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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第六章 「追放」
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追放者講習

「ではこれから三日間、外部についての研修を行います」


 尖った眼鏡をかけ黒いスーツに着替えた、外の世界から来た女性。


 その女性と二人きりの空間で、泉はテーブルに持参したノートと筆記用具を置く。

 その一人っきりの生徒に対し、職員の女性は音を立ててテキストを置いた。


「生物と言うのはどうしても、数を増やすために男性と女性を必要としてしまいます。そのサイクルは何億年と続き、それゆえに男性が女性を組み伏せる関係が生まれてしまったのです。

 男性は弱き女たちを強引に孕ませ、子種を植え付ける事により逃さなくする。そのサイクルに慣らされてしまった女たちは何の疑問もなく股を開き、さらに男に組み伏せられるを良しとしてしまうようになりました。表向きにはお互いが了解の上ですが、本当にそうである組み合わせが一体どれだけあると言うのでしょうか」


 ホワイトボードを叩きながら、職員は熱弁する。

 男性たちがずっと世界を仕切り、女性たちはずっと付随する存在に過ぎなかったと。


「女上司と言う言葉はずっと昔からあったのに対し、男上司と言う言葉はありませんでした。その意味が分かりますか?」

「珍しかったからですか」

「そうです。多くの場合女○○は男の寡占市場に侵入する女性をあざける言葉です。女の分際でと言う意味が込められ、同時に恐怖心をも現しています。

古来より雄は自分がいかに優れているかを見せる事に腐心します、全ては雌を得るために。そう、雌と言う存在の価値を認めないかのように。文字通りの道具扱いであり、あまりにもみっともない虚栄心です」

「自分がいかに優位であるかを示し、実際の優位を得ようとする。野生動物ならばそれでいいのかもしれないが、理性を持った人間相手にそれをするのはどう考えてもよろしくないと」

「そうです。ですからこの町の子どもたちのために、コモドドラゴンをベースにしたドドラちゃんと言うキャラが作られたのです」


 ドドラちゃんがコモドドラゴンなのは、男女の交わりを得ずに子どもを作る事ができるからだ。

 泉が生まれる数年前に作られたドドラちゃんは誠心治安管理社を含む町中のシンボルキャラクターとなり、子どもから大人まで皆が親しんでいる。他にもミドリムシやシチメンチョウなど単為生殖のできる生物たちのキャラクターも増えている。最近町ではミジンコのジンちゃんと言うキャラが人気になり始めていた。


「そしてこの町ではまったく当然ですが女性だからと差別される事はありません。しかし外の世界では女性だからと差別されます。どうにもならない要素なのに!」

「なるほど……」

 産婦人科医に保存されている卵子はあらかじめ女性しか生まれないようになっているが、そんな技術など外の世界にはない。どっちが産まれるかはある程度の差異はあるにせよほとんど運の問題であり、本人には全く責任がない。


 だから、女性だからと差別するのは良くない。


「そしてあなたはただの女ではなく、この町に生まれ育った女です。それこそ文字通り奇異なる女であり、それ以上に難解な女とされています。先ほどと言っている事が矛盾してしまいますが、決して男性を男性だからと言って蔑んではいけません」


 そしてそれゆえに、女性は男性を差別する事はできなくなった。

 女性を差別するなと言った口で男性を差別していては意味がないと言う、理屈にすればごく単純な話である。


「行動によって蔑むは可、言葉によって蔑むも可、容姿によって蔑むは不可、性によって蔑むは至愚……この町を作った人間が遺した言葉です」

「決して、自分自身の責任でない事で蔑んではならないと」

「そうです。その事をわきまえねばたちまち隙を与えます。この町ができてからすでに半世紀以上経っているのに、まだ存在を認めていない人間は多いのですから。まあ、かつての私もそうなのですが」

「先生も」

「私は昔男たちにより尊厳を奪われ、本気で死のうかと思いました!そこで友人からこの町を紹介され、藁にも縋る思いで移り住んだのです。最初は私もこういう教えを受けて戸惑いでいっぱいでしたが、今では心底から納得しています」


 自分が強き存在、正しき存在にならねば戦いに勝つ事などできない。

 電波塔と言う兵器を持つだけでは本当に強くなれない。

 悪を討つに悪になってはならない。

 人間として恥ずかしくない存在になる事が、この町の住人の条件である。



 この町で生まれ育った泉がそのある種耳慣れた言葉を改めて書き留めて行く中、一人の女性が三角巾とマスクとゴム手袋をしながら汚れの目立つ段ボール箱を持ち込んで来た。

 清掃員にしては手つきの怪しい彼女に向かって職員は頭を下げ、その上で彼女と同じように手袋をはめて荷物を受け取った。

「うっ…」

 そして先ほど少し激昂しても決して崩さなかった表情を激しく崩しながら、職員は荷物を教卓に叩き付けた。泉がわずかに動揺したのにも構う事なく、職員はその段ボールを回す。

 教材とマジックで大書された最初は野菜を入れるために作られたと思われる段ボール箱は蓋が一枚取れ、中身が一部見えていた。




 扇情的な、女性の絵が。

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