「執行」
「では執行を始めます」
ブラと失禁パンツだけの姿になった敦子はあおむけに寝ころび、体を執行官に預けた。
文字通りの中肉中背ながら引っ込むべきところは引っ込んでいるその肉体はそれなりにきれいであり、人の目を引くには十分だった。もっともそんな肉体をさらすのは風呂場以外存在せず、その体つきについてうんぬん言われる事もパートナーからも義母たちからも実母たちからもなかった。
敦子の上に、朝顔の顔が乗っかって来る。彼女もいつの間にか半裸になり、敦子の中にその肉体をさらしている。
その敦子の目を引くのは、あまりにも大きな胸部のふくらみだった。
「これは……」
「私がこの仕事に就いたのはこの胸部が原因です。昔からこの胸がコンプレックスだったのです。かつて巨大な胸部は知性の欠如を意味し、およそ主要な産業にはふさわしくないと揶揄された事もあります」
その大きな胸を、朝顔は両腕で必死に揺らす。敦子の目の前で揺れる二つの果実は見る者によっては欲望をそそるべきそれだったが、敦子が反応する事は何もない。ただ熱くなった体を持て余すばかりで、むしろ同情の思いばかりが広がる。教育の関係上口には出さないが、敦子は胸の大きい女子の事に朝顔が言うようなイメージを抱いていた。
だがブラジャーに包まれたその二つの球体を見るたびに、敦子の体の熱量が高まって来る。
そして、いつの間にかブラジャーが消えて二つの点が浮かんでいた。
「自分の以外で見た事はありますか」
「母たちと、祖母と、パートナーと、娘と……それで全部です」
家族以外にまともに見せる事のない二つの点に敦子は目を激しくまばたきさせ、呼吸が苦しくなる。
「では……」
その点と球体から目を背けてはならぬと敦子は必死に目を見開くが、視界が徐々に狭くなって来る。二つの点が両目のさらに向こうに覆いかぶさって来る。重みが敦子の体にのしかかり、呼吸が苦しくなる。
え、と言う声を出す暇も敦子にはない。敦子とそう背丈の変わらない朝顔の胸が頭に来ていると言う事は、足は腹の所にあり、敦子の胸の所に朝顔の腹があると言う訳である。
ありえない体制。我が子を前にしても及びもつかない姿。昔こんな事をされたのか。
「っ……」
「静かに!」
胸を押し当てられた敦子の呼吸の荒さは頂点に達し、声が高くなって来る。まるで、誰か助けを求めるような、いや、もっとしてくれと望むかのように。
「そうです、もっと、もっと!」
「ああ、ああ、ああ……」
体中の熱量が上がり、汗が噴き出す。半裸の肉体が赤くなり、心臓の鼓動が激しくなる。
——————————そして!
「すみません、少し、トイレ、に……!」
体がトイレを求め出した。だが朝顔は敦子を離さず、むしろ両手両足で敦子をつかみにかかる。弱くないはずの敦子を押し倒し続け、胸をさらに当てる。
その攻撃の前に、敦子の肉体はあっけなく観念した。
「あぁ……」
普段から排尿のためだけに使っていた場所から、失禁パンツの役目を果たすべき存在があふれ出す。まるで小学生の時の様に、文字通り二十幾年ぶりの体験。
「どうやら成功のようですね」
「ああ、そう、です、か……」
朝顔が胸を離すと敦子は上半身をわずかに起こし、激しく呼吸をした上で先ほどの自分の失態を確認した。
「この病気は、私たちが女である事の証明です」
「女…………」
「人間と言うのは、どうしても男と女と言う性を持つようにできてしまっている。そうやって幾百万年も進化して来てしまった。ゆえにこうなるのは宿命であり、旧弊でもあります。男性たちが、真に女性の求める答えを出し、そしてそれを当然の事だと理解するまで。本当ならば、こんな町はなくてもいいのかもしれません。ただ残念ながら、現在ではまだ必要…………」
―――本来ならば、こんな町を作りたくはない。
―――だが、要求を満たさない男があまりにも多すぎる。
―――だからこそ、あるべき姿を見せつけねばならない。
「そうなればこの刑も必要なくなると」
「でしょうね。ですが私自身、そこまで重たい考えを持っている訳ではありません。ただ確かな事は、どうしても人間と言うのは汚いこと、醜いことからは逃げ切れないと思っています。その程度を最少にするのが人間の役目でしょうが、それでもゼロにはなりません。私は目の前の存在の苦労を取り除くのが精一杯です」
いくら職務に誇りを持てとか簡単に言った所で、本当にそれができる人間はそんなに多くない。大半の人間は他の何かを糧に、その糧のために働いている。家族、趣味、親族、その他諸々。それらを疎外する権利など、誰も持っていない。それは、公共機関のしもべである公務員とて、何も変わらないのだ。




