十二年に一度の選挙
民主主義社会、正確に言えば間接民主主義において最大のイベントは選挙だろう。
その選挙にて国民は主権者である事を否応なく実感させられ、自分の権利の重さなり軽さなりを知る事となる。
そして今年は、その中でも最大の祭典となる事が予想されていた。
「しっかしさあ、お前どうするよ」
「もちろん私の支持する候補者に入れるけどね」
静香は薫子の口に哺乳瓶を含ませながら抱き、薫は風呂上がりの肉体をかがめつつ薫子に向かって笑う。食事を終えた薫子は薫に同調するように笑い、そしてほどなくして目を閉じる。
「って言うかあたしが選挙権得るようになってから、こんなのはマジで初めてだよ」
「まあやる事は変わらないけどね。この子のためにもきちんと考えないと」
「っつーか町長と町会議員がいっぺんに変わるだなんて、本当選挙に関わってるやつらはマジで大変だよなー」
この町の町長選は四年に一度。そして町議会議員選挙は三年ごとに半数、改選。その町長選と町議会議員選挙がかぶるのは、三と四の最小公倍数である十二年に一度。
文字通りのお祭り騒ぎだ。
「うちの職場でもそろそろ始まるんじゃないかって大騒ぎだよ。一応うちって管制塔直属だからさ。政治的にもいろいろやかましくてな」
「でも投票は自由なんでしょ」
「まあな。今年も結局は二大政党制のまんまなんじゃねえかって思うけどな」
この町の政党は、基本的に二党しかない。しかも二大政党制とか言うには政権交代もまともになく、それこそこの二人が生まれてから今まで政権交代が起きたのはたったの一度だった。
現町長は政権与党の党首として自分の党の政策を実行に移していたが、それに際し野党の意見もきっちりと聞き入れた上で修正していた。この十二年間両党の議員数はほぼ二対一であったがその二対一の一にもしっかりと耳を貸し、さらに議論を重ねた上で落としどころをうまく作り続けた。
そうなると急進派の与党議員からは不満も出ると思われたが、実はその急進派と言う存在がそもそもいなかった。
この町での教育は、争いを嫌う住民を多数育てた。決していがみ合ってはならず、お互いで話し合ってきっちり決着を付ける。そういうやり方をよしとし、暴力を徹底的に排除した。さらに仲間外れや他人の子の不幸を願うなどの女性的な悪の廃絶にも力を注ぎ、そのような真似をした存在は小学生であろうが刑務所に類する施設へと入れた。さらに言えば、そういう凶悪犯となった女性の遺伝子を排除するような事も行われていた。
それを繰り返して出来た町の中で、党内選挙で選ばれた党員のリーダーである党首にわざわざ逆らうような人間はいなくなっていた。もちろん自立性がないわけでもないが、事前に会議を行い党内世論を固めるぐらいの事はしていた。そのすり合わせがうまく行かず軋轢を生む事がなかったわけでもないが、その存在が議会にもたらす影響は知れていた。その極論派の一部が第三極を目指そうとしていた事も何度かあったが、それが成就したという話はひとつもなかった。もちろん野党でも同じ事が行われ、その上で出来上がった政策をお互いぶつけ合う。そうして議会は進行する。それを繰り返す。
「でも今の町長さんもう七十三歳でしょ。そろそろ引退じゃないかって」
「そうだよな、いよいよネイティブ世代の到来か。すげえな」
それでもちろん野党も自分たちの意見を政策に反映させようとするが、与党の失政を付く事がなかなかできない。当然の如く腐敗もなく、意見を述べても悪い意味ではなく適当に受け止められる。いっその事一緒になってしまえと言う意見すら出るほどではあるが、それについてはある一点の問題により絶対にない事を野党党首自ら明言している。とは言えそれが政権交代の求心力になるほどには強くなく、そのため二期連続で町長選挙は開催されなかった。
そしてその市長の後継者は四十五歳、野党の現党首は五十一歳。
いずれも、男を介さず「産婦人科医院」で生まれた存在。
「なあ、お前、どう思う?」
「何を?」
「薫子の事だよ。誰に投票すれば、っつーかどうなってもらいたいかって」
「どうなってもらいたいか……そうね……」
まだ選挙の意味さえも分からない赤ん坊を胸に抱いたり見下ろしたりしながら、婦婦は二つの政党の政策を思う。
この町で生まれて、この町で育った二人の女性は、この町で生まれて、この町で育った二人の女性の時代の到来を感じていた。




