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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第六章 「追放」
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去る者は追わず来る者は拒まず

 とにかく町を出ていく事になる女性は、まず教育施設に入る事となる。


「研修期間は三日間。そしてそれを受けた上でどうするかは本人次第」


 その条例に従い、泉は管制塔傘下企業の中でもかなり上位に位置する会社の寮へと入る事となった。かつて第三次大戦の直前に立てられたこの建物は、その時の襲撃を受ける事はなぜかなかった。


「泉さん、あなたは追放を望んでいるようですが」

「はい」

「そうですか、ではこちらへどうぞ」


 職員に導かれた泉は、玄関の前のバスに乗り込もうとした。


 決意を固めていた泉は既に、目の前の真っ黒なバスに乗るのが寮への交通手段である事を知っていた。




 この町と外部との違い。

 男性と言う存在についての授業、取り分け性教育。

 その地にあふれる華美な存在と、それに対する対処法。




 そのような教育を受けた上で、外の世界へと向かう。

 そのための寮は農漁業地区にあり、数キロ先にあるはずのビルさえも見えるほどに視界が良い。しばらく、そこの農産物でも見られる光景を眺めながら料理人としての将来を考えるつもりだった。


「ちょっと待ってください!」


 だがバスの扉に触れようとした泉に対し、職員が声をかけて来る。もし許されるならば首根っこをつかんでいたかもしれないと思うほどの早口に泉は鳩が豆鉄砲を食ったような顔を向け、他のバスの乗客たちも目をむいた。

 そんな彼女に向かって、職員は東の方角へ強く右手の人差し指を振った。


 その先にあるのは乗り合いバスではない普通の自動車だが、長さの方はそこまでの差がない。その上いかめしく黒い輝きを放ち、運転手まで威厳を含んでいる。


 平たく言えば、リムジンだ。


 それこそ町長や管制塔長官のようなVIPが乗るような、銃弾でも平気で跳ね返すほどの超高級車。泉の給料では十年間かけても買えるか否かわからない走る財宝。

 だがそのリムジンの意味を、この場にいる人間のうち半分ほどは知っていた。


「え…」

「あなたはこちらです」


 バスに乗り込もうとする人間たちが足を止め泉に目線をやる一方、泉は予想外の事態に目を丸くしていた。

 実際問題、調べたと言っても限度があった。泉と言うただの料理人には、それほど太いコネがある訳でもない。ましてや追放されたような知り合いなど一人もいるはずもなく、身内に追放者を出した存在はいたとしてもその事を話そうとしなかった。

 表向きには去る者は追わず来る者は拒まずと言っていたとしても、追放者に対しまったく悪意なく葬儀が行われれば去って行った人間たちの心証は良くない。もちろん追放者たちが町に戻って来た例はゼロではないが、彼女たちは差別こそされないにせよどことなく敬遠されていた。


「わかりました」


 とりあえず他に何も言う事はないしとばかりに職員と共にリムジンに乗った泉に対し、他の女性は普通のバスへと入って行った。

「あなたが「追放」を望んでいる事は既に存じています」

「それはお伝えした通りですから」

「行って帰って来るのと追放では訳が違いますから」


 バスに乗り込むのは、トラックドライバーのように他の町に行って帰って来るだけの人間たちだった。

 彼女たちは泉が聞き及んでいたような講習を泉が聞き及んでいたように三日ほど受け、そして外の世界へとトラックを走らせる。ちなみに町から出なくて済む仕事などはほとんどがビデオチャットや向こうがこっちを招き入れてのそれであり、町の人間が外に出向くのはごくまれである。もちろんそれらの仕事でも、徹底して相手に男子禁制を貫かさせた。ずいぶんと上から目線な話だが、それでも商売は成り立っていた。

 なお給料の方は例によって例の如くドライバーの方が高いが、それでも男と関わらなくて済む分内勤の方がいいと言う意見も常にあった。



 話を泉に戻そう。


「追放」のための講習施設はどこにあるのか知らなかった泉は所在なげにキョロキョロし出したが、少なくとも緑は多くならない。相変わらず灰色のコンクリートジャングルばかりが広がり、たまに違う色が来た所で赤とかオレンジ色とかだった。

「この町は完全な町であり、町だけで全てを補うべく発展しています。しかし外の世界はあまりにも不完全です。その不完全なのはこの町だって同じですが、それでも完全に近いとは思っています」

「その完全を求めてここに来る人も多いのでしょう」

「かく言う私も、外の世界に絶望してこの町にやって来て数年、やっと生きがいを見つけたのです。誠心治安管理社に勤められるようになるまで必死に勉強し直し、そして子供ももうけられたのです」


 誠心治安管理社。

 泉でさえも忘れかかっていた「管制塔」の正式名称。


 泉が勤めていたレストランは管制塔の傘下企業ではないが、管制塔傘下企業に勤める人間でさえもまともに覚えてないほど認知度の低い正式名称。泉の小中高校時代の同級生の中でそこに勤めたいと願っていた同級生の数はあまりにも多いが、管制塔本社にとなると成就させた人間はあまりにも少ない難関であり、大半の人間がその傘下の下請け孫請けへと流れて行く。

 そんな場所の中でもこの誠心防衛社はかなり上位の企業であり、移住者として入社できたのは、泉と言う追放希望者と共にいる彼女が初めてだった。




 この町で極めて発展した化粧品を、肌に付けている彼女が。

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