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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第八章 黄川田達子
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正道党、三大政策

 雨上がりの日、黄川田達子は農村地域を歩いて回っていた。背中には大量のチラシを抱え、真っ黄色な服を身にまといながらポストに投函する。


「町の安全のため、この正道党党首、黄川田達子、張り切っております!」


 自分たちの政策を述べたチラシを投函し、有権者に出くわせば五十路の体を必死に動かして頭を下げる。

 文字通りのどぶ板選挙だった。もちろん一人きりと言う訳ではないが、それでも党首自らのこの行いは否応なく目立つ。「○○党のなんとかかんとかです!」と選挙間際になって叫ぶだけの人間よりはずっと存在感があった。


「我が正道党は!よりこの町を安全にし、世界の女性たちを健やかに過ごせる町にするため心血を注ぎます!

 ぜひとも!一刻も早く!この世界のために!黄川田達子、黄川田達子のために!正道党のために力をお貸しください!」


 正道党と言う名の政党ができたのは、二年前。

 党首は黄川田達子。

 党員はすでに千名以上。


 一見勢力を拡大しているように見えるが、議席はゼロであり泡沫政党でさえなかった。一応町議会議員の中に協力的な人間はいたが、その議員も表向きには無所属であり正道党の議員ではなかった。

 この町における選挙は三年に一度、二〇〇議席の内一〇〇議席を争う小選挙区制であり、現在は政権与党となっている民権党が一三〇議席、最大にして唯一の野党である女性党が六〇議席、無所属が一〇議席。ちなみに此度改選されるのが与党六十九議席、野党二九議席、無所属二議席である。ちなみにこの農業地区は五十議席が割り当てられ、改選されるのは二十五議席である。


 肉体労働向きではない黄川田が、この農業地区に住んでいる。

 この町に移住して最初の五年は都市部にいたのに、五年前に農業地区に転居した。家はこの辺りでは珍しい空き家を安く買い私財で改築しただけの簡素な小屋だが、同時に別の大きな集会所も購入した。そのためにこれまで外の世界で貯めてきた印税を使い、新たな道を切り開きにかかったのだ。確かに農家はそれなりに高所得者層だが、土地そのものはあまり高くならない。


「政策を実現したいのかい」

「そうです!我が正道党はこの町のため!女性たちのため!この三大政策を実行する所存です!」


 声をかけた女性に対し、達子はチラシを渡しながら頭を下げる。




 正道党・三大政策。




 ひとつに、「高齢追放者」の廃止。

 ふたつめに、「輸入品」の管理の厳格化及び即時焼却。

 みっつめに、その「輸入品」の恩恵を受けている店への行政処分を含む取り締まりの厳格化。




「現行法では六十歳以上になれば無条件で「追放」が許されますが、外の世界ではこの町育ちの六十歳以上の女性を好餌として待ち構えています。申請の厳格化を行い搾取及び疾病の被害を最小限にします。また同時に五十九歳以下の追放者及び出征者の講習もより厳格化し、男性悪からの防衛力を高めます。」

「また現行法では外部からの輸入品としていかがわしい書籍の輸入が行われ、それらの品が形を変えて町内に流出していると言われています。ゆえにそれらの品をより厳重に管理すべく誠心治安管理社含む町内の出版関係業全てに要求、そして不必要と判断した場合の即時焼却による風紀の修正を行います。」

「さらに上記輸入品により恩恵を受けている一部の娯楽施設への取り締まりを強化し、自分たちが決して暴力に走らず寛仁と慈愛に満ちた誇り高き町民たちであり、人類のあるべき姿である事を示すべく、それらの店舗に対しての税額を上げまた事によっては移転するように努めます。」




 これらの政策は、達子が外にいた時から頭にあった。


 作家と言う仕事上仕方がないが、どうしてもいろいろまともならぬ世界を目の当たりにしてしまう。

 人々の業、罪、そして愛ゆえの悪。

 だがその中でも一番許しがたかったのは色欲であり、暴力だった。それらの行いを為す人間は作中でも徹底的にこき下ろし、なるべく破滅させた。主婦層向けでありながら中高生向けとも言われた時は嬉しがると同時に悪役の出来が良かったのかと少しうぬぼれ、すぐに気を引き締めもした。

(難しい所を攻めて落とせば、あとは簡単に崩れて行くはず。歴史的に多産な地域で清廉なる流れを起こしてこそ、町を変える事ができる)


 地方の方が性に奔放な事は珍しくない。

 よく性的に盛んと聞いて都市部の歓楽街やスラム街などを連想しがちだが、達子に言わせればそれは盛んではなくただ安売りしているだけであり、農漁業地区などの方が良く言えば奔放でおおらか、悪く言えば野放図だった。その伝統を受け継ぐかのように「出産」を行う数は都市部より多く、三姉妹四姉妹はそれほど珍しくもない。

 確かに労働力は不可欠だが、それでも達子はもう少し計画的に動いて欲しかった。そうする事でより素晴らしい人間になれる。自分だって、なれたのだから。


 そんな一念と共に町を歩き、チラシをほとんど配り終わった道子の視界に、足取りの重い少女が入った。

 農業地区の中でも特に木々の多い、文字通りの町外れ。

 家屋はまだ少なく畑さえもまばらな方向に向かって行く、一人の少女。




 前を押さえる、少女。

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