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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十一章 町議会
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外の世界の悪

ああ、また年取ったよ……。

「先ほど述べたように、この町を離れた女性は次々と毒牙にかかっています。一〇万人当たりの犯罪件数を比較しても、どちらかが危険でどちらかが安全かは火を見るよりも明らかだと言えます」




 窃盗は二倍、殺人は三○倍、暴行事件は七○倍、性犯罪に至っては一〇〇倍。


 黒と赤の数字が表の中で雄弁に踊り、女性だけの町の安全と隣町の危険性を訴えている。



「さらにこちらをご覧ください」


 達子はA市と言う仮名の付いた市の名前を出し、そこにおける犯罪のデータを見せた。

 そこは二倍や三倍どころか、窃盗は一〇倍、殺人は一〇○倍、暴行事件は一〇〇〇倍、性犯罪に至っては一〇〇万倍。


 その数字に記者たちは手を止めてざわつき出し、何かが起こったかのようにお互いの顔を見つめ出した。


「そちらの市は別に特別治安が悪いわけではありません。ごく一般的な大都市です。その一般的な大都市でさえ、ここまで荒れているのです。さらに言えば日々事件が起きているにもかかわらず、大した危機感も持たずに皆悠長に生活しています。それは余裕ではなくただ無警戒なだけであり、同時に能天気なだけです。

 こちらをご覧ください。我々とは全く違う、与えられた安寧に無条件に浸っているだけの姿です」



 外の世界の動画。

 繁華街を笑顔で歩く男女たちの姿に、犯罪の影はない。見るからに幸せそうな一家団欒。


 だが、そこにいきなり一発の金属の固まりが飛ぶ。そして女性は倒れ、赤色がアスファルトに流れ出す。


「この後さらにその一家を含む八人の犠牲者が生まれ、その三倍の負傷者が出ました。これが現実です」

 プロ脚本家でもある黄川田達子作のドラマの視聴者も多かった記者たちも真っ青になってお互いを見合い、何人かは腰を浮かせそうになっている。映像とは言えドラマでもあり得ないほどのショッキングな世界とリアリスティックな血に、これまで安全な世界で過ごして来た人間たちは思わずひるんでしまった。


「我々は、あまりにも恵まれ過ぎている。それを独り占めするなど、あまりにも傲慢です」

「……」

「その安全を、世界に広めていく。これからは、安全こそ最大の資産となります」

「では安全な世界を広げるために」

「そうです。この町のように女性たちの安全を確保できるとあらば、世界に第二・第三の女性だけの町が出現する事は既にあってもよろしいはずです。しかし、未だに第二の存在は現れていません。それはひとえに、アピール不足だと言う事に尽きると考えます」




 そして、「第二の女性だけの町」と言う単語に、記者たちは完全に言葉を失った。




「多くの女性たちがこの町を目指すその理由。それは、ここがまだオンリーワンの地だからです。もちろんそれは望ましい事ではありますが、同時に問題でもあります。まだまだ世界には男たちの暴虐に苦しむ女性は山のようにいます。

 私はつい先日、この町を十数年間知らなかった女性と出会いました。その彼女たちのために、この町を大きくすることは必要不可欠です。成功と言うのは、決して停滞には存在せず前進にのみ存在するのです」


 どうせ何べんも再放送される事を知ってか否か全力で喋るその姿は、温和な町長に慣れ切ったマスコミや視聴者にとっては最大級の刺激物だった。

 決して原稿用紙に目をやる事もなく、大きなリアクションもしない。ただ思いの丈を述べるだけ。


「今も、まだ……」



 そんな黄川田達子の舌が、急に止まった。どうした事かと記者はおろか達子の秘書たちも視線を集中させ、達子の反応をうかがった。

 しゃくりあげそうに泣き出し、次の言葉を無理矢理引きずり出そうとしている。これまでの演説で見なかった表情。何があったのか、視聴者の耳目さえも集めそうなほどに情けない顔になった五十二歳。


「ですからぁ!私は!一刻も早く!すべての女性を救いたいと!」

 これまでの冷静な政治家の顔をかなぐり捨て、叫ぶ。

 耳を押さえる人間がいるのも構う事なく、叫ぶ。

「そのために!私はぁ!今回、皆様の、力を!借りたいとぉ!世界を救いたいどぉぉぉ……!」


 涙こそ出ないが泣き声で、叫ぶ。必死に自分への救いを求め、これまで見せて来た数多の被害者への哀悼の意を込めるように机を叩く。やがてまともに発声できなくなり、息が詰まったようにテーブルにくずおれた。


 静寂に包まれた空間に達子の呼吸だけが響く。フラッシュの音はなぜか聞こえない。




「申し訳ございません、つい、興奮してしまって……ああ失礼……」


 やがて起き上がった達子はコップの水を呑み干し、真っ赤になっていた目をこすった。

 呼吸は依然として荒く、酸素を必死に追い求めている人間の顔だった。

「ですが、とにかく、時間はそんなに残っていないのです。このまま自己満足の町で終わっていては、外部からの嘲笑は永遠に消えません。

 ご存知ですか、この町がいかに馬鹿にされているか」


 その顔のまま、今度はスマートフォンのボタンを押した。



「どうして俺たちの世界には絵本は一種類しかないのに、女性だけの町には絵本が三種類もあるんだ、面倒くさいだろ」

「そりゃ必死に自分たちの考えを広めて世界を統一する気だろ」

「そんでその世界には何種類の絵本があるんだ」

「一種類だけだよ」


 男同士の、品のない声だった。

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