ユートピア訪問
「入町を許可します」
絶望を抱えていた私の下にそのメールが届いたのは、その日から三日後の事だった。
今の今まで、存在だけを知り気にも留めていなかった場所。
————――――女性だけの町。
かつて男たちに絶望した女たちが極力男の手を借りずに作り上げた理想郷。
男がいないのは無論、男に媚びるような女もいない。その必要がないから。
「課長……」
「なんかえらく疲れてるみたいだけど」
「どうも上の人も交渉してるみたいでね、例の企業とのコラボに向けて前進中らしいですよ、うちの課飛ばして……」
世界は相変わらず私に優しくない。
なんでもこの前私がぶち壊した企画が上層部の目に留まり異業種コラボに向けて動き出してしまったようで、しかも聞けば言い出したのは彼女のような軽薄な女ではなく別の課の係長代理とか言う三十路独身男。
分厚い眼鏡にそばかす面、いつもヘラヘラしてるような男。しかも聞けば社長の従兄弟の子だとか言うコネ入社。そんな人間の意見を上層部の連中はホイホイと聞き入れてしまい、来月には本格的にコラボ商品の発売が始まってしまった。
管理職とか言っても大した権限などない私の言葉が届くはずもなく、逆にあの女の提案を無下に踏みにじったせいでチャンスを逃したと課の部下たちからの告げ口を受け私は孤立気味になってしまった。
そんな不愉快な存在を頭から追い出し、私は自動車を飛ばした。有給休暇も使い、それこそ一週間滞在するぐらいの勢いで。
いや、場合によっては今の会社に三行半を叩き付けてやるぐらいの覚悟で。
すでに女性だけの町にも経済は存在し、企業が存在する事もわかっている。そこで課長にまでなった力を見せ付けてやればいい。今回の旅行は、そのための調査も兼ねていた。
「目的、観光……」
町の角に存在する、四つの大きな塔。そしてその中央にそびえる、もっと大きな塔。この町の安全を守る、正義と平和の象徴である「管制塔」。
「カブトムシも死ぬんですね」
「ええ。それが管制塔の役目ですから。邪魔する存在は全て電流の力により葬られます」
角を生やしたカブトムシが死体になっていた。人間だけでなく、犬猫や虫までも許さないと言う断固たる姿勢。口ばかりの連中とは訳が違う事を実感した。
もっとも五つの塔以外、外観は自分がいる町とさほど変わらない。だが神秘的とも取れるその塔をくぐった瞬間、空気がきれいになったように感じる。標高はそんな変わらないはずなのに高山に入ったような、都会のはずなのに喧騒が消えたような感触。何もかも開放的になれそうな気分。
とりあえずおのぼりさんよろしく、左右をキョロキョロしてみる。
女、女、女。
本当に、女ばかり。
看板にも扇情的な女の姿はなく、大きく映る女も実に整然とした格好をしている。飲み物のアピール広告に使われているその女性のイラストはまさしく淑女と言うか折り目正しきキャリアウーマンであり、万人を安心させる。
かつてテロリストにより破壊されたとは思えないほどに、町は美しかった。
「この一本で明日も安心して働けます!」
キャッチコピーも実に優しく、自立的である。男に依存しなければ生きていけないような弱々しい女の姿はない。そんな連中が男に媚びるような真似を行い、男を図に乗らせる。男はそんな代物に騙され、受け入れてしまい、ますます言うべきことを言っているだけの存在である私たちを遠ざける。それでは永遠に自立の時は来ない。
私は地図アプリを頼りに、マンションへと向かった。この町でもかなりの高級住宅街だと言うそのタワーマンションは小ぶりながら外のそれよりもずっときれいに見え、安心感があった。
「そうです、全員女性です。女性同士の同居もあります」
玄関でそんな野暮な質問をしても答えてくれた親切な受付の女性。背筋を伸ばし、黒髪をしっかりと縛った上品ないでたち。
ああ、こんな所に住んでみたいもんだ。ただ家賃その他は半端でない額になりそうだから無理なのかもしれないがさぞセキュリティシステムもしっかりしているのだろう。
いや、いらないのかもしれない。何せ、男がいないのだから。




