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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十章 本をめぐる人々
79/136

○○が近い!

「ちゃんと持って下さいよ」

「わかってますって!」

 受付と事務の二人が段ボールを運ぶ。

 台車はあるが既にいっぱいであり、一個だけ余ったそれを二人して持つ羽目になっていた。

「一番軽いのを選んだんですからちゃんとね」

「はい…」

 上司命令で段ボールを持ちながらエレベーターに向かう二人の足取りは、筋トレが日常化していたとは思えないほどにおぼつかない。その情けない部下を上司は叱責する事もなく、ため息を吐きながら首を縦に振っている。


 二人の勤務態度は、正直あまりよくない。

 仕事そのものはこなしているがこなしているだけであり、穴はないが成果もない。このまま真っ正直に勤めていれば年功序列的に地位や給与は上がるかもしれないが、彼女たちの希望する現場作業員に配属されるのは難しいだろう。


(でも、この仕事もこなせるのであれば話は別かもしれないけどね)


 二人が上司の期待を受けている事も知らないまま、エレベーターは動き出した。







「持って来ました」

「よしそこに置いて」


 やがて目当ての階まで来た二人は一つの段ボールを片手で持ち合いながら、指定された場所まで持って来た。

 二人は茶色いつなぎを着た職員の命令に従い段ボールを指定の位置に置き、少し遅れて来た台車を押しにかかった。トラックに乗っていた書店員は自分が押していた不意の客にもためらう事なく台車を渡し、手袋に消毒液を付けて揉んでいた。

「あー後は私がやるから戻っていいよ」

 そして指定の場所まで戻って来た二人に対し職員は帰れと促すが、二人ともその先まで行く気満々だった。本職を外れた使い走りと言うかサービス残業同然の仕事なのに、二人ともやけに仕事熱心な目をしていた。そして二対一のまま数分ほどにらみ合い、やがて四対二で勝負がついた。


「わかった、来ていいから」


 根負けした職員がドアを開け、台車と共に進んで行く。意気揚々と歩く二人と、それを先導する一人。

「今度また彼女らの部屋に行くわけか」

「まあね、気分が悪い時にでもね」

 スーツ姿で実に楽しそうに話す二人。

 そこになめていると言う感情は薄く、ただ単純にこれからの仕事を楽しみにしている顔をしていた。

「二人ともずいぶんときれいだね」

「ああどうもありがとう!」

 適当にこぼされた相槌にますますテンションを上げながら、二人はそのエリアへとたどりついた。



「あら二人ともまた来たの」


 そこで出迎えるのは、二人とその上司の中間の年齢の職員。

 彼女の視界には数多のビニール袋や木材が転がり、処刑を待っていた。


「私は、この町の住民ですから」

「例の施設ではもう十分選定されたんでしょ」

「そうですね。こんな物はもういらないんですよ」


 楽しくて仕方がなさそうに話す二人。段ボールを丁重に開けながら、今度は両手に中身の紙束を抱える。


「じゃ、ちゃんとやってね」


 ゴミ捨て場の中の、ゴミ捨て場。文字通りの最終処理場。




 そこに向けて、二人は次々と美少女たちを放り込む。


 どんな美少女より、きれいな顔をして。


 次々と、次々と。


 その姿を見たパートナー持ちと言うか子持ちの二人に、こんな相手とは婦婦になりたくないと思われるのも構う事なく。




「わがまま言ってごめんなさい」

「いいのよ、仕事代わってくれてありがとう。今度薫さんと一緒に飲もうよ、おごってあげるから」


 結局段ボール八箱の中身を空にするほどまで暴れ回った二人は満面の笑みを向けながら、軽くなった台車を押した。一週間単位の便秘を文字通り排出したかのような笑顔に、二人も笑うしかなかった。

「私たちの仕事は笑顔のためにあると言うけどね……」

 そんな風に言われている事など知る由もないまま、二人は空っぽの台車と共にエレベーターに乗った。




「お役目ご苦労様でした!では本業に戻りなさい」

「はい!」

 その笑顔のまま戻って来た二人に、上司は温かく声をかけた。その声に応えるように二人は新人のように声を上げ、それぞれの仕事場へと戻った。



(やっぱりダメみたいね……彼女らはあまりにも弱すぎる……)



 現場作業員と言うのは、いろんな意味で過酷な仕事だ。もちろんゴミを扱うと言う事でメンタル面での強さも問われるが、それ以上に問題なのは人間関係だった。一見ゴミ運搬車レベルの自動車免許と体力さえあれば人との関わりの少ない仕事に思えるが、それ以上に厄介なのは嫉妬心だった。いくら表向きに暴力反対、女性的悪の根絶を掲げた所で、目標は目標でしかない。

 二人の上司は、二人が筋トレを怠らない事に出世欲以上の嫉妬心を抱え込んでいるのをたやすく見抜いていた。

 そして、それ以上に過大な忠義心も。


 上司は、すでに孫を持つ年齢になっている。娘たちをそれなりにまっとうに育てて来たからこそ、彼女らの弱さを見抜いていた。

 確かに、架空の存在を性のはけ口にするようなやり方にお墨付きを与える気はない。だがああしてわざわざ買い付けた本をまともに読みもせず焼く事自体、ある種の言論弾圧でしかない。しかも使い道が文字通りのスケープゴートだから、それこそ最大限の物笑いの種ともなりかねない。


 だがそれでも、必要としている人間はいる。ただ、それだけの事。


(個人の思想信条に首を突っ込む権利はないけどね……)


 そう割り切れない限り出世はおろか現場仕事すらさせたくないと言う私の心境を変える事などとても無理ねとか言う言葉を飲み込みながら、二人の上司は確かな現実を幹部社員に伝えた。




 ——————————選挙が近いですね、と言う。

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