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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第八章 黄川田達子
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黄川田達子の過去

 黄川田達子。


 年齢、五十二歳。


 職業、作家。



 正確に言えば、作家兼コラムニスト兼活動家兼政党党首。


 外の世界では短長編問わず数十作のベストセラーを出版したヒットメーカーであり、この町に移住してからも多数の作品を執筆している。

 時にはやや過激とも思える描写で物議をかもす事もあったが、現在では町民にも受け入れられている。外の世界からも印税は未だに振り込まれており、その納税先もこの町に変えていた。


 その彼女がこの町に移住したのは、端的に言えば余生を過ごすためだった。

 まだ余生と言う年齢でもないが、単純に疲れていたのだ。一応高度に発展した美容技術により見た目はアラフォーを保っていたが、精神的にはひどく疲弊していた。




 彼女は、いわゆるバツイチである。


 かつて三十歳ちょうどで男の伴侶をもらい受け、それなりに結婚生活も歩もうとしていた。だがちょうど結婚したころに彼女の作品が本格的に当たり相当に多忙な生活になったせいでか夫婦生活もままならず、あっという間にすれ違いが生じた。

 彼女の五つ上の夫は元々かなりできるエリートサラリーマンで、大グループ企業の営業マンとして活躍し数年の間に役職持ちになっていた。当然仕事は多忙を極め、時計の針がてっぺんを回る事も珍しくなかった。

 だがその事自体がすれ違いの原因ではない。



 問題は、彼の下にある男が訪れた事だった。



 いわゆるヘッドハンターだった男は、自分の勤める企業にくれば今以上のポストと給料を約束すると言った。

 彼女の夫はすぐさまその企業について調べひそかにコンタクトを取り、信用に足ると判断し転職を決意した。



 だが、それに反対したのが達子だった。


「私はこの会社嫌いなんだけど」


 そんな事を言って来た達子に対し、夫は目を大きく見開いた。

 給料も上がり通勤時間も減り休みも取れる、それなのになぜと言う夫の疑問に対し、達子は一枚の写真を見せた。


「あなたが行こうとしている会社の商品ってのを調べたけどね、何なのこれ」

「ああ、知ってるよ」


 知ってると言うあまりにも平板な言葉に、達子は心底失望した。


 のちに外山瞳と言う社員が入社するこの会社の商品は、あまりにも扇情的だった。


 当時すでに体操着としての性質から性的欲求の道具として変質し消えつつあった装束を身にまとう、いかにもひ弱そうな少女のイラストが躍っている。

「私はね、仕事で女性たちとよく会うのよ。それで子どもたちがこういう類の代物から悪影響を受けないのかと日々胃を痛めているのをよく聞くわ」

「その件については俺もわかっている。でもそれを求めている存在ははいる。わざわざその需要を踏みにじる必要はないんじゃないかな」

「私たちには子どもはいないけどね、将来こんなのに引きずられて恥ずかしい真似をする子供が出ないかと思うとゾーッとするわよ。それに、私の立場わかってる?」


 人気作家として達子の作品をもてはやすのは、主婦層だった。


 サイン会にも彼女の作品を原作としたドラマにも、多くの主婦たちが群がる。当然彼女たちに向けた作品が達子の手から生まれ、その欲求を満たして行く。たまには作風を変えようと他の年齢層向けの作品もいくつか物していた事があったが、黄川田達子と言うネームバリューで少し人気にはなるが再販のかかったためしがない。

「そんな手段を使わなくてもできるはずです、国語の成績の悪かった私だってできたんですから」

 そんな訳で主婦層向けのワイドショーにもコメンテーターとして登場する事も増え、その際に自分の立ち位置をわきまえながら本音をぶちまけた。

 その際にも過度な性的表現、そこまでしなければ金を得る事ができない人間に対する苦言を呈した事もあった。


「あのな、何でもかんでも排除しちゃいけないんじゃないか。そうやって世界が狭いのは作家にとっては結構致命傷だと思うぞ」


 夫のこの口ぶりに、達子は両手をテーブルに叩き付けた。それでも夫がまったく動揺しないのでもう一発両手を叩き付け顔をキスするように近づけるが、夫はちっともひるまない。

「私だって会社そのものや社員が嫌いな訳じゃないのよ。こんなに大きな会社なら他にまともな道でももっと儲けられるはずなのよ。もっと世のために人のために力を使って欲しいだけなの」

「世のため人のためってなんだ、孤児院のために心温まる積み木でも作れって言うのか」

 夫がまったく気のない言葉にさらに達子は熱くなって首を激しく縦に振ると、夫は深いため息を浴びせかけて来た。

「わかってるならそのように言ってよ。こんなピンク色のビジネスなんかやめちゃって」

「お前は一体何万人殺す気だ」

 それでも抵抗するように言葉を浴びせるが、夫は全く真摯に受け取ろうとしない。

「私はね、この国の!いやこの世界のための!」


 この手の代物に影響されて少女を略取誘拐殺人した例もあると言うのに、まったく被害者の事を考えていない。

 商業主義の極みのような風紀紊乱。折り目正しい存在が埋もれ、俗悪な存在ばかりが表で威張る。

 それこそ、恥以外の何でもないではないか。


「じゃ、一人でやれよ」


 そこまで吠えて必死に思いを伝えてもまったく反応のないまま、達子の夫は達子の言葉に耳を貸さず転職を決定。女に袖を引きちぎらせたのである。

 その後は言うまでもなく喧嘩別れで離婚となり、そこから達子はさらに執筆に身をやつし、さらなるベストセラー作家となった。


 そんな彼女がこの女性だけの町に移住したのは、七年前の事である。




 彼女の元夫が、その会社の専務になったのと同じ年―――。

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