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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第五章 ある問題を解決する方法
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重篤な病人

 敦子が「模範囚」として釈放される流れに乗る中、また別の運命をたどる女性もいた。




「申し訳ございません……」

「ハア……」


 警察署の窓口でひどくうつむく彼女は、小説家兼テレビドラマの脚本家である。その彼女を前にして、警官も深くため息を吐いた。取材対象として仲良くなった仲でもないのにすっかり顔見知りとなってしまった彼女の存在が、うっとおしいを通り越して悲しくなってしまっている。

「診断書を確認しました……自己逮捕を認めます」

 警官も何度目かわからない診断書を受け取った。


 実は「自己逮捕」は、それほど自由な権利でもない。年齢ごとに年に何回までと決められており、それを越えた場合医師の診断書が必要となる。


 彼女はもう、十回以上この一年間で「自己逮捕」を申請していた。


 人気脚本家が「自己逮捕」の常連でもある——————————と言うのはなかなかにスキャンダラスなお話であり、彼女もまた商売が商売なだけにマスコミの耳目を集めまくっていた。

「私自身、それなりに政治活動もしていますが…」

「議会も難病指定について取り上げてはいますが正直反発の声も少なくなくて。まあ個人の思想信条を語るのも野暮ですけど」

 かつてTL党が勢力を伸ばしていた時代にこの一件についても少しだけ話題になった。一部の党員が「自己逮捕」を幾度も行わねばならないような女性は欠陥品であると言う旨の発言をしていた事があったが、身内であったために外の世界に出る事はなく誰もそんな暴言の存在を覚えていない。

 しかし表に出ているいないに関わらずどうしてもこの特異な状態に違和感と忌避感を覚えてしまう町民はいなくならない。いくら「みんなちがってみんないい」を叩き込まれていたとしても、「逮捕」と言う単語まで使われてしまうような現象に対して肯定感を持つのは難しい。そのため政治運動は起こりにくく、起こったとしてもトーンダウンしては消えてしまうを繰り返している。


「とにかくまた処置を施さねばなりませんので」

 歩き慣れた警察署の道を歩く姿は妻子持ちのそれとは思えないほどにうらぶれており、とても地位も名誉も人並み以上に持ち合わせた人間の姿には見えなかった。金銭的問題はさほどの事はないが単純に時間を食うし、それ以上に名誉と仕事の問題もある。基本的に「受刑者」は「処刑」と「教育」以外する事はなく、それ以外はほぼ体を落ち着けるための休養になっている。

 それはとりもなおさず最低一日潰すと言う事であり、当然脚本や小説の原稿が遅れると言う事である。だから最近では「教育」が免除されノートパソコンの持ち込みが認められているが、その結果別の意味での熱量によりまったく気持ちが落ち着かなくなった。まったく「自己逮捕」本来の目的とは乖離した話であり、余計に「処刑」が長引いたことは一度や二度ではなかった。

「言っておきますが私は警官です。法と正義を守る番人の警官です」

「はい、でも……」

「自分と言う名の素人の手により治療行為を行えば、必ず破綻します。ましてや文字通りの私刑を行うなど言語道断です。その場合今度は真に法廷にかけられる事になります」

 警官の姉もまた別の部門の警官であり、警察内部でもかなりの腕利きだった。その戦いの腕は警察内部でもかなりの高レベルであり、暴力ダメ絶対の原則を破った人間たちを次々と捕縛していた。


 —————多くの「元警官」、正確に言えば「元執政官」を。


 この件については開拓時の犯罪問題、TL党による廃止問題の次に来ているのはこの「元執行官」による非公認の「私刑」であり、公共財をおびやかし粗悪な処置を施す悪徳業者の温床になっていた。表向きは酒場やマッサージ店などとして「私刑」を行う店は山とあり、文字通りのいたちごっこだった。さらに言えばそこから生まれた連中がほぼ無料のはずの執政官たちの仕事を奪い、暴利をむさぼっている。文字通りのガン細胞であり、除去しなければならない存在だった。

「外の世界ではこの私刑を生業とする輩も多いと言います。その事は警官として、いや人間として叩き込まれているはずなのですが」

「それでもなお…」

「ええ、我々は未だ完全体足りえる存在にはなれていません。私自身この町から死ぬまで出る気はありませんし、この町に憧れてやって来たり移り住んだりする人は多いのですが、同時に出て行く人間もいるのです」

「そんな勇気は正直ありません、せいぜい移り住んで来た人たちの言葉を聞くだけです」


 出て行けば、外の世界を知れば、もっといい作品が書けるかもしれない。

 脚本家の彼女がそう思った事は一度や二度ではない。

 だがそれこそもっとも危険なギャンブルであり、命を懸けた行いである事を知っていた。

 引っ越しは無論観光でさえも一大イベントであり、無事に帰還しただけで祭典が行われたと言う話もあった。そして一部の過激派たちは、葬儀をも行っていた。


「あるいは私は、ここにいてはいけない人間なのかもしれません……」

「落ち着いてください、これよりそのような事を考えないような処置を執行しますので」

 過激ではないにせよ愛国者である警官と執行官の手により、「被告人」の罪を鎮めるためのより「重い刑」が執行されようとしている。

 これまで数十人にしか与えられなかった刑が。

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