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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第十章 本をめぐる人々
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三匹の子ぶた・AタイプBタイプCタイプ

 管制塔傘下の出版社では、今日も会議が行われていた。

「では始めましょう」

 君原志津子は、手元の資料を三本の指で叩いた。


 少し白髪の増えた女性たちが並ぶ中、若手社員である志津子は長い髪を風もないのにたなびかせる。


「演出、製本、そして絵の質。それぞれに適合すべきそれがあると考えます。こちらをご覧ください」


 志津子は紙の資料をテーブルに戻し、ノートパソコンのキーボードを叩く。


 そこには三×三で九匹の豚と、狼の絵が並んでいる。


 上側の豚たちは実に可愛らしく、真ん中の豚たちはやや細身で、一番下の豚たちは実にリアルな豚だった。


 さらに言えば狼は、上側が非常に爽やかな笑顔をしており、真ん中は牙をむき出しにした狼らしい狼、そして一番下の狼は腹筋が割れていた。




 他ならぬ「三匹の子ぶた」だ。


「これら三種類の書籍に対し、営業部より不満の声が上がっております」


 志津子は再びボタンを押し、灰色のバックに人型のシルエットをくり抜いたまったくシンプルなアバターを並べた。その横には長方形の吹き出しが並び、匿名の社員たちの声が並べられる。

 曰く、

「もっと三種類の本の区別を付けて欲しい」

「B版以外の売り上げが上がっていない」

「C版の演出が怖すぎるとクレームが上がっている」


 A、B、Cと言うのはそれぞれの絵本の型であり、平たく言えば対象年齢別である。

 Aは幼稚園年少以下、Bが幼稚園年中から小一、Cが小二以上対象となっている。

 当然文字にも差があり、Aはすべてひらがなかカタカナ、Bは小学一年生で使える漢字混じり、Cはいわゆる常用漢字が全て使われている。


「むかしむかし、あるところにさんびきのこぶたがいました。」

「むかしむかし、あるところに三びきの子ブタがいました。」

「昔々、ある所に三匹の子豚がいました。」

 と言う次第だ。


「さらにこちらのデータをご覧ください」


 絵が消えると共に今度は折れ線グラフが姿を現し、赤青緑の三色の線が上下している絵がスクリーンを支配した。

 三ヶ月単位で区切られたその線は常に青色が最上位に立ち、赤と緑は足しても青の半分にも満たない。

 そして続くように今度は表が現われ、数字が並ぶ。そこにはやはり三色に分けられた数字が躍り、はっきりと売り上げのほどを示している。中間の青い数字が白いバックに躍る中、赤と緑の数字は同じ明るさのはずなのに薄くぼけていた。




「さてこれらの意見及びデータを踏まえた上で今後の課題についての意見を述べます。

 私は、Bタイプ以外の絵本の生産を縮小すべきであると思います」


 松竹梅の法則でもないが、三段階に分かれているとどうしても真ん中に需要が集まる。Aタイプではあまりにも子どもっぽく賞味期限が短く、Cタイプでは刺激が強すぎる。さらに妹などに読み聞かせるならばともかく、小学高学年以上は自ら絵本を手に取ろうとしない。


 さらに言えば、その展開そのものが違っていた。


 例えばラストはAタイプの場合、

「おおかみさんはもうかなわないとあたまをさげ、これからはこぶたさんたちとなかよくくらすことにしました。」

 となるのに対しBタイプでは

「「もうやめだ!」とさけんでおおかみは山にかえって行きました。」

 でありCタイプでは

「煙突から忍び込もうとした狼は鍋の中に入ってしまい、そのまま煮られて豚に食べられてしまった。」

 となっている。


 ついでに最初の二匹の豚の生死さえも違う。AタイプとBタイプでは普通にレンガの家へと逃げ込むだけだが、Cタイプの場合食べられると言うか死ぬ。


「君原さん。その意見についてはたびたび上がっています。ですがその場合、あまりにも刺激が強すぎると言う可能性がある事を私は憂慮しています」


 志津子の意見に対し、落ち着いたスーツを身にまとった女性が反論する。

 彼女は志津子の所属する会計部の上司ではなく経営部門の上司と言うか常務であり、この場における最高責任者だった。


「私たちは暴力を肯定する事を認めていません。いわゆるCタイプの出版を認めているのは狼と言う名の危険な存在を知らしめるためであり、またAタイプは本来ならば子供たちに勧めるべきそれであり私自身はいっそそれだけでもいいと考えているぐらいです。

 しかし君原さんたちの言う通り町で売れているのはBタイプですが、Aタイプが売れない理由についてはどうなっているのです」


 常務は深くため息を吐く。

 いくらビジネスマンとして齢を重ねてきたとは言え、自分がいいと思う物が売れないのは気分的に面白くないのは変わらない。


「Aタイプについては小学生になると読まれなくなると言う事でありどうしてもコストが高く、いわゆる古本屋でもAタイプの在庫がかなり増えているとの事です。児童養護施設などにはAタイプの需要もありますが、やっぱり一般の書店だとBタイプの需要が圧倒的です」

「ではこの一~三月におけるAタイプの需要の増加はそういう施設だと」

「そうです。後は仕事用具としてベビーシッターなどが購入しているようです」


 児童養護施設やベビーシッターなどのビジネスライクな単語の連発に、常務の顔色は良くならない。

 それは普通の母親が求めないと言う意味であり、先細りと言う意味でしかない。


「圧倒的な力により害意を失い、平和を求める事こそ正義だと言うのに……」



 常務は場を睥睨する。

 内容さえも左右できる立場になってもなおうまく行かない目の前の現実を嘆くその有様に、やり手ビジネスマンの影はない。 

「私たちはあくまでも出版社ですから……」

「そうね、出版社だからね……」

 志津子が無力感を込めた嘆き節を放つと、常務もそれに同調した。

 実際志津子も、本当ならAタイプだけでいいと思っていた。Bタイプの需要が一向に減らない現状を憂い、Cタイプを欲しがる実子に眉をひそめている一人の母親だった。

昔話ってこんなもんだよな、本当……。

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