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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第六章 「追放」
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職員の過去

「……うう、ああ、やめて!」

「誰がやめるか!女の分際で!」



 二日目の午後。



 スクリーンの中では、ひげと言うこれまた女にはまずありえない存在を顔中に並べた男により、女が殴る蹴るの暴行を受ける映像が流されている。


「この町ではこのような危機にすぐ警察や隣人が駆け付けてくれます。しかし外の世界ではそんな調子のいい事はありません」

 泉は無言でうなずきつつ、殴る蹴るの暴行を受ける女性をじっと見ながら職員の言葉に耳を傾けるポーズをする。


(そう言えば今日の昼ご飯は肉野菜炒めとごはんとお味噌汁……それであの肉ってやっぱりそういう肉なんだろうなあ……)




 その上で、その実はこんな事ばかり考えていた。


 確かにいたましい光景ではあるが、どこか現実感がない。一応人並みにドラマにも慣れて来た存在からすれば、こんな光景はある意味ありきたりだった。


 泉にとっては歴史だった第三次大戦を題材にしたドラマ。それこそ小学校時代から町の負の歴史として語り継がれるべきだと言わんばかりに流され続けたドラマや、さらに言えば授業。

 だいたいの話としてドラマには悪役が要る。悪役は別に人でなくてもよく、犬や猫、洪水や病気でもいい。なんなら、二人同士の小さないさかいでもいい。

 毎月のようにやっている第三次大戦を元ネタとしたドラマでは、悪役は当然テロリストとなったJF党の党員や党首などだった。それらの悪役は、どうしても悪役として魅力的に描かねばならなくなる。

 では魅力的な悪役、いやスポンサーが望む悪役とは何か。それは決して人間として魅力ある存在ではなく、破壊の限りを尽くす残虐な悪役である。

 その中でやっていた悪行に小学校時代は泣きわめき、中学時代には単純におびえ、さらに長じてからは正しくその悪を理解する。これは学校のカリキュラムにはないこの町の通過儀礼だった。

 もちろん目の前の「男」の暴力には泉も辟易している。だがその暴力は紛れもなく見覚えのある暴力であり、耐性ができていた。




「ただ女だから。「妻」だから。そんなどうにもならないはずの理由で振るわれる暴力!」

「うわぁ…」

「これが現実です!」

 そんな泉の心を読んだのか職員は理不尽さを叫び、少し泉が震えた様子になるとさらに叩き込みに来る。

「私はこんな世界から来たのです!あのバリアのない!世界から!」

「そう、ですか……」

「あなたの選択を、止める権利は私にはありません!しかし!中には!」


 とどめとばかりに、職員の女性はボタンに右手のひらを叩き付けた。



 金髪と言うか茶髪を振り乱し、下着姿で激しく動く女。


 ベッドの側には脱ぎ捨てられた真っ赤なドレスが無残に横たわり、さらに男の笑い声が混じる。


「ウヒヒヒヒヒ……」

「ああ、もう、ああ、気持ちいい……」


 男の手により、理性を失っていく女。顔がとろけ、快楽に溺れている顔。


「彼女は、かつてこの町にて才女と呼ばれ管制塔に勤めるべき人間でした!しかし一時の欲に溺れて町を飛び出し、今ではこれが商売になっています!」

「……」

「そう、これが紛れもない外の世界……です…………!」


 職員の目から本当に液体が落ち、教卓を濡らす。




 噓偽りのない涙。




「昔、伴侶であった存在から同じ事をされたんですか?」

「そうです!強引に親の手により結婚させられ、外の出る事もままならず暴力を振るわれ!それでかろうじて逃げたんですが、今はまた別の女性を捕まえてこき使っているのかと思うと本当に心苦しく、てっ……!!」


 本物の涙。


 決して後ろ暗い所のない 心底からの心配と危惧。


 どんなに警戒心があったとしても信じさせる程度には、職員の女性には迫力があった。


「もし最初からこの町に生まれていれば、どんなに幸せだったでしょうか」


 ハンカチで目頭を押さえながら、身の上を語る。



 年齢、三十三歳。いわゆるバツイチ。


 子どもはこの町に来てやっと伴侶を見つけ直し、一年前に持ったばかり。

 かつて「出産」の形で産まれた子どもは一人、小学二年生のそれがいるがまったく手をかける事はできていない—————。


「親権も向こうに渡り、もはや私は母でも何でもありません。金に物を言わされて我が子をかすめ取られ……」

「それは……」

「私はこの町を愛しています。この町こそどこよりも発展すべき町だと思っています。でも今はまだ、発展途上です。なればこそ、あなたもこの町を去るのでしょう?」


 激しく傷ついたゆえの熱弁を振るい、それゆえに誠実に涙する。


「肝に銘じておきます」

「そうですか……では、良き決断を……!」


 精一杯の振る舞いをした職員はくずおれるのをこらえながら、必死に頭を起こした。


 その顔はまるで、料理を作っている時の泉のようだった。



 自分の役目を、何があっても果たさんとする。



 まさしく、仕事人の目をしていた。

すいません、各章7話の予定だったんですが今回は1話増やします。まあ、第一部最終話って事でどうかご容赦の方を……。

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