表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十章 本をめぐる人々
74/136

絵本ドラマ

「ったく……こんな番組誰が見るんですか」

「そういう事言うもんじゃないわよ」


 居酒屋にてこぼされたテレビ局のアシスタントディレクターのため息に構う事なく、ディレクターは主演俳優に酒を注ぐ。一つのドラマの撮影がちょうどクランクアップを迎えた最中にしてはあまりに不謹慎な言い草だが、誰も文句は言わない。

 ドラマと言っても午後十一時からの単発一時間ドラマであり、視聴率は知れている。役者も本職とは言い難いアイドルと年ばかり重ねた名脇役にもなれない二流であり、あわよくばここで化けたり後にブレイクして昔の仕事として話題になったりと言う存在が一人でも出れば重畳と言うレベルでしかない。

「しかしあの人もなんであんな真似したんだか」

「それは言っちゃダメでしょ」

 前番組のMCが不祥事を起こし逮捕、それゆえの穴埋め番組。一応新クールの新番組は決まっているが、それでもどうしても埋まらなかったゆえの苦肉の策。当然役者も含めコストも安く、先に述べたような面子しか用意できなかった。



「しかしこんな絵本を元ネタにするだなんて……」

「原点回帰よ」

 と言うか、脚本も脚本だった。素人と言うかぽっと出なのはまだいい。


 事もあろうに、「桃姫ちゃん」と言う絵本である。


 原点回帰とか言うが、あまりにも原点回帰すぎる。


 それでその絵本のストーリーはと言うと老婦婦に拾われた娘が飢えた犬と、罠にかかっていたキジと、暴れる猿をお供にして私財と言うか搾取した品を蓄える男の城へと乗り込み敵を討つ———————。


「大人向けに極力仕立て上げたからね、例のタイプで」

 桃姫ちゃんにもABCがある。Aは外の世界でよく知られるそれであり、Bは鬼ではなくて男が悪役となり、Cタイプが今回のドラマの題材である。


 その絵本題材のドラマのクランクアップの席上で、俳優スタッフ他一同は次々と料理を平らげる。もつ煮込みやらビールやら、およそ「女子力」とは程遠い売れ筋メニューが次々と平らげられ、その度にテレビ局の経費が消えて行く。その食い意地ぶりに関してはADの彼女も変わらず、目の前のメニューを次々に胃袋に放り込む。通路を隔てた向こうで仕事後の一杯をやっているゴミ処理業者に負けず劣らずのペースで。

 決定的な違いは、ゴミ処理業者がほぼ毎日なのに対し、テレビ局員たちはクランクアップとか言う機会がなければできない事だけ。

 この決定的チャンスを逃すまいと、誰もが食い漁る。お行儀よく丁重になんてやっていては一人前も食べられない。おおよそ品のない音が鳴り響くが、今更眉をひそめるほど殊勝と言うか真面目な人間などこの場にはいない。下は十代から上は還暦まで、ありとあらゆる人間が肉のひとかけらを奪い合っていた。



「にしてもあの人もなんであんな商売に手を出しちゃったんだか」

「どうしても仕事用のコスメが買いたいとかって。人気キャスターって言うか俳優のスキャンダルでスケジュールが穴空きまくりで、まじで損害賠償いくらになるんだか」

「本当、私らの給料の十年分で済めばいいですけどね」



 そして腹が膨れ座が落ち着いて来ると、会話はある意味こんな単発ドラマを作らせた元凶である存在へと、話の方向は向く。クランクアップ済みとは言えすっぴんの女子たちが、あまりきれいでもない肌を光らせながらニュースを思い出す。私も芸能界の大先輩がそんな事するなんて、どうしてあの人がと俳優たちも次々に嘆きの声を上げる。

「って言うか辛いですよ、私も本当実家のお店手伝おうかなって」

「でもそこはすでにお姉さんが継いでるんでしょ、って言うかあなた大工できるの」

「一応ノコギリぐらいなら使えますけど……」

 アシスタントディレクターと言うのが体力勝負の裏方、と言うか下っ端であり給料もまたしかりなのはこの町でも同じだった。クランクアップの席でもディレクターやプロデューサーなどにビールを注ぎ、自分はどうしても食事争奪戦に一歩出遅れる。そんな過酷で薄給な仕事には人は集まらない。

「ああADさん、私も田植えを始めようと思ってます」

「番組の企画で」

 そしてADに追従するようにアイドルにして犬役の彼女もため息を吐き、ディレクターに対し無言で首を横に振る。

 主役とまでは行かないにせよかなりの主要な役である彼女がこのドラマのために費やした時間は、わずかに一週間。正確に言えば、二十四時間。そんな付け焼き刃そのものの演技を強いられて得たのはわずかなキャリアと、一時間ドラマ相応の給料と、大根役者と言う評判だけ。


「ってかこれで再放送に負けたら本当」

「ま、成功を祈ろうじゃないの」

 結局この場はプロデューサーが成功を願っての挨拶で締めたものの、クランクアップの晴れやかな空気はどこにもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ