タイムリミット
「「女性だけの町」が、未だ真に「女性のための町」になれていない。その事は私たちもいたく実感しております。そのために、移住者たちの心理的ケアに力を入れるべきであると考えます。」
これは数週間前になされたある与党議員の町会議会での演説だ。
この町への移民のほとんどが、男たちに傷つけられた人間だった。明るい事を言えば新たなる仲間の到来、生臭い事を言えば自分たちの正義の証明とも言えるその人間たちを町民たちは歓迎し、次々と仲間に加えた。
そんな中に起きてしまった、第三次大戦。
その時にテロ組織と化したJF党に賛同していた人間たちの中にかなりの移民者たちがいた事から移民者全体へのバッシング騒動が起こりかけ、町長や議員、誠心治安管理社の上層部自ら沈静化に当たる羽目になった。
その際に「男性的な暴力」への慎みと「女性的な暴力」への戒めが強く唱えられたのは言うまでもないが、前者は言うまでもなく物理的なそれであり、後者はいわゆる仲間外れ行為である。前者を見せれば男と同じだと言われ、後者を見せればこれだから女はと言われる。
結果的にその方向での混乱は最小限に食い止められ、町の復興も成った。
だがこの大戦の傷跡は確実に住民たちの心をさいなみ、癒えない傷を遺した。
「くそはか」「あほやつ」「しねふす」
など心ないにもほどがある二つ名を押し付けられたテロリストたちは迅速な裁判の下あっという間に処刑されたが、それは逆に言えば憎むべき対象を失ったと言う意味である。
人間はそんなに強い生き物ではない。
不条理な災いに対しやるせない感情をぶつけたいのは自然な話だった。だが憎むべきテロリストたちは正確な裁判によりあっという間に罪を暴かれ刑が確定し執行され、墓場に埋められた。もちろん処刑されずに今でも牢屋の中にいるテロリストもいたが、牢屋の中で年老いてこの世を去った人間も多かった。と言うより今やもう釈放されて生きているか牢屋の中で死んでいるかのどちらかであり、歴史の教科書の一ページになる程度には過去の話だった。
実際、藤森の両親を殺すように命じた上層部の女は「くそあほ」と言う名前を与えられて戦争終結から三ヶ月後に処刑され、実行犯は自爆テロだったため法の裁きを受ける事はなかった。
そんな被害者遺族が、憎しみの対象としたのは何か。
「確かにこの町は男性に傷ついた人間たちを集めるために作られた町です。しかしもし外の町で傷つく女性がいなくなればこんな町は必要なくなるかもしれません」
藤森は四人しかいない空間に向けてつぶやく。
まだ幼かった藤森は最初JF党を憎み、長じてからその憎む対象の喪失を感じて向きを変えた。
なぜ、この町にはこんなにも人が来るのか。
受精卵の状態で眠り、産婦人科にて産まれ、迎えに来る母親たちに抱きかかえられて新たな人生を歩み出す。そんな産まれ方をして来た藤森からしてみれば、男性は嫌悪の対象以前にどうでもよかったはずだった。
だが、時が経つに連れ彼女は変わって行った。
男がいるから移民たちは傷つく。
その救いをこの町に求めている。
だが、その町でさえも悲しみは絶えない。
現に殺人や窃盗などの事件は起きているし、何より大規模集団テロにより自分の母親たちは死に祖母たちも病に倒れた。
では一体何が平穏を壊したのか。
——————————男だ。
男のせいで、女は悲しむ。
悲しみに打ちひしがれた女たちがこの場所にやって来る。
だが、裏切られる。裏切られた。
自分以上に、悲しかったはずだ。
なぜ、余計に悲しまなければいけないのか。
男がいなくなれば—————。
だが男を滅ぼすなど不可能だ。だいたいそれこそ相手の気持ちを尊重すると言うこの町の憲法にも等しいルールに反する。オスの家畜の問題もあるし、それ以上にそれこそもっとも男性的な暴力じゃないか。
だから、このユートピアそのものをを守る事を決めた——————————。
「いずれ人間は進化します。進化し、誰も相手を傷つける事なく平和で平等な生活ができるようになります。ですが今はまだ、強き鎧を弱者がまとわねばなりません。
私は……無力です」
無力と言う単語を口にすると同時にくずおれた藤森を、四人の友人たちは抱きおこす。
「管制塔の職員でさえも、私を避けていました。ただ単純に、職務に忠実なだけの私を。そうして職務に忠実であれば同じ答えが出るはずなのに、誰も彼もが刹那的で近視眼的で、職務を全うしようとしなかった」
「その失望は口にしたの」
「しました。ですが口ではハイハイと言っていても、手足は全く動かない。こちらの言葉を真摯に聞こうとしないのです」
神林が同じころ伴侶候補と共に居酒屋で酒を煽り藤森と言う過酷な先輩についての愚痴を飛ばしている一方で、藤森は神林の不甲斐なさを嘆いている。
そして神林の彼女が神林の愚痴にうなずき慰め合う中、藤森にも拍手が飛び交う。
「管制塔の職員でさえも、それですか……」
「そうなのです。もはや、これ以上我慢できません。
あと一か月、頑張ってみます。そして、少しでも仲間を取り込んでみます」
「わかりました。なるべく長く、藤森さんが夢である管制塔の職員を続けられますように……」
友人、いや同志たちは、祈った。
藤森が管制塔に失望せず、一日でも長く職員で居られるように。
懐に手を当て、目を閉じて祈った。
次の第八章は農村地域だよ!




