五大政策の意義
「そしてもう一つは、制御塔の改修と移設です」
制御塔の移設。
制御塔とはこの町を守る管制塔から出る電磁波をコントロールする塔であり、制御塔を角とした四角形がそのままこの町の面積だった。
制御塔の移設は、文字通りの町の拡充を意味する。
「では女性党との協力はあるのでしょうか」
「その可能性は現状ではかなり薄いと考えます」
民権党と女性党の最大の対立軸は町の拡充であり、民権党はまだ空白地の所在があるゆえに消極的で、女性党はほどなくして行き詰ると積極的だった。現状は民権党出身の町長がいるため拡充は行われておらず、どちらかと言うとはるか未来の拡充のための蓄財に向いていた。
「先に述べた五大政策は、我々に取り文字通りの原則です。その五大政策をひとつ残らず実現する事が条件であり、現状では女性党からも民権党からもたった今申し述べた五大政策は無論常日頃我々が述べて来た三大政策に対し良い返事を受け取っておりません」
「では改めてその三大政策について質問させていただきます。まず高齢者追放の廃止について、高齢者が外の世界の犯罪者の食い物にされる事を危惧してとの事ですが」
「その通りです。高齢者と言う存在になれば分別が付くゆえ男たちに狙われる事はないと言うのが旧来の判断ですが、しかし統計によればここ数年外の世界に出た高齢者たちが多数の犯罪に遭っていると言うデータが入っています。言うまでもなくこの町が得た財貨を奪われると言う意味であり、さらに言えば命さえも奪われると言う意味でもあります。すでに皆様ご存知かもしれませんが二年前、六十七歳の女性が高齢追放により外の町に出た際に四人の男に暴行され身ぐるみはがされ死亡、刑期はわずかに十年。外の世界とはそういう世界です」
達子の言葉に嘘はない。実際高齢追放により町を出た女性の中にはその手の犯罪に遭うケースも存在し、損害賠償をこの町の人間に加害者たちから支払わされた話もある。
「そして「輸入品」こと、いかがわしい書籍。それらがこの町にて不満のはけ口として使われている事は皆様もご存じのはずです。しかしなぜわざわざ、余計な存在を増やす必要があるのでしょうか」
「もう十分であると」
「はい、十分です。しばらく輸入を停止し、どうしても足りなくなった場合に町長及び町議会に申請を行う形で初めて輸入の許可を出すべきだと」
これまでその手の本の輸入を行って来たのは誠心治安管理社とは無関係な書店が個人的に行って来た事であり、まったく企業活動の範囲内だった。
「私も幾度か、その手の施設に向かった事もあります。利用した事もあります。
されどそこで行われているのは紛れもない暴力であり、一時の快感の後に倍するむなしさが襲い掛かって来たのです。確かに彼女らはひどく扇情的で男にこびへつらう事を是とし、こちらをまったく自然に嘲笑しています。だからと言ってこちらがむやみに傷つけるのでは、外の世界の搾取者と微塵も変わりません」
「それはその手の施設を廃止すると」
「そこまでは行きません。あくまでも行政の手により、健全なエンターテイメント施設にしたいのです。人類がいつか、その手の負の感情から逃れられるように」
黄川田達子の言葉に、淀みはない。あるのは自信と信念だけであり、真顔にもかかわらず得意満面だった。
「かつて、創始者の皆様が女性だけの町を作ろうとした際、多くの人間がその夢を笑いました。耳を貸す人間もいないまま、彼女たちは嘲笑を背に受けながら戦い抜き、町を作ったのです。その際に神とも戦い、その神さえも討ち破りました。それは紛れもない事実であり、歴史であり、正義でもあるのです。
そういう事が出来たのが、この町の住民です。その先に行くことができないと、誰が決めたのですか。皆さんは、どうやって生まれたのですか」
この場にいる記者たちの九割が、この町生まれの人間だった。色欲を全く排した、自然の倫理を乗り越えた存在。残る一割もまた、この町の信念を受け入れた上で移住して来た存在。
それが、今達子がいる場所だった。
「我々は、人類の最先端に立っています。その存在が世の中に手本を示し、優秀なゆえに平和である事を見せつけなければなりません。四番目の政策もまったくそのためであり、そうして世界中に幸福を示す事により、我々の正義を真に広める事ができると考えております」
「それが目的であると……」
「この町が今まで生きて来られたのはなぜか。それはひとえに、偉大なる信念を持った先人たちの業績によるものです。その業績に甘えるのは、もうこの辺りでいいのではないでしょうか!」
記者たちに向かって声を荒げると同時に、背後にスクリーンが下ろされ、一枚の表が浮かんだ。
この女性だけの町と、隣町の犯罪件数の差を示した表が。




