観光客との対戦
1:手元のバーを左右に動かすとそれに伴い画面内のバーが動きます。
2:そのバーを使ってボールを受け止めてください。
3:バーの当たる場所によってボールの返り方が違います。
4:ボールを受け止めきれないと悲しいです。
それが、「ルール説明」の全てだった。
あまりにも単純明快、と言うか簡素。
「このゲームはいったいいつからあるんですか」
「十年前からです」
十年はおろか二十年、いや三十年でも効かないほど古めかしいゲーム。
それを堂々と自慢するのは、ある意味マニア向けとしか言いようがない。そんなマニアックなお楽しみを、小じわの目立つ店員は堂々とアピールしていた。
「二人仲良くお互い楽しみ合い、その上でお互いの健闘を称え合う。一人ではできない事も二人でなればできるのです。決してケンカの道具でもなければ、お互いがお互いを傷つけあうための道具でもないのです。その事をゆめゆめ忘れてはいけません」
そしてその上であくまでも二人用、対戦相手ありきだと言う事を店員は滔々と語り、コミュニケーションツールである事を何べんも何べんも述べた。
瞳はこの店員が元々は管制塔希望の人間であり、他の誰よりも努力して来てその夢を叶えたと言う自負の強い人間である事など知らない。ましてや、このゲームセンターが管制塔直属の子会社である事など全く知らなかった。
管制塔の人間となるためには、知識や能力だけでなく並外れた精神力が必要だった。もちろん下っ端ならばそのレベルも低くて済むが、幹部職員ともなると半端ではないレベルが要る。この町に不法侵入をたくらむ輩を退治する部署ともなるとそれこそ生中ならぬ集中力が必要だ。だがかつてそのせいで多くの人間が潰れてしまい、現在のような交代制になった。もちろんそういう存在に対して管制塔は優しかったが、中には激務と言うか崇高な使命に耐えられない自分への自己嫌悪により自ら退職を願い出たり閑職や子会社への異動を命じられたりする人間もいた。後者の人間たちがその後数年を経て復帰するか、そこに居ついてしまうか、あるいは本当にやめてしまうかは各人それぞれである。
とにかく瞳はそんな彼女に押されるように新品の骨董品ゲーム機にコインを入れ、奥の方へと回る。そしてそんな旅人と言うか異端者を出迎えるように子持ちの女がゲーム機に近寄り、コインを入れた。
「よろしくお願いします」
深々と頭を下げながら、瞳に近寄って来る。右手を前に出し握手を求めて来た彼女を拒む理由などないとばかりに右手を差し出すと、彼女は改めて頭を下げた。瞳が丁重に右手を握ってもなお、女性の頭の動きは止まらない。瞳がつられるように頭を下げた所で、ようやく必要なコマンドを入力された彼女の頭の動きは止まった。
「よろしくお願いします」
そしてようやくあるべき位置へと戻った彼女のゴールには、すでに赤い「ボール」が三個入っていた。そんなビハインドを全く気にする事なく、女性はバーを動かす。わざとなのか否かバーの端っこに当たったボールは左右の壁に当たりまくり、なかなか瞳の下へ来ない。そのボールを瞳は冷静に見つめ、正面から打ち返す。だがそのボールが4点目をもたらしてすぐ、瞳の手が止まった。
「………………」
対戦相手の女性の、冷たい目線。それだけで人を金縛りにし、勝利を得られるような強力な一撃。だがなぜか、コマンドを入力すれば一瞬で解除できそうに見えて来る。
ふと周りを見渡せば、大なり小なり似た類の視線をこちらに向けている。焦りはないが、不安は膨らむ。いったい何が正解か、瞳は画面から離れて答えを求めた。
「まだまだこれからですよ!」
「そうですね、お互い頑張りましょう!」
そして有効なコマンドを入力した事により、空気が一気に温まった。その数秒の間にお互い二点ずつ失っていたが、そんなのはどうでもよかった。
そう、どうでもよかったのだ。




