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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第一章 女性だけの町
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酒飲みたち

 先ほども述べたように、この町には農家もあれば漁師もいる。その上で彼らが求めるような遊興施設もある。古来より農家の遊びは地味で漁師の遊びは派手だと言うのは、漁師が大海原と言う一つ間違えば全滅もあるという環境の中で過ごして来たゆえのお話である。ケとハレの文化においてケがおとなしければおとなしいほどハレもおとなしくなるのはやはり世の常であり、時になかなかハレを出さずに祭りと称して目一杯はしゃぐのもまた文化だった。


「アッハッハッハ……!」

 中心部から離れた場所にある、和装めいた建物。

 平たく言えば居酒屋。どこの町にもあるようなチェーン店の看板を掲げたその店だが、従業員その他はまったく町の住民だった。もちろん売上金は収めているが、ほぼどこにもないような、ユーザー層に合わせた店舗になっていたはずだった。


 そんな店にやって来た、薄汚れた作業着姿の人間たち。みんな朝の八時から今まで十階建てのマンションを回り、部屋中の水道管をメンテナンスして来た。皆髪の毛を結び、一様にまるで化粧っ気のない顔をしている。

「いらっしゃいませ」

 接客業のテンプレートの挨拶を乗客たちに向かってする店員に構うことなく、作業員たちは勝手に決まっているように「指定席」に着く。

「とりあえずビール!」

 そしてこれまた定型文のようにビールを人数分だけ注文し、先頭に立っていたリーダーらしき存在のカンパイの掛け声とともに一気に飲み干す。

「お客さん、アレルギーの方は」

「大丈夫だよ、ちゃんとテストして来たから」

 お節介だとわかっていても、そう言わざるを得ない。接客業と言うより、人間として危惧せねばならない症状。いわゆる下戸と言うだけでなく、アナフィラキシーショックを起こすような人間を生み出すのは文字通り百害あって一利なしだった。レジ係にとって少し腹立たしいのは、こんなパッと見無神経そうな連中の集まりでさえもその手の知識を持ったうえで来店している事だった。

 -—————もちろん、その事を顔や口には出さない。

「いやー、今日もお疲れ様!」

「先輩の手腕マジすげえっすよね、あんなにチャッチャチャッチャと」

「こちとらこれ一本でやってるからな、その言葉本当にありがてえぜ!」

 酒をあおりながら、サイドメニューのもつ煮込みを口に運ぶ。顔を赤くしながらお世辞にもお上品とは言えない姿をさらし、そして恥じる事もない連中。当初からある程度、覚悟はしているつもりだった。

「ご注文は」

「ああもつ煮込み四人前追加、あと酎ハイ十人分」

 そんな中でもきちんと注文を受ける店長にレジ係の女性は畏敬の念を抱き、注文を運ぶ同僚には内心畏怖の念を抱いた。

 近寄るたびに酒臭い息をかけられ、赤ら顔を見せつけられる。そしてその度に思わずにいられなくなる。



(なんで貯金しないんだろう、健康を何だと思ってるんだろう)


 作業員たちは先に述べた漁師のように、ケが派手な分ハレも派手だった。それでも本日はマンション内のメンテナンス作業と言う比較的おとなしい作業だったから飲酒量も含め売り上げはさほどの事はないと思っていたのに、いつもと同じように痛飲し馬食している。それは体を使うからカロリーを失っているのはわかるとしても、正直前後の見境をわきまえて欲しくなる。

 一応大衆居酒屋ではあるが、ビール+酎ハイ+もつ煮込み半分だとしても自分の一日分の三食よりも高い金が飛ぶ。無論朝昼食分もあるから、トータルでは倍になるだろう。その事を思う度に、他人事なのに背筋が寒くなる。


 本当なら、注意したい。自分なりの真心をもって、作業員たちの行く末を慮りたい。それがもしぜいたくだとか言われても、ぜいたく者でも良かった。

 レジ係も知っている。この町を作った存在が夢想家と言われ、数多の嘲弄や妨害を受けて来た事も。だからこそ決して自分もあきらめてはならないと思い、自分なりに蓄財もして健康にも気を使っていた。その夢は言うまでもなく中央の塔に勤める事であり、倍率幾倍かわからぬ試験を突破するために仕事か勉強かの日々を送っていた。

「なんだそんな辛気臭い顔してさ、チューハイもう二杯くれよ」

「あの、その……」

「でも店長さんさ、うちらが金落とせば落とすだけこの子の給料も上がるんだろ」

「それは無論そうだけど」

 それでこっちが深刻そうな顔になると、思惑とは逆にますます財布を軽くする。ずっと配管とばかり向き合っているような存在、自分の行動が他人のためになっていると露ほども疑わない、素朴と言うより単純な人間たち。


 心配と言う名の上から目線じみた感情が薄れ、潜在的な恐怖心が沸き上がって来る。

 この恐怖心と戦うためにここまで持って来たと言うのに、どうして付きまとわなければならないのか。

 それこそ「あの連中」の思う壺だとわかっていても、レジ係の笑顔は生臭い物を抱えながら引きつってしまった。

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