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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十章 本をめぐる人々
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ツアー

 管制塔傘下の書店のアルバイト店員が悩むように、頂点にある存在も悩んでいた。




「提案されたルートと言うのがこちらなんですが……」


 管制塔こと誠心治安管理社の本社ビルの会議場にて、旅行会社から渡されたルートが表示される。

 社長と専務と常務が連なる中プレゼンテーションを行う平社員の手は緊張で震え、キーボードを三度見してようやくボタンを押した。



 一日目 午後一時半着→産婦人科医院→繫華街→ホテル

 二日目 ホテル発→農漁業地区→そこで昼食→警察署→ホテル

 三日目 ホテル発→書店→午後二時発


「こちらの提案は通らないのですか」

「ええ、我々本社ビルについて説明したつもりなのですが、先方は正直乗り気ではなくこちらのガイドにも消極的でした」


 社長としてはこのビルの1・2階に来て欲しかった。

 この誠心治安管理社の1・2階は文字通りの博物館であり、町の創始からの歴史が詰まっていた。そういう訳で社員以外でも自由に立ち入りが可能であり、管制塔本部ビル勤めですとか言うマウント取りの材料にする人間の存在以外極めて平穏な職場だった。

「以前からこの町に観光目的で入町しては書籍を買い漁る話はありました。それもわが社本部ではなく普通の書店で」

「我々が発行している歴史書には目もくれないでか」

「ええ、あらかじめ入町者には無料で配布しているのですが在庫のはけは悪く町役場共々戸惑っています」

 町の歴史と風景について真っ正直に書き、毒のない写真を乗せまくった良くも悪くもお役所仕事な公式ガイドブック。正確にはお役所ではないがお役所以上に力を持った大企業らしいそのガイドブックはちっとも人気が出ず、教科書類の方がむしろ人気になっている。改善のためにドドラちゃんの数を増やしてみたが、外の世界の人間の受けは良くない。



「あなたからの正直な意見をうかがわせて下さい」


 社長に話を振られた平社員は背筋を伸ばし、ゆっくりと頭を下げる。外の世界では五年間旅行会社勤務であった彼女がそのキャリアを買われる事はなかなかなく、管制塔本社職員として適当に勤め適当に「結婚」・「出産」して平穏な生活を手に入れていた。


「この町に、果たして観光客は必要なんでしょうか」


 そしてそのキャリアを持った女性の言葉は、ある種の職務放棄とも取れる発言だった。


「そのような」

「この町は傷ついた女性たちの町です。確かに新たなる女性を入れる事は宣伝効果はありますが、既に現状でもかなりの数が流入しています。それほどあわてる必要もないと愚考いたします」

 その上で社長たちにここ数年の社会増減のデータを見せる。実際彼女の言う通り、移民の数は数年連続で横ばいかやや上昇しており、追放者の数はほとんど動いていない。


「それに多数の購入物の行方ですが、どうやら揶揄の対象になっているようです」

「揶揄?」

「ええ、これはかつて外の世界にいた仲間から聞いたのですが、この町の書籍を手に入れた連中が勝手に漫画にしたり、あるいは物笑いの種にしたり、好き放題やっているようです。あるいはいかがわしい使われ方をされているとか」

「検閲でもする気ですか」



 検閲と言う言葉は、この町におけるタブーのひとつだった。


 確かに教科書でも何でも、著作権者の許可なく勝手な事をすれば著作権侵害である。もちろん勝手に漫画化したりすれば問題だが、あくまでも個人の趣味となると難しい。二次創作を禁ずとかあれば問題ないが、商業的なそれではないとなると大声で取り締まる事はできない。

 そしてもし出版物の検閲などすれば、それこそ外の世界が黙っていない。出版の自由への干渉と言うだけでなく、この町の住民はその手の存在に耐えきれない不寛容な人間の集まりだと言う烙印を押される事になる。


「現状でも持ち出し不可の書物を売買すれば犯罪です。外の世界でも機密文書を売り買いすればそれは同じでしょう」

「はい…」

「私たちだって向こうの世界の書物などをネタにしています。自分たちはいいけどそちらはダメと言う理由は何ですか?」

「ですが、それでは……」

 正論で押されてしまった彼女は視線を逸らすが、口ではまだ抵抗をやめていない。

「確かに外の世界からいろいろこの町に来る物はあります。しかし書籍を含む著作物を取り締まればそれこそこの町には誰も来なくなり、下手すれば人口の流出が始まります。かつて数多の独裁者たちが自分に不都合な著作物を取り締まった事は存じ上げているのでしょう」

「それはその、確かにそうです……」

「……我々は決して、決まりをはみ出してはなりません。枠を逸脱すれば狼たちは一挙に噛みついて来ます。決まりを守っている限り、外の世界の人間は手を出せません」

「噛みつく…………そうだ、警備を強化すべきかと!」

「それはなぜです」

「ツアー客たちが襲われればそれこそ敵は安全なはずだと騒ぎます。ガイドと言うか護衛を多量に付けるべきでしょう」

「なるほど、その通りですね」


 ——————————戦うならば、決まりを守って真っ当な手段を使え。


 その言葉でようやく頭の回り出した彼女のとっさの提案に、社長たちもうなずいた。


「ではなるべく不必要な物々しさを出さないように留意しながらガイドを付けるように交渉する、と言う向きで参る事としましょう」




 一つの答えが話し合いにより生まれ、そして実って行く。


 誠心治安管理社の社長は、この時間が何よりも好きだった。

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