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女性だけの町  作者: ウィザード・T
第四章 エンターテイメント
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得点?何それ?

「どうですか!」

「受け止めます!」

 一点一点、いや一打一打のたびに声が飛ぶ。お互いがお互いの事を慮り、素直に楽しみ合う声が。そんなコミュニケーションツールを通して、二人はお互いの事を知り合う。

 そこで外山瞳は自分が観光客である事をカミングアウトし、女性は自分が石田友里恵と言う娘を持つ母親である事とそこにいる娘の名前が芽衣子である事をカミングアウトした。

「外の町は大変なんでしょう」

「まあ一応一人暮らしですから」

「一人暮らし!」

「ああすみません!」

 一人暮らしと言う言葉に驚いた友里恵がボールを取りこぼすと、瞳はすぐさま頭を下げた。ギャラリーすらざわつき、改めて視線を瞳に向ける。

「いやすみません、一人暮らしだなんて危険でたまらないでしょうに」

「大丈夫です、特に災難など遭ってませんから」

「……え??」

 瞳が嘘を吐かないでいると、友里恵の舌と動きが止まってしまった。同調するように瞳も動きを止めるが、友里恵はバーから手を離し瞳に駆け寄って来た。

「あの、それ、本当、ですか……?」

「本当です、嘘じゃありません」

 噓じゃないと言う瞳の言葉は、厳密に言えば嘘である。

 この三ヶ月前、瞳の自宅のマンションにて巻き込み事故が発生、負傷者が出た。その一件により加害者と被害者がもめており、自室周辺が少し物騒になっていた。と言っても、ゴミ出しの際に足を滑らせて転倒し階段を転げ落ちた所に別の住民と衝突したと言うだけの話である。もちろん何もないと言うほどではないが、友里恵が期待したほどの事は起こっていない。


「いやー、本当に幸運な方なんですねー」

「そんな事ありませんよ」

 店員の平板な声に本気を感じるには、人並みの洞察力と集中力があれば十分だった。瞳はそんな事はないからと顔の前で手を振るが、年を重ねていればいるだけその言葉を真に受ける様子がなくなる。

「この町でも一人暮らしの女性はいるんでしょ?」

「それはもちろん!そのためにこの町があるんですから!決して何にも脅かされる事のない、真の平穏と平和のために!この町は作られたのですから!外山様のような美しい女性こそ、この町に住むべきだと私は思っております!私は、ですがね。ああすみません、全ては外山様が決める事ですから…………」

 外の世界で何が起きているのかと言う期待、と言うより前提ありきで話を進めている事が見えてしまった瞳が力のない魚の目になろうとすると、店員は余計に名残り惜しそうに食らいついて来た。

「私はあくまでも観光で来ましたから……」

「これは大変失礼しました……」

 瞳がその手を何とか振り払うと、店員たちからため息がこぼれる。ものすごく悔しそうな、悲しそうな声。裏表のないその顔が実にうっとおしく、それ以上に面倒くさかった。

「ああすみません再開します」

「はいどうぞ」

 そんな風にゲームを中断してしまったにもかかわらず、石田友里恵はまったく笑顔を崩さない。ある意味ゲームに真摯であり、それ以上に外山瞳と言う人間に真摯だった。


「改めてどうぞ!」

 外山瞳が何時間もかけて描くようなキャラも、複雑なボタンも、何もない。ただバーを左右に動かし、ボールを受け止めて打ち返すだけ。昔のゲームってのはそれこそこういう物だと言わんばかりに色以上の性質を持たない物体たちが数十インチ単位の筐体の中で動き回り、外山瞳と石田友里恵の勝敗を決めようとしている。

「ああしまった!」

「いやー、誰だってミスはありますから」

「次は行きます!」

「よっと!」

「そう言えば友里恵さんのお子さんって」

「小学四年生です」

 二人とも楽し気に動き合い、語り合う。厳しいはずの一撃を受け止められて瞳が苦笑いし、友里恵がしてやったりと言う顔になる。お互いが、お互いの健闘を称え合っている。もう、何球打ち合ったのかわからない。それほどに、夢中になっていた――――友里恵だけは。

 やっぱり、味気ない。

 確かに骨董品鑑賞と言う点では貴重かもしれないが、所詮はその規模のゲーム。原点回帰とか言えば体裁はいいがあまりにも範囲が狭く、人間が介在しなければ何もできない。不器用とか言うより、あまりにも不親切。これをどうやって現代のユーザーたちに売り込めと言うのか。自分が描いたキャラでもくっつけるか。でもそのキャラを手にするような人間たちがこのゲームの本質を見抜かない訳もない。それこそ搾取でしかない、個人的良心からして搾取などしたくないし、さらに搾取すればメーカーの信用問題にもかかわる。無料か、せいぜいがネット対戦を付けて小銭程度。そんな考えを抱く程度にはビジネスに染まってしまったわけではなく、退屈になっていただけだった。

「あの、これいつ勝負が決まるんです?」

「お二人話し合って、もうやめようと思ったら終了です。逆に言えばそうなるまでは無制限に楽しめます!」

 さっきから相当な時間が経っているはずなのにどっちが勝ったとか負けたとかもなく、得点の演出さえもろくにないようなゲーム。得点など自分で数えろ、何点取ったら勝ちとか自分たちで決めろ。それが答えだとしたら言うまでもなく怠惰、と言うか丸投げ。

「いや本当、楽しかったです。この辺りでお開きって事でいいですか」

「ありがとうございました外山さん、またお会いできるのを楽しみにしております!」


 戦いは、終わった。

 瞳はやや強引な大股で友里恵に近づき、頭を下げながら右手を差し出した。友里恵も瞳に向かって右手を差し出し、握手しながら深々と頭を下げた。

 その後はもうスタンディングオベーションの雨あられであり、瞳は頬を真っ赤に染めながらゲームセンターを去った。

 その後彼女は予定よりかなり早くホテルにチェックインし、取って来たぬいぐるみを並べながらデッサンに努めた。自分が普段描いている、美少女たちとの親和性を思いながら……。

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