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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十二章 守護者たちの不満
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「上級町民」

 金持ちだろうが、貧乏人だろうが、同じ一票。


 それが、民主主義の原則である。


 そしてこの町では、金持ちと権力者は一致しない。

 金を持っているのは第二次産業従事者以外ではゴミ処理業者やトイレ清掃員などの「誰もやりたがらない仕事」をしている人間と産婦人科医、そして第一次産業の関係者で、彼女たちが持っているのは一票でしかない。

 一方で権力を持っているのは誠心治安管理社の重役や町議会議員たちなどであるが、彼女たちの給料は正直安い。誠心治安管理社の社長でやっとゴミ処理業の現場労働者の五割増しで、一般社員だと五分の三どころか半分の場合もある。花形のはずの管制塔防衛担当でさえ、薫と言う中堅職員の三分の二だ。







「何も考えてないんですかね、彼女は」

 そんな風に吐き捨てながら受話器を握る彼女の顔に、数日前までの笑顔はなかった。元々見る人が見れば張り付いているだけだとすぐわかる程度の笑顔だったが、それすらもかなぐり捨てた彼女はきれいなバーでカクテルを傾けていると言うよりうらぶれた酒場で焼酎でもあおっているような顔をしていた。

「仕方がない事です。あなたと彼女では、目指す所が違ったのですから」

「悲しいお話ですね。ご家族とはその事を話したのですか」

「はい、話しました」

 受話器の向こうで慈悲深く声をかける女性のおかげで、彼女は再び笑顔を取り戻す。

 文字通り独り身の彼女にとって、電話の相手こそが唯一の「家族」だった。

「その上での回答は…と言う事ですか」

「ええ。お互いの違いを認め合う事はできませんでした」

 彼女はつい先ほど、家族を失ったも同然だった。


「皆漫然と日々を過ごし、いざという時になってあわてて軽挙妄動する。あまりにも愚かしい話です。いや、自分たちの幸福にのみ耽溺し、弱者救済を怠る姿。ただひたすらに見苦しいと思いませんか?」

「その旨をきちんと述べたつもりですが……」

「悲しい事ですね」

 悲しいと言う言葉を連発されるたびに、彼女の顔はほころぶ。三族殺しの仇敵のそれでもない限りありえない表情なのに、どんどんと笑みがこぼれて行く。

「かつて、英雄たちは家族との縁を切りました。なぜかわかりますか?」

「親類縁者に累が及ばないようにするために」

「そうです。もちろん家族で来た者もいましたが、それ以上に家族をわざと捨てた者も多いのです。文字通り身一つでやって来て、この大地を楽園にしたのです」


 これは嘘ではない。


 かつて「第一次大戦」に敗れた女性たちは私財の全てを注ぎ込み、この町の大地を購入。さらに志を同じくする者を集め、田植えから工事作業まで女だけの手でこの町を作り上げた。時には男から機材などを購入する事も強いられたが、それでも自分たちの夢と安寧のためならば何でも耐えられた。その執念を無理解な連中たちは嘲笑い続け、永遠に飽きる事はなかった。その中でついに町が完成してもなお、連中は破滅の時がいつになるかと言う下衆の勘繰りをやめなかった。


「なぜ、苦しまねばならないのです?確かに、苦労した人間が高い報酬を得るのは自然な事です。ですが、現在この町を支配しているのはただ漫然と生きているだけの存在ばかり。町長さえも政権与党の望みさえも叶えようとせず町を守る事にのみきゅうきゅうとし、この町の行く末などまるで考えていない。もし第二次大戦の勝利をもってすべての歴史が終わったとかいうのであればそれこそ怠惰としか言えないでしょう」

「やはり、町を増やさせるべきだと」

「現在の方針は表向きには拡張と言う事になっています、しかしそれはほんのわずかだけの前進、いやお題目だけのご体裁。それを続けるにはあまりにも時間は経ちすぎました。わかっていますよね、あの第二次大戦の終戦からもう半世紀以上も経っている事を。そして、今回の町長選の事も。文字通り、今しかないのです」

 町長選挙の候補者は三人。

 民権党の候補者で現町長の後継候補である水谷、女性党の候補者の桜田。

 どちらも「産婦人科」生まれだった。

 これまでにない、文字通り生え抜きの町長の誕生となる。歴史的な戦いのはずなのに、町民たちの反応は薄い。

「私も、どこまでもお供いたします」

「ありがとうございます。感謝していますよ、では出馬の手続きのためこちらへ来てください」


 電話はそこで終わった。


(完全に賽は投げられたわ……。どうして、誰もわかってくれないのかしら。外の世界であまりにも多くの女性が現在進行形で苦しんでいる事を。来訪者がどれだけ外の世界の苦しみをこの町にぶつけているのか、知らないだなんて能天気すぎる。

 少なくとも、あなたの財布の中身ぐらいには貢献できるはずなのに……)


 以前、この町に来た旅行者の事を、彼女は知っていた。

 誰よりも男の世界に苦しんでいる女性。

 その女性がこの町で何をして来たか。本当に辛い思いをして来た彼女を助ける。それが役目と言う物だ。私たちにしか、できない。


 彼女はそう自分の中で反芻しながら、ゆっくりと立ち上がる。


 すべては、世界のために。




 藤森は、第三の町長選候補・黄川田達子と共に、正道党の一員として立候補する事を決めた。

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