前がアピールされる。達子自身もしょっちゅう車を止まらせては頭を下げ、ひたすらに自分への支持を乞う。

「皆様どうもありがとうございます!」

 幾度も幾度も頭を下げる。もう、政策をじかにアピールする事はできない。これまでずっとやって来た草の根運動を信じるのが、精一杯だった。







「ふぅ、やっと終わったわね」

「党首、まだ一日目ですよ」


 一日かけて農業地区を巡った達子は、夜も更けた事務所で乏しい明かりを灯しながら自ら肩を叩く。秘書から心配されながらも笑顔で右腕を揉む。


「もし選挙ってのを甘く見ているとしたら、それは右手を鍛えるのを忘れていた事ね。今日だけでざっと一〇〇〇人と握手したし、五〇〇〇回は手を振ったし」

「あと二週間は続くんですから」


 キャハハと言う笑い声が薄明るい室内に鳴り響く。


 ついこの前まで外の世界で見る物全てにおびえているような顔をしていたとは思えない秘書こと海藤拓海に、達子は大変満足していた。


「ごめんなさいね、あなたを立候補させられなくて」

「いえいえ、気にしていません。選挙権がなくても一向に構いません、私が達子さんを達子町長にして見せます」


 十数年に渡り理解者気取りの連中のせいで苦しめられて来た、知ったかぶりの犠牲者。それを救う事が出来ていると言う成功の味が、達子の顔をとろかす。

 だが達子に安寧の時はまだない。選挙区の候補と違い、党首及び町長候補は小さな選挙区に張り付いている訳に行かない。明日にはまた別の地域に行き、そこでまた手を振らなければならない。

「ありがとうございます。ですが戦いは厳しいかもしれません」

「党首のおかげで、民権党と女性党も目が覚めたようですからね。無投票当選など、民主主義の敗北だと言う党首のお言葉通りです」

「三つ巴ならば好都合ですよ。私たちが一〇〇個の選挙区すべてに候補を擁立している以上、逃げる事などできないはずですからね」

「民権党も女性党も、必死に投票を呼び掛けていますけど」

「好都合です。主権者たちの意志を高める事もまた、為政者の仕事です」


 ましてや今回の選挙では、全ての選挙区で選挙が行われている。言うまでもなく民権党と女性党と正道党の構図であり、単純計算で33.4%の得票を取れば勝つ可能性がある。ごくまれに無所属候補が混ざっている事もあるが、それならそれで25%より一票多く取ればいいだけだ。それはもちろん机上の空論だが、それでもこうして民意が焚きつけられている状況を達子は楽しんでいた。


「この町を守りたい、楽園を広げたい、楽園を増やしたい。これほどまでに高尚な仕事があると思います?」

「思いません、いや」

「ああ失礼、あなたのような人を助けるのでしたね」

「すみません…」

「わかっていますよ、全世界の悩める女性たちを、ね」


 第二、第三のこの町を。


 世界中の悩める女性を。


 そのために、一〇〇人の候補者とそれを支える人員と女性が集まった。




 それこそ、正道党に対する評価。




「あなた今年でいくつだっけ」

「三十三歳です」

「あなたたちのような人たちをたくさん議会に送り込めると思うと私は嬉しいのよ。本当は全部あなたぐらいの年齢の人で固めたかったけどね。あちこちの地区から人を集めるとなるとどうしても、ね」

 民権党と女性党の候補者の平均年齢は、町長候補の二人と同じ五十歳前後。

 一方で正道党の候補者の平均年齢は三九.七歳。五十越えの候補も何人かいたが、三十代前半や二十代の候補もいた。

 しかも皆、二世ではない。

「昔から御家とか言って、親は家業を継がせたがる。もちろんそれは悪いとは限らないけど、連続しすぎてはいつか腐敗する。この世界には常に新しい血が必要なの。まあ私は御家って言葉時代嫌いだけどね。それこそ、男社会のシンボルみたいで」

「女は男に付き従い、跡取りを産んで…」

「そうそうそれ。幼くしては父に、嫁いでからは夫に、老いては子に、ずーっと屈従していろとか言うのよ。それ一体何の意味があるの。私もこの仕事で身を立てちゃったもんだから親から半ばさじを投げられてね、あんな美少女を売りつけるようなとんでもない仕事を選んじゃった元夫を兄弟とも可愛がってるらしくてね、まったくの他人なのに…………」


 ——————————美少女を売りつける。


 あまりにもおぞましい言葉と、その言葉を吐かせるような男に対する周囲の待遇。それらの全てが、今の黄川田達子と海藤拓海に力を与えていた。

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