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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十章 本をめぐる人々
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持ち出しと持ち込みの自由と禁止

「三冊ともください」


 女性は「さんびきのこぶた」「三びきの子ぶた」「三匹のこぶた」と言う三冊の絵本を台に置いた。店員は袋の有無を問い、無と答えた客に対し淡々とした声でわずかな代金の増加を告げた。

 この町で作られた紙袋に入れられた三冊の本を抱える女性は、店員から見てやけに華美であり、かつやけに楽しそうだった。彼女は他にもたくさんの書籍を買い、次々に紙袋に詰める。まるで成金のように金をばらまくその姿はやはり品性に乏しく見え、正直店員の気分は乗らない。接客業である手前嫌な客は避けられないが、それでもこの店員にとっては不愉快な客だった。


(どうしても、見世物としか思わない人間はいなくならないのか……)

 この町に住む中でいわゆるABCの三冊全てを買うような客などいない。三種類の絵本を全部買うのは、明らかによそ者だった。

 この女性だけの町に、これと言った産業はない。強いて言えば、かなり比率の多い第一次産業の収穫物だったが、それをどこかにやって何かを得ると言う事もさほど多くない。足りないのは土地ぐらいであり、その資金を備蓄して新たなる女性だけの町を作る種として蓄えている程度だった。

 そしてこの自閉的な町で第一次産業の収穫物の次に外貨を稼いでいるのが、絵本や教科書などの書籍類だった。




「今度外の世界から観光ツアーが来るって聞きましたけど」

「そうね。まあ私たちは別に関係なくいつも通りにするだけよ」


 旅行会社などこの町にはない。道路網は町中に張り巡らされ鉄道も存在するが、特段非日常を楽しむような施設はない。せいぜいが海岸に行き海水浴を楽しんだり、エンタメ施設を含むスポーツをしたりするのが娯楽であり、それ以上の事を求める人間は少なかった。その少ない人間は町を出て行ってしまう事も多く、そのため観光系の産業はまったく発達していない。

 今回の「観光ツアー」も外の会社からの提案であり、その手のノウハウのない誠心治安管理社も戸惑っていた。一応「スタッフ含む参加者全員女性にする」と言う条件を飲ませたものの、正直対処に困っていた。ここ数年移民して来た観光業出身の存在を何名かかき集めてみたが、とりあえず受け入れると言うあいまいな答えしか出せなかった。当然ながら管制塔社員である書店の店長も、外の世界の一手に答える言葉をなくしていた。


「それで、この本屋もコースに入ってるらしいのよ」


 ましてや、この本屋がその観光ツアーの対象に入っているなど全く予想外だった。


「期日は」

「まだおよそ半年後って事しかわからないけど、それでもその時にはかなりの数の女性が来る可能性があるわね」

「私は」

「あくまでもいつも通りやってくれればいいだけ。それに、うまくいけばその人たちがここの住民になってくれるかもしれないわよ」

 住民が増えるかもしれないという言葉は店員をの背筋を伸ばし、目を輝かせる。

「この町の素晴らしさを見せつけると」

「そう。安全で、誰もが平穏に暮らせる町。そのためには、決して犯罪など起こしてはいけない」

「私はそんな事しませんよ」

「わかってるけどね、どうしても気になるのよ。あなたって少し感情が多すぎるから」


 感情過多と言うのは人間の性質の一つだが、おおむね歓迎されないそれである。ましてやこの町においてはなおさらだった。

 女性は理性的ではないと言う誹りを有史以来幾度も聞かされて来たのがこの町の住民であり、十五歳以上ならば共通の認識だった。それこそ外の連中にとって絶好の隙であり、そんな姿を見せればここぞとばかりにばらまかれる。

「すみません、でも自覚症状がなくて」

「この前三冊の三匹のこぶた買った人いるでしょ、あれ外の人よ」

「やっぱり…」

 書店員からしてみれば、外の人間があんな買い方をするのは嫌味でしかない。

「私だってこの仕事をやっていればわかります。なぜ絵本が三冊もあるのかって。それを……見世物なんかにして欲しくなくて……」


 けばけばしい服を着た女が抱え込んだ紙袋の中身となった書籍がどこに行くのか、追跡する権利などもう誰にもない。だが町で作られた物には町の魂が宿っている以上、粗雑に扱って欲しくなかった。


「でもその人がいつまでも同じ考えだとは限らないのよ。その事を忘れちゃダメ。

お友達のこと、まだ気にしてるの?」


 三種類の絵本の存在など、とっくに外の世界には知られている。実際三種類の「三匹のこぶた」は、三十年以上前からずっと同じデザインで印刷され、卸されている。既に版は三ケタを軽く超え、これまで町にやって来た幾千人の連中がこの本を持ち帰っている。

「ええ、彼女言ってたんです。外ではこんな事になってないだろうって。それで外の世界に出たくって、反対されるのはわかっていたけどどうしてもって」

「そう……しかしね、私だってどんなのが外の世界で読まれているか知らないわ。私は外の世界にあるのがどんなに優秀でも劣等でも、どっちでもいいと思ってる。外の世界から来たそれに駆逐されるのが怖いの?」

「怖いですね。私を含む誰かを目覚めさせるような」


 できれば誘惑を掻き立てるような代物を持ち込まないでもらいたい。

 たかがバイトの署店員にそんな事などできる訳もないが、それでもこの町の素晴らしさをわかってもらいたい。


「ドドラちゃんの本を」

「そうね、結局そういうのが一番いいのかもしれないわね」


 あの桃色な連中に負けないように、誰にも愛されるキャラクターを。


 そのためにドドラちゃんと言うキャラをもって戦おうとしている。


 うっぷん晴らしの生贄でしかない連中に、負けないように。

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