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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第五章 ある問題を解決する方法
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「執行官」

「自己逮捕」された「容疑者」には、勾留などない。


 ただ、取り調べと言う名の診察だけがあった。


「それで、いつ頃から症状が出たのですか?」

「自覚したのは昨日からです……」

 問いかけるのは警官だが、口ぶりはどちらかと言うと医者のそれだった。傍らには取り調べ書を持った別の警官もいたが、彼女もまたどっちかというと看護師のようだった。

「それで、同伴者は」

「義母です。出頭、いえ自己逮捕ぐらい一人でしなければならないのに……」

「気にする事はありません」

 敦子は本物の犯罪者であるかのようにうなだれている。「出頭」と言う形が十件に一件ほどしかないのは、ある程度長じていればみんな「自首」する事を覚える物であり。「出頭」するのはたいてい初めてか二度めぐらいまでだからだ。そしてそんなのは小中学生で終わっており、三十路過ぎてまでこんな事をするのは重病人か甘えん坊の証だった。世間が前者だと言う事にしていても、どうしての後者の影が消える事はない。

「昔軽い人は長じて重くなってしまうとよく言われています。敦子さんはおそらく軽かったんじゃないですか」

「私はこの辺りの生まれじゃないんですがそれとは関係あるんでしょうか」

「まだその点については研究段階ですので」

 実際問題、症状の程度についての出身地その他による詳しい事はまだわかっておらず、警官たちもまた手探りでしか物が言えない。その間にも敦子の顔の赤みは増し、呼吸がより一層荒くなる。さらに倦怠感が体を覆い、背もたれ付きの椅子に座っている事さえ苦しくなって来る。

「とりあえず症状についてはだいたいわかりました。それではしばらくここでお待ちください」


 そんな敦子を前にして警官たちは尻を向けて出て行ったが、敦子には反論する気力さえなくなりかかっていた。机にもたれかかり、新たなる客を待ち続ける。

 実際、この病気にかかるとたいてい体が熱っぽくなる上に倦怠感が体を襲い、そして呼吸が荒くなると言う敦子に起きたのとほぼ同じ症状が発症するのだ。警官たちもまた同じ病を通過しており、そして自分たちではどうしようもないことを知っていたのだ。

 机の冷たい感触が、おそろしく気持ちいい。火照った体を冷やされ、症状が緩和されそうな気がして来る。だが熱が引いた所で倦怠感と呼吸は元に戻らず、風邪と呼ぶにしても鼻水も出ない。そしてなぜか、頭とも喉とも肺とも違う場所が気になる。確かにたくさん水も飲んだが、それとは別にその場所に触れたくて仕方がない。だがそれこそはしたないと言う次元を通り越した蛮行であり、それが許されるのは本気で小学校低学年までだった。娘たちにもそうしてはいけないと必死に教えている手前、そんな場所に手をやる訳には行かない。帰ったら今度は何にするか、夕飯のメニューを必死に探し求める。そう言えば行きつけのスーパーではトマトが安かったな、トマトを使ったパスタにでもするかとか叶わぬ願いに思いを馳せる。

「お待たせしました」

「ああすみません!」

「大丈夫です、よくある事ですから」

 警官が入って来ると敦子は必死に体を起こしたが、実に緩慢としていてかつてのキャリアウーマンや今の二児の母のたくましい姿はない。

 そして、隣の警察署にまったくふさわしからぬ衣装を身にまとった女性の存在にツッコミを入れる気力もない。


 真っ赤な長いドレスに、金色と茶色の中間で敦子の倍以上の長さのある髪の毛。唇以下顔中が激しく輝き、首にも指にもやたら明るい装飾品がくっついている。

 コンクリートむき出しの無機質な家屋とは好対照すぎる、あまりにも扇情的な姿。

 それでいて、頭を深々と下げる様子は文字通りの淑女だった。

「よろしくお願いいたします、執行官の朝顔です」

 朝顔と言う、明らかに本名とは思えない女性。扇情的な美を追い求めたその姿は一見下品であるが、その上にその事を何も恐れない風格が乗っかっている。

「すごい、ですね……」

「執行官はかつて、第三次大戦により職を失いかかりました。それゆえに現在の執行官は職務に誇りを持つ事が最優先とされています」

 敦子はそうとしか言えなかった。

 自己逮捕された受刑者に刑を下す執行官は、かの第三次大戦にて真っ先にターゲットにされた職業だった。

 言うまでもなく私刑は犯罪であり、刑罰を下す権限を持った執行官は公務員である。朝顔と呼ばれた女性も公務員試験を受けて合格し、税金で給料をもらっていた。ドレスも化粧もアクセサリーも税金であり、化粧品もまた上層部からの支給品だった。ノーメイクの時はまったくただの女であり、彼女自身もこの町にて漁師を営むパートナーを持つ一児の母だった。

「女が女である以上、いや生き物である以上逃れられぬカルマ。それと戦うのが私の役目です。これより敦子さん、あなたへの刑を執行しますので」

「はい……」

 そんな一児の母に手を取られながら、敦子は執行部屋へと向かった。


 桃色の壁と、ハートマークの並びまくったベッドのある部屋に。

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