「平穏を乱すと言う事」
「表現規制も相当にやかましいんでしょ」
私が聞かれた一番多い質問は「男ってどう思われているの」ではなく、実はこれだった。
すでに女性だけの町に絵本だけで三種類もあるのは常識のような話になっており、そうしてわざわざ細かく対象年齢を分けているのがある種のギャグになっていた。絵本でさえもそうやって配慮にうるさいような場所でどこまで創作が発展しているのか、その事を聞かれた事もしばしばだった。私の目指した仕事柄かもしれないが、その事を聞かれるたびに情けなくなり、そして悲しくなった。
「こんなにたくさんの劇があっただなんて」
役者志望のくせに、そんな言葉を抜かした事もある。お山の大将、田舎者、ただの女。そのどれもが当てはまりそうなほどに役者としての私の価値は低かった。
私自身、故郷の産業がよそに見劣りしているとは思っていない。農業も漁業も質はいいし、建物だってきれいにできている。そしてやはり、犯罪が少ないのは誇りだった。
だが、創作と言う点では私の町は勝てていなかった。
「まさか漫画が売ってないとか言わないわよね」
そんな風に茶化されたのも一度や二度でもない。まるで自分たちが創作物を目の仇にしているかのような言い草だが、外の世界から見るとそれが女性だけの町ができたかなり大きな理由になってるらしい。
私がこの町にやって来てほどなく出会った女性は漫画評論家とか言う聞いた事のない仕事を名乗っており、私の町で出回っている漫画も研究していた。
「OLの寅美ちゃん」「ドドラちゃんが行くよ」「第三次大戦物語」
私の町では今この三作がベストセラーになっている。「第三次大戦物語」は私が出て行った後の作品だが、あとの二作は私が生まれた頃からある漫画で、何度もドラマやアニメのネタにもなっている。「第三次大戦物語」の作者もかつて「それ行け都市計画」をヒットさせた大家として知られ、残り二作の作者と共に現在もあの町の漫画業界を実質的に支配している。
でもその評論家曰く
「三作とも同じネタを何度も使い回している。悪役だと思ったらやっぱり悪役だった」
「子ども向けとは言えあまりにもオチが弱い。ギャグ漫画らしいけどあまり笑えない」
「戦記物語ならもう少し両方の視点から見て欲しい。これじゃ主役側しかわからない」
と全部酷評だった。
絵については素晴らしいらしいが、ストーリーは二流以下だと言う。
それでどの辺りが悪いのか聞いてみた所、老婆心だけどと言いながら様々な事を話してくれた。
いわく、どの程度のオチが必要か、どこまで残虐な行いをさせるか、どれほどまで低俗に描くか。
「悪役がいないのよ、いい悪役が。主人公も悪役もお手本のそればっかり。主人公が優等生なのはまあともかく悪役まで真っ正直にやってる。一応罠にかけようとしているけど、それに普通の人間なら気付く。もっと狡猾に描かないと」
「狡猾…」
「あと戦記物語とか言うけど戦死者の話はどこ?死体が出てきても妙にきれいだし時には○○戦死ってそれなりに重要なキャラのはずなのに一行で殺されてるし、なんていうかキャラを大事にしてないのよ」
「あまり残虐に描くと売れなくなるんです。トップセールスの作品だと絵本のように2種類3種類と印刷された事もあるんですが、そういう描写をしたタイプはあまり売れていないんです」
実際、私が手に取っていた漫画はこちらの世界に比べかなり展開的におとなしく、ゆっくりと読める。没入する事もなく、気軽にゆっくりと時間を潰せる。それが漫画の存在意義だった。
そんな私がその彼女に連れられたのは、いわゆる古本屋だった。私たちの町のそれと比べてかなり大きく、様々な色彩の本が並んでいる。
「まさか古書店が禁止されてるとか言わないわよね」
「それは言いませんけど……扱ったらまずい本とかないんですか」
「それはもちろんあるけど、そんなのは並ばないわよ」
あの町で中古取引が禁止されている本を売って捕まった女優が、私がかつてお世話になったベテランだと聞いた時はかなり驚いた。だが同時に、あるかもしれないと納得もしてしまった。
それにしても、多い。
あまりにも多すぎる。
その上に後ろ暗さがちっともなく、繁華街の真ん中に臆面もなく看板を構えている。
確かにここは、異世界だった。




