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女性だけの町  作者: ウィザード・T
外伝 追放者の手記
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「男性悪」

 男とは、醜い存在である。それが人間であろうが何だろうが、徹底的に排除せねばならない。

 それが、私たちの町だった。


「少しでも手を抜けば差別だと言われる。連中はその隙を突く機会を虎視眈々と狙っている」


 そう管制塔—————誠心治安管理社に勤める母親を持つ中学時代のクラスメイトは言っていた。今彼女が同じように管制塔に勤めているのかはわからないけど、それが管制塔本体に勤める人間の覚悟かと思うととてもついていける気がしなかった。

 オスの個体と言うだけで、犬猫や虫でも殺す。除草課と言うそれまであり、町の中に入って来た一部の植物を刈り取って燃やす事もあった。私も小学校の行事でもやった事があり、より完璧な町にするための行事とも言われた。

 外の世界に来て初めて食べた物も多い。肉や魚ではなく、キウイやホウレンソウと言った野菜だ。それらが「雄花」の存在する植物である事を知り、納得した。もちろんそんな私の環境を素直に哀れむ人間も少なくなかった。こんなにおいしいのに、こんなに栄養があるのに。ちなみに私が町の中で好きだった食べ物はみかんであるが、それはちゃんと外の世界にもあった。



 まあ食べ物の話はさておき、私はこの世界における男のきれいさに違和感を抱いていた。かと言ってあの事件により女性の無条件の正義を信じる事もできなくなっていたし、またあんな商売をしていたせいで汚い悪役の存在も良く知っていた。

「僕はあなたの肉体だけを求めているのかもしれませんよ?追放者などと言う、男を本当に知らない女性の」

 彼は意地悪くそんな事を言った事もある。確かに山と聞かされて来た話だが、女でも最初に油断させてこちらからおいしい所だけをかっさらい、そして利用価値がなくなったらポイ捨てする、そんな悪役は山といる。私がかつて端役で登場したドラマにいましたけどと言うと、男は軽く笑った。

「あれかい、女の体目当てに犯罪を行った女でもいたのかい?」

 それで実にわざとらしく話を続けて来たが、さすがに首を横に振った。女性しかいなくても女性同士で体を求めあう事もあるらしいとかこの世界の女性から聞かされたこともあるが、私の知る限りではそんな事件などなかったからだ。

 ——————————もっとも、つい最近「くちりこ事件」なるそれが発生した以上何を言う権利もなくなったが、その事を知った時には自分なりに恥ずかしく思い、同時に安心もした。



「女性には女性の悪がある……」

「ええ、その事を詳しく教えられて育って来ました」

 男性的な悪と女性的な悪を全て足せば全ての悪になるのかはわからない。わかるのは、悪徳には男女それぞれのそれがあり、いずれも犯してはならないと教え込まれた事だけ。

 女性的な悪として、誰か一人を攻撃するために集団で群れたがると言うのが筆頭として挙げられた。群れたがるのはいいとしても特定の存在を排除してはいけないと言うのが大原則であり、集団から誰かを排除する際には相当な理由が求められた。また自分の失敗を悔やむ以上に他人の成功をうらやみ、他人の成功を失敗にしようとする行いもまた女性的な悪と呼ばれた。とりわけ自分の子の幸福を過剰に求め他人の子の幸福に嫉妬するのはその中でももっとも醜悪な悪とされた。

 その事をきっぱりと言うと、みななぜかため息をつく。どうしてそんな事が言えるのかと、俳優仲間から言われた。そんなに立派な信念があるのならばこの道は無論他の道でも成功できるとかずいぶんと持ち上げられた。私がそんなのはみんな同じだとか言うと、改めてむやみやたらに感心された。


 そんな私がある夜、いつも通り居酒屋の裏で調理に専念しているとやけに騒がしくなった。気にすまいと料理の仕込みにかかろうにも、雑音は容赦なく侵入して来る。さらに言えば注文客も少なくなり、私は暇になってしまっていた。

「この野郎!」

「あんたは昔っから!」

 男同士の言い争い。私の知っているドラマとは全然違う生の喧嘩の声。本来ならば足がすくんで動けなくなってもいいはずだが、なぜかその時の私は変な度胸があった。周りに数人の女性がいたのも大きかったかもしれないが、私は念のためにとばかりに麵棒を持ちながら、カウンターの方へと身を乗り出した。

 するとそこでは、酔っぱらった客同士が殴り合わんばかりにつかみかかっていた。何があったのかわからないがやけに皿は整然としていて、その代わりのように注文したビールビンが二本空になっていた。

「本当どうしていつもいつも、そんなに俺の仕事が悪いんですか!」

「お前が事あるごとにさぼろうとするからだろ!」

「昼休みに休んで何が悪いんですかぁ!」

 本来ならばキャーとかやめてとか言うべきかもしれないが、その時の私はどこか頭がおかしかった。まるで、長年の夢がかなったかのような女の子の顔をして、二人を見つめていた。これから起こる事に、最大限の期待をして。

「ちょっと、何そこ夢見る乙女みたいな顔をしてんの!」

 他の女性のお客さんからそう言われてハッとした私だったが、そこで二人とも急に手を離し、他のお客さんにペコペコ謝り出した。平和に終わって何よりとか言うにはあまりにも唐突な終了に、私は二の句が継げなかった。


 もし私がこの時すぐ止めていたら、目の前で男性悪のシンボルたる暴力行為が見られていたかもしれない。そう思うと、不謹慎ながらすごく残念だった。


 そんな事を考えてしまう程度には、私は立派ではないのだ。

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