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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十二章 守護者たちの不満
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後輩の浅村

「先輩よろしくお願いします」


 浅村は、藤森に負けず劣らずの存在だった。新米同然だから仕事に意欲的で出勤が早いのは当然だが、それ以上に声が大きかった。


「仕事、わかってる?」

「はい、向かってくるオスをやっつけるんですよね!ちゃんとモニターを眺め確実に敵を討つんですよね!」

 二人っきりになるまでもなく、大声で吠え散らかす。静かにと言っても無駄だとばかりに頭を縦に振る神林の頭の中は、藤森への恨み節でいっぱいだった。


 藤森は社畜をやって来たせいかまったく使わなかった有給休暇がたまりにたまっており、およそあと二カ月は給料をもらい続けられた。


「あのね、私たちの仕事はあくまでも防衛。決して誰かを傷つけるためにあるんじゃないの。あまり強引にやってると自分たちが暴力的な存在になっちゃうんだから気を付けなさいね」

「はーい」

 自分なりの言葉をかけるがどうも手ごたえはなく、浅村は11.25度ほど頭を下げてエレベーターへ乗り込む。先輩を立てる姿勢はどこにもない。


「いい?ちゃんと仕事の前には手を洗ってトイレに行って、ちゃんと栄養を取って」

「はーい」

「わかってる?」

「わかってまーす」

 今更口うるさい先輩になどなれないしなる気もないが、浅村の言葉の軽さの軽さがいちいち神林の癇に障る。まるで値踏みされているような気分になって来る。お前はそんな態度で仕事をしていたのに何をイライラしてるんだ、そんなあらぬ事さえも考え出してしまう。

「ちゃんとターゲットを確保して、そこで初めて攻撃をかける事。わかる?」

「そうですね」


 やがてパソコンの前に座った浅村に対し、自分のモニターを見せながら説明するが浅村の反応は鈍く、赤い点ばかりに目が行っている。一応ここに配属されるに当たり研修は受けているが、実践経験などほとんどないはずだ。あの、ちょっと、とか言う単語に耳を貸す事もなく、ただただボタンを押す。そんな事より手本を見せてくださいとしか言わんばかりにボタンを押しまくり、赤どころか黄色さえも殺しにかかる。自分のしたすぐ前の注意さえも覚えていない浅村に腹立ちは最高潮に達するが、少しでも怒鳴れば即パワハラとなりかねない。ましてや仕事熱心な後輩のやり方を咎める先輩など、前代未聞の言語道断だ。

 

 

 結局八時間の夜勤を終える頃には、神林はすっかり力が抜けてしまった。

 あまりにも無責任に去って行った藤森の後任として来た浅村の、むしろより純化したような働きぶり。

「えらく疲れてるみたいですけどー」

「まあね、早く帰りましょう。」

「それよりきちんと挨拶をしないとー」

「はい、どうかよろしくお願いします」

 朝番の到着と共に交代の挨拶をし深々と頭を下げるのも社内ルールのひとつだが、繫文縟礼として最近では消えていた。仕事前の「この世界に、平穏を!」「すべては、誰もが安らかに暮らせる世界を!」と言う文章を音読する習慣すらしたりしなかったりであり、とくに神林などはほとんど棒読みだった。藤森がいなければさぼるつもりだったが。藤森が毎回毎回呼吸するように明朗に叫ぶので誘導され、その後任の浅村がこうだったためにこの虚礼が神林の中で終わる事はなかった。

「あのね、あまり自分を卑下しちゃダメだよ。あなたは十分に立派な職員なんだから」

「ありがとうございます、でも自分では全くそう思ってませんから」

 遠回しにそんな必要はないのにとか言った所で馬耳東風の体であり、謙虚を通り越して慇懃無礼だった。

「それで仕事が終わったらこの後はどうするんですか?」

「私は帰って寝る、それだけ。今日はまた一段と疲れちゃって」

「そうですか」

 その上にさらに首を突っ込んで来る。これ以上こんな女性に付き合ってられるかとばかりに適当に答えると、ひどく失望したように肩を落とす。何をされる気だったのと神林が浅村におびえた顔を向けるがノーリアクションで、そのまま管制塔の別部署へと向かって行く。

 思えば藤森も、仕事の後にすぐ家に帰る時とそうでない時があった。業務日誌でも付けているのかと神林は思っていたが今思うと社内の人間と仲良しこよしをやっていたのかもしれない。そしてその結果自分の後任に浅村などと言う自分の生き写しのような存在を据えられたのかと思うと、コミュ力の点においては勝っていたはずの藤森に負けた悔しさが神林の心ににじみ出た。






(こんなに無気力な人間が担う町に、未来はあるのでしょうか……)


 敗北感に打ちひしがれ、社員食堂にも寄らずとっとと建物を出た神林の背中を追う浅村もまた、神林に失望していた。


 これから世界が変わろうと言うのに、まったく無関心な先達に。

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