表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女性だけの町  作者: ウィザード・T
外伝 追放者の手記
91/136

「古本屋パニック」

 様々な色彩の本が並ぶ。そんなのはどこの書店でも同じだが、その時は一段と極彩色に見えた。


 古ぼけた下町、と言うかスラム街の露店。ビニールシートやわらの上に並ぶ薄汚れた書籍。それが、私の知っている古本屋だった。

 そこに売られている本が何なのか、両親たちは見ちゃいけませんの一言で終わらせてくれたからわからなかったけど、おそらくはまともな本じゃないんだろう。もちろんこっちにもまともじゃない本はあるが、それはいわゆる年齢制限がかけられただけで年齢さえ重ねればきちんと手に取る事の出来る本だった。




 それで私が好奇心に駆られてキョロキョロとあちこちを見渡すと、やけに統一感のある場所があった。

 同じ本が並んでいたのだ。と言うか、巻数をよく見ると全部同じだ。

「これ…」

「人気がある本の裏の側面よ。たくさんの人に買われるって事はそういう事なの」

 私たちの町では、なかった光景だ。読み終わった本はそのまま家の中で眠り続けるか、あるいは管制塔傘下の企業に持ち込んで児童養護施設や病院・美容院などに回してもらうか、さもなくばそのまま廃棄するかしかなかった。ただ多くは二番目の道をたどる事が多く、そこでも使えないと判断されたそれが正式には廃棄される事となる。その際にある程度のお金は入るのでそれが売っていると言えば売っていると言えるのだが、その先の事を考えた事はない。何せ、古本を買う機会がないのだから。


 漫画以外にも小説、地図、辞書、経済書、絵本、写真集、それこそ本と名の付く存在は何でもある。雑然としているくせにやけにしっかりとしており、どこからでも襲い掛かって来そうに思える。実際読んでくれ、手に取ってくれと言いたげにこちらを求める姿は、色味と相まって不思議な迫力があった。



 その中でも一番強いのは、写真集だった。

「大丈夫なんですか」

 水着の女性が様々なポーズを取り、不自然なほどの笑顔を浮かべる本。えらく扇情的で、かつ作為的だ。一応子供の手に届かない高さにあるが、それでも個人的にプラスの感情を覚えない。

「ああ彼女ね、昔大人気になったグラビアアイドルよ。相当な部数が出てたから今もこうして残ってるのね。それにしてもこれ、定価並みじゃないの」

 これまで数多の本を見てきて定価で売られると言う事自体が貴重である事はわかっていた。だがこのような本にそれほどの価値があるのだろうか。なお私も海水浴に行った事もあるし水着だって着た事もあるが、わざわざ眺めるような趣味はない。と言うより、へそを出すような水着などどこにもない。

「あなた、こっちの世界でアニメとか漫画とか見た事あるの?」

「ありますけど、なんていうか凄すぎて圧倒されて、すぐお腹いっぱいになっちゃって」

「どの辺りが?」

「ええと、血とか、暴力とか、罵声とか、あと露出とか。ドドラちゃんだってぴっちり服を着て脱ぐ事なんかほとんどなくて。たまに他のキャラが死んだとかもありますけど本当にあっさりと死んだって書いてるだけで」

「そうなのね……」


 ものすごく、悲しそうだった。私の事を真摯に哀れみ、悲しんでいる顔。その時既に名前の売れていたらしい彼女にそんな顔をさせるほどには、私は罪深い人間だったのだろう。

 そんな私に、彼女は十冊ほどの本を買い与えてくれた。私がお金を出そうとするのを必死に拒み、強引にレジにお金を叩きつけた。さっき言ったような何冊もあるうちの一冊を選び、次々とカゴに入れて行ったそれ。全てが、漫画本だった。正確には二冊ほど小説もあったが、片方は漫画作品のノベライズ化、もう一作はいわゆるライトノベル。いずれにせよ、私には全く縁遠い本だった。

 そして彼女は私に、それらの本を読ませてくれようとした。まだ俳優と言う夢を捨てていなかった私はそれらの本が芸の肥やしになると思って熱心に目を通そうとした。どうして面白いのか、どんな風にキャラが描かれているのか。


 だが、彼女の目論見と私の欲望は二分で崩れた。とりあえずどんな作品なのか知ろうと思って裏表紙をめくり、発行年月日を調べた。

 すると三ヶ月前のもあれば、四十年前のもあった。あまりにも昔から、こんなに綿々とかつ太く続いている。何もかも読破して呑み込めと言っている訳ではないのはわかる。でも手に取っただけで目が重くなり、ページをめくっただけで不安になり、流し読みしようとしただけで目が滑り、後はもうどうにもならない。

 血が飛ぶだけで口を押さえ、暴力行為を見るたびに実行犯に不必要な憤りを覚え、悪役の平然とした姿に没落を求めてその部分を探し出し、そして露出行為を目の当たりにして完全に手が止まってしまう。

「ちょっと遅かったかもね……」

 楽しむには年を取りすぎたとか言われたが、どうしても存在を認められない。


 この時、役者としての私は死んだ気がした。その本たちを読破できたのは、初めて手に取ってから二年も先の事だ。もちろん、今では全てあの古本屋に返している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ