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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十章 本をめぐる人々
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ごみ処理場にて

「今日午後来るよ」

「あの荷物?」


 ごみ処理場の中で、受付と事務職員たちがダンベルを持ちながら「荷物」の話をしている。

 言うまでもなくごみ処理場は高給取りであり、求人倍率数倍の仕事だった。だが二人だって最初は現場希望だったが身体能力が低いと判断され、受付と事務になった。正直給料の方は良くない。

 どうしても給与額によりヒエラルキーは生じてしまう物であり、彼女たちは常に現場への転属願いを出していた。彼女たちは力を鍛えるために休み時間には持ち歩いているダンベルを上下する作業に勤しみ、勤務中でも暇な時間にはハンドグリップを握っている。

「しかし上昇志向がない人間って嫌よね」

「うんうん……まさかあの女優が闇本売って小銭稼ぎしなきゃいけなかったとはね」

「つらいよね本当」

 そんな人間たちにとって、現状の地位に甘んずることをよしとする存在は目障りであり敵であった。そして実際、それを口にできないほどには現場作業員の地位は高かった。紛れもなく上流階級であり、少なくとも高所得者層だった。




「倒れている少女を見つけて救急車を呼んだウェイトレスがいた」

「すごいわね!」

「倒れている少女を見つけて救急車を呼んだ大工の棟梁がいた」

「無責任ね!」




 庶民がお上に反抗する手段の一つがジョークである。彼女らが愛読するゴシップ雑誌にはその手のジョークや風刺画も多く掲載され、心を癒していた。もちろん大っぴらに言うのは品がない行いとして非難されたが、それでもそんな事を声高に言うのは逆に言論の自由の圧迫として問題になっていた。


 成功者を目の当たりにした存在が何をするか。


 一つ目はその成功者と同じ道を目指す事。二つ目はまた別の道を探す事。三つ目はその道をあきらめ自分の道を進みそこでの成功を目指す事。それらが、世間的に言って真っ当な道だろう。

 だがそのために永遠に気合を入れて戦い続ける事など、誰にも不可能だ。大多数の凡人は必ずどこかでくじけ、そのためにやるせない感情のはけ口や現状を振り返るためのいけにえがどうしても必要になる。数少ない勇者はそのはけ口を自分の中にのみ求め発散できるが、そうでない人間の方が圧倒的に多い。そのはけ口となるのが男であり、また富裕層だった。

 どんなにきれいごとを抜かした所で、それが現実だった。



「そう言えばあいつどうなったか知ってる?」

「あいつ?」

「去年までここで働いてた」

「ああ、いきなり追放されるんだからね。誰とも喋らないで仕事ばかりしてるような奴だったから気付かなかったけど」


 そして、「追放者」もまたはけ口だった。


 楽園から自ら逃げ出したバカ。あるいは男たちにもてあそばれる事を望む変態。それが、世間的な「追放者」への言葉だった。


 中高生向けのライトノベルや成人向けのドラマでも男は徹底した悪役として描かれ、まれに良い男がいても詐欺師かなんらかの理由で男にされた女だった。と言うより、それ以外の脚本が通る事がまずない。

 まれに弱小レーベルのアングラ雑誌でその手の作品が載る事もあるが、ありふれたパルプフィクションとして片付けられるだけだった。まれに当たった作品もあったがどうしてもアングラ文化の域を出ず、規模が広がる事はなかった。当然それだけで飯が食えるわけでもない。

「今頃は男のなぐさみ者になってるんじゃないの」

「間違いないわね。私たちと違ってお金と肉持ってるからってさ、調子に乗りすぎたからいけないのよ。外の世界で何をする気か知らないけど」

 ましてや二人の知る追放者は、この発電所の現場作業員だった。当然筋骨隆々としていてそれなりにモテていたが、彼女はまったく他人と付き合わず、仕事が終わると真っすぐ家に帰りまた仕事場に来る。それ以上の事などしない。

 二人して後を付けた事もあるが、それこそ月収の七分の一ぐらいのアパートであり色気などまるでない。言うまでもなく肉と言うのは筋肉であり、富裕層になるには筋力が重要である以上筋肉を付けている人間は嫉妬を買いやすく、その軋轢もこの町における社会問題のひとつだった。


「ああ、あと十五分で休み終わるわ」

「じゃそろそろ仕事に戻るかな」


 二人はダンベルをバッグに仕舞い、それぞれのデスクへと戻って行く。愚痴を好きなだけ言い合いながら体を鍛える余暇から、日常へと。


「すみません、荷物をお持ちしました」


 そして二人が席について三十分ほど後、表口に誠心治安管理社の名前が躍るトラックが止まった。

 そこから運び出された段ボールには、色がついていれば極彩色であっただろう女性の絵が躍っていた。

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