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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第七章 給与格差
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大変な職場です

 話を戻そう。




「藤森さん……」

「集中して!今日はどうもかなり数が多いのよ!」


 神林がため息を吐く中、藤森はキーボードを叩きまくる。


 プログラマーと言うよりは軍人、どちらかと言うとゲーマーのようなボタン捌きだった。いや正しくはボタン裁きだろうとか言う冗句が通じないほどには、彼女は仕事に真摯だった。

 ボタンを一つ押すごとにオスの生命体が一個命を失い、亡骸になって行く。赤と黄色の点が次々と消え、青の点が残る。


「この電磁波もずーっと出しっぱなしにできればいいんですけどね」

「残念そうね、でもこの町は女性の楽園でなければいけないから、女性は通すべきなの。この仕事はなくならないと私は信じているわ」

 いくら絶対的な防衛システムと言えど、ずっと点けっぱなしと言う訳には行かない。保持だけでも相当な電力を要し、文字通り点けたり消したりを繰り返しているような状態だった。

 この点ける作業と言うのが迎撃であり、防衛だった。

「やがて世界は、この町の基準が全てになる。誰も他人を傷つけようとすることはできなくなる。むごたらしく過ごす女性もいなくなる」

「そのために確固たる姿勢を」

「あなたもこれ以上無駄口を叩かないで!」

 その防衛に当たる彼女の目は爛々と輝き、それでいて憎しみの色は薄い。その事に気づいているのは彼女とにらめっこしているモニタと神林だけだが、後者にはツッコミを入れる気力がないし前者にはその能力がない。神林が無駄口のつもりじゃないのにと正当な理由でふてくされたのを気にする素振りもない。




 藤森の両親は、教育者だった。片やベビーシッター、片や児童施設の職員。残念ながらこの町においては富裕層のそれではないためか金銭的余裕はなかったが、それでも祖母や姉により大学に進み管制塔に入り、現在の立ち位置も得ていた。

 一方で神林の親の一人はかつての部門担当者であり、もう一人は管制塔の放つ電磁波を制御する工員と言うサラブレッドだった。

 だが親たちの期待を受けこの立ち位置に着いて二年が経つ中、神林は仕事に疲れていた。


 過酷と言うより、苛烈。

 文字通りの殺生。

 オスを殺し、メスだけを生かすと言う仕事。

 自分がたったひとつボタンを押すだけで、数多の命を灰燼に帰す事ができる。


 特権階級と言えば特権階級だが、消えて行く命を見るたびに心が痛む。


「それが私たちの仕事だけど?」


 その事を口にするたびに、返答は毎回同じだった。

 最近神林は仕事の疲弊もあっていわゆる婚活に励んでいるが、藤森にはその兆候がない。その事を持ち出して話を変えようにも藤森はなしのつぶてであり、話が弾む事もない。飲食さえも仕事前に済ませ仕事が終わってからと言う藤森とは、まったく話す話題がなかった。

 せいぜいが仕事の話だけであり、後はすべて無駄口だった。

 そんな神林にとって安らぎの時間は、トイレの時だけだった。わずかに体重を減らして帰って来るまでの数分の間が、神林にとっては文字通りの値千金の時間だった。

「まったく、人間って不便よね。いっその事おむつでも履いて職務に当たるべきかしら」

 だが藤森にとってはそれすら気に喰わないのか、そんな事を真顔で言われた事もある。本当にやってるんですかと言う神林の言葉を封じ込めたまま、藤森は必死にキーボードを叩いている。

 甘えの二文字のない彼女と付き合うのは、職務以上に負担が大きすぎた。最近シフト変更を申し出ているが、それが通るのは早くても三ヶ月後だった。

「今でも発電システムが改善されてるみたいだけど。太陽光発電だけではこの町は賄い切れないのよ、本気で原発を作るしかないって話もあるし」

 時々手を止めて何か言葉をかけて来る事はあってもこれがいっぱいいっぱいであり、勤務時間中は文字通り馬車馬が怠け者に見えるほどに藤森は働く。


 やがて夜が明け、朝日が主張を激しくしてからしばらく後。

 その夜たまたま土を掘って町に入り込もうとしていた働きアリの一団が全滅した事を藤森も神林も知らないまま、退勤時間まで間もなくの時が来ていた。

「あの二人大丈夫かしら」

「大丈夫だと思います、けど……」

「最近仕事が甘いと思うのよ。もっとビシバシとやってもらわなきゃ」

「そうですか」

 仕事への不満や不安ならばいくらでも多弁になれる存在を前にして、神林は適当に相槌を打つのが精一杯だった。

「まだ仕事が終わった訳じゃないんだから、もうちょっと頑張りなさい」

「はい…」

 口ばっかりで手を動かさない人間が嫌われるのは当たり前だが、不言実行な人間が好かれるとは限らない。遊びのない実行による無言の圧力が周囲の人間の呼吸を苦しくし、少しでも手を緩めれば取って食われそうだと言う緊張感を与える。それでその仕事が不出来だったり休み休みだったりすればまだましだが、仕事と言う面において藤森は完璧すぎた。完璧すぎるから誰も言い返せず、何も反論できない。

 もしここに伴侶を含む家族でもいれば少しは和らぐのだろうと言う期待を神林が抱き、そのために彼女にパートナーを勧めようとしたと言うのは間違いではない。だがただでさえ金欠の二文字を武器と盾としてその手の存在を排除している彼女にこんな腑抜けた理由で強引に婚姻を進めさせるなどとても無理だった。




「男たちのせいで」家族を失った、藤森に。

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