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女性だけの町  作者: ウィザード・T
外伝 追放者の手記
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「ゆえに、私は故郷を悪く思えない」

 ともあれ、私は今こうして男と共に暮らしている。


 時には居酒屋の厨房に立ち、時には机に向かい合って随筆を記し、時には取材のために外に出る。そんな生活だった。

 そのためにあちこちの店にも行き、レビューも書く。様々な場所から集まった食材が様々な地からやって来た料理人の手により作られ、皿の上に乗せられる。味をじっくり確かめながら咀嚼し、嚥下する。

「本当に真面目だよね」

 そう同居人や仕事仲間から言われた事もある。私から言わせればあくまでも招待されているから、仕事だからであり、人の目がなければそれなりに適当だった。出来合いの食品を買ってレジに放り込んでそのまま放置し、テーブルに肘をついて食べる事だってある。簡単だし、気が楽になるからだ。特に原稿の締め切りが迫っている時などは、本当にありがたい。どんな所でも、栄養が満たせるから。怠惰と言う誹りならいくらでも受ける。自分の責任だから。

 

「言いたい事はわかるけど、なんていうか重たいんだよ。まるで何もかも教えてあげなければいけないって、切羽詰まってる感じがして。これじゃお客さん怖がるよ」


 仕事もらいはじめの頃はこんな風に酷評された事もある。あくまでも真剣に食材と料理人、さらに味を思ってレビューしたつもりだったのに、実際にその旨を記すとそうなってしまうらしい。単純に文筆業の難解さを思うと共に、幼少期からの教育を思った。


 万物に感謝しろ。

 人間は自然が生み出した奇跡だ。

 その奇跡を自分たちの過ちで失ってはならない。

 慎め、慎め。感謝せよ、感謝せよ。

 だから何かを生み出し、作り出す存在は偉い。


 それが私たちの町の価値観であり、また同時に誰もやりたがらない仕事をする人間は偉いともなった。極めて単純で、極めて平和な世界のはずだ。

 このような仕事をしていながら何だが、私は本が好きではない。いや別に数冊あるのならば構わないが、あまりにも数が多すぎる。あれもこれもとなると、人間の領域を越えてしまいそうになる。もちろん取捨選択は大事だが、それはそれでひどくもったいなく感じる。ただでさえ貧乏性なのか知らないが、気に入った物はどうしてもなめ尽くしたくて仕方がなくなる。一生のうちにどれだけの存在を受け止めきれるのか、自分でもわからない。


 あの町では、選択肢は少なかった。


 休日の過ごし方と言えば、家で家族と仲よく遊ぶか、外のエンタメ施設で仲間とはしゃぐか、それともレストランとかでおいしい物を食べるか、意欲的にステップアップするための教育を受けるか。

 だいたいそんな所だった。

 あの第三次大戦以来外出は控えられるようになったとか言うけど、本を読むと言う選択肢はあまりなかったように思う。実際私の母たちも姉も義姉もあまり本を読まない人で、強いて言えば年下の姪ぐらいだ。やたらと勉強熱心だった彼女は今何をしているのか、まああの町から出ていない事は間違いないと思う。




「相当に人気があるんだな」

 同居人の男からそう言われたのはしょっちゅうだ。

 私の故郷に○人が移住したと言う記事が新聞に載るのはしょっちゅうだった。外の世界ではその女の園に配偶者から暴行を受けた女性たちが逃げ込もうとして煩雑で悠長な手続きに戸惑っておりその間に被害が増大しているとか言う指摘もあったが、女性だけの町はそのために存在するわけではないと言う理由で見識を改めることはしていない。


 ——————————この町に必要なのは、自律的な女性。男の力を借りずに戦う事の出来る女性のみ。それが極めて自律的で安全な、女性だけの町だった。実際にはその手の女性をもっと受け入れるべしだと提言した政党もあった気がしたが、私はもう覚えていない。

 その町が求める自律的な女性になれない存在はどうなるか。それこそ婦婦の中でももう一方に対して従属的な存在になり、もう片方に下駄を預けるしかない。婦婦にでもなれなければ、それこそ自分の身一つ、裸一貫で生きるしかない。その際にはできれば第一次産業や第二次産業と言った高給取りに就きたいが、単純に求人倍率が高い。結果として多くの移民者が第三次産業に就く事となり、管制塔傘下企業でない限りは正直かなりの薄給で暮らさざるを得なくなる。

「言っちゃ悪いけど、移民希望者ってあんまり力強そうな女性いないんだよな。なんていうかさ、私は頭で生きてますって感じの」

「確かに…」

「そういうのって辛いかもしれないよなあ、ほどなくして追放された女性も多いらしいよ」

 私が小学生だった時代にやって来た女の子は半年だけ在籍し、家庭の都合とかでそのまま外の世界へと戻って行った。今になって思えば母親がこの町になじめなかったのだろう。


 女性だけの町と言う言葉は、途方もない魅力がある。

 その魅力に負けた女性たちが自分たちの楽園のために、命を張って作り上げたのが、私の故郷だ。

 それから今の今まで、ずっとその命脈を保ち続けている。実に素晴らしい話だ。

 だが現存する「女性だけの町」と、女性たちが考える「女性だけの町」、男性たちが考える「女性だけの町」、これらは全部違う。

 もちろん個々人によっても違う。

 数多の女性がその言葉に魅了され、自分の頭の中の「女性だけの町」と言う理想に溺れてしまう。そうして勝手に裏切られたと思い、失望と共に去って行く。そういう事なのだろう。

 だが女性だけの町にいる限り、平穏無事でいられる。あれもこれもと言う情報に惑わされる事なく、ただ前を向いて生きていられる。


 必要以上の物を、望まなければ。


 私は欲の皮が張りすぎていたせいか町を飛び出し、帰ろうにも帰れない状態を自ら作り上げてしまったせいでその安寧な生活には戻れなくなった。だがその事に対して今更後悔する気もない。でも、もし女性だけの町にこれから移住しようとするのであれば、私の言葉を心の片隅にでも止めておいてくれれば幸いである。ああ、もし女性だけの町が今後広がる事があるのであればその時は決して無理のない速度で広がっているだけのはずだ。




 あくまでも、内外全てを支配する、民主主義と言う決まりの下に……。

次回から第三部、いよいよ動乱編となります。

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